20-7
(アレ、一歩間違えたらセクハラよね……)
涼子は寅良の胸板を撫でまわす後期高齢者の女性たちの姿を眺めながらふと思う。
寅良は2メートルを越す長身に世界クラスのボディビルダーもかくやというマッチョボディの持ち主だった。俗に筋肉室の肉体を「逆三角形のような」と言うが、寅良の恵体はそんな物ではない。なにせ太腿の筋肉が太すぎてキチンと足を閉じることができないくらいだ。ふくらはぎの筋肉も肥大しているにも関わらずだ。これでは「逆三角形」どころか「X字形」と言うしかない。
そんな寅良の筋肉を触ってみたくなるような気持ちも分からなくはない。
戦前、戦中、戦後、そして現在と長い年月を生きてきた高齢者たちであっても彼ほどの肉体を見たことは無いであろうし、なによりも寅良の人柄がそれを許してくれそうなのだ。
涼子や他の職員の仕事上の指導を一言一句、聞き逃すまいとするような誠実な性格に、利用者たちの介助の際にはおっかなびっくりといった様子で恐る恐る力の加減をしている様子は微笑ましい。また普段の下町の住民に可愛がられているトラ猫のようなのんびりとした表情は誰にだって気を許させるだろう。
ただ彼の虎のような顔はさすがに見る者を恐怖させるのだが、先に述べたような彼を表情を見れば皆、安心してしまう。古代の化石から抽出されたサーベルタイガーの遺伝子から造られたというだけあって、現代に生きる猛獣の虎とは毛の柄がいくらか違うのも周囲の人の恐怖心を薄れさせるのに役立っていただろう。
そんなわけで宇佐とは違うような形で寅良も利用者たちに可愛がられていた。
食事の際に社員食堂で一緒になった時に聞いた話では、隣の児童養護施設で働き始めた妹の伽羅も同様に馴染めているという。「猫のお姉ちゃん」と子供たちに呼ばれる伽羅を通りがかりに見かけたこともある。
まあ寅良の場合は、彼を見つめる女性たちの目の色に性的な感じを受けるのは気のせいか。裸でうろついていた頃の宇佐を見た男性利用者たちは顔を赤くして目を逸らしてしまったのだ。なおさら奥ゆかしいであろう戦前、戦中生まれの女性たちが新人職員を性的な目で見るわけが無い。うん。きっと気のせいだ!
ただ涼子の先輩職員である多賀谷さんまで寅良の筋肉を触ってキャッキャしてる利用者を羨ましそうに見ているのはどうかと思うが。
寅良や伽羅だけではなく、残りの2人も新しい職場に馴染めているようだった。
事務所に涼子が用事があって行った時には無堂がパソコンのキーボードをブラインドタッチしながら声を掛けてきてくれたし、すでに電話応対も板に付いた感じであった。
施設課に配属された熊沢には食事の時ぐらいにしか会う機会が無かったが、彼は彼で可愛がられているようだった。なんでも法人の広大な敷地の芝生を刈るのも施設課の仕事らしいが、彼が慣れない肩掛け式の草刈り機を誤って自分の足に当ててしまって円盤状の刃を駄目にしてしまった事があったそうだが、刃を壊してしまったことよりも自分の足を心配してくれたことが嬉しかったと言っていた。まあ、戦場に出ていない職員にはハドー獣人にそんな心配をする必要がないとは言っても無駄だろう。涼子ですら機銃の徹甲弾を弾いていく光景を夢かと思ったほどだ。
「多賀谷さん、涼子さん、ちょっといいですか?」
囲みを抜け出した寅良が1冊のバインダーを持って2人の元へ近寄ってくる。
そのバインダーの中身は職員なら誰でも知っている。利用者の健康状況や些細な変化を記録して情報を共有するための介護記録だ。
「なに? 寅良君」
「ええ、井上さんの介護記録なんですけど、西さんみたいに失語症とかの記録は無いんですが、一言も口おを聞いてくれないんですよ……」
「ああ、それ、確か……」
多賀谷さんがページをめくって数日前の記録を見せる。
「ええっと、これね。井上さん、ハドー総攻撃の時に気合を入れるためとか言っちゃって、お医者さんから厳重に止められてるお酒を飲んだのよ。それがバレてお医者さんに怒られるわ、連休中に来た曾孫さんには泣かれるわ。それでご機嫌ナナメなのよ……」
「あっ……。確かに書いてますね。スイマセン。いや、俺が嫌われてるのかと思って……」
自分の確認不足を咎められたわけでもないのにシュンと寅良の耳が折れ曲がってしまった。
涼子は自分が不真面目なつもりはまったく無いが、それでもそんな寅良の様子を見て自分も見習うべきだろうな、と思う。
気落ちした様子の彼を多賀谷さんが努めて明るい様子で励ましていた。
「大丈夫よ! 井上さんはそんなケツの穴の小さな男じゃないから! ここにいる他の皆もそう! それに仕事を始めて4日で皆の顔と名前を憶えているだけでも大したモンだわ! 私なんか、この仕事を始めた頃なんかお年寄りの顔が皆、同じに見えて名前を覚えるのも一苦労だったのよ!」
明るい調子で言っているせいで自然と声が少しだけ大きくなるが、けして利用者に聞かれていい話ではない。
だが急に多賀谷さんの声のトーンが落ちる。
「……ただねぇ。井上さん、いつまでもああやって人と接触を避けてると、そのまま身体機能が落ちちゃうんじゃあないかって心配なのよ……」
それは涼子も事務所のミーティングの際に聞いていた。
後期高齢者の身体機能が落ちる。それは免疫機能が落ちて病気にかかりやすくなったり、最悪の場合はそのまま寝たきりの状態になってしまう事だってあるのだ。
今現在、井上さんは普通に寝起きして、食事を用意されれば食事をする。お茶を出されればお茶を飲む。その他、着替えや洗顔など職員の介助を拒否することも無い。だが口を聞いてくれないのだ。
「ごほぉ!! ごふっ! ごほっ!?」
噂をすればなんとやらか。
井上さんが飲んでいたお茶で咽て苦しそうにしていた。
それを見て多賀谷さんが涼子と寅良の背中を押す。
「さっ! 折角なんだから、井上さんと距離を詰めてきなさい!」
寅良が背中をさすってやり、涼子が飲みかけの湯呑を零さないよう井上さんの腕から離れた位置へ動かす。
「井上さん、大丈夫っスか!? 井上さん!?」
「大丈夫ですか? 井上さん?」
涼子が屈んで井上さんの顔を確認する。
呼吸困難にまでは陥っていないし、チアノーゼも出てはいない。
幸いにも徐々に呼吸は平常に戻ってきている。大分、楽になったのか井上さんは大きく背伸びをして深呼吸をする。大事には至らなくて何よりだ。
「あ~! 死ぬかと思ったわい!」
なんと、ここ数日、職員たちは井上さんが何も喋らないことに苦心していたというのにあっさりと喋ってしまった。
涼子がチラリと井上さんの後ろの多賀谷さんを見ると、何とも言えない憮然とした顔をしていた。
「すまんのう。涼子ちゃんに猫の兄ちゃん」
「だ、大丈夫ですか!?」
「あ~…………、うん。大丈夫じゃ! 涼子ちゃん、スマンがお茶を一口……」
「ゆっくり飲んでくださいね」
「ああ、何度も同じ間違いはせんわい」
涼子が湯呑を渡してやると、井上さんは本当に少しだけ、体の調子を整えるように、体の具合を確認するようにゆっくりと番茶を飲み込んでいった。
「そういや、猫の兄ちゃんとは初めて話すのお。名前は何て言うんじゃ?」
「寅良っス。島田さんに名前を貰いました」
湯呑を渡した涼子に笑顔で会釈を返して、井上さんの興味は寅良に注がれていた。
涼子は自分をどこにでもいるような普通の女の子だと思っていたので、自分よりも獣人に興味を持つのは当たり前だろうとそのことには何も思わず井上さんが吹き出したテーブルの上のお茶を布巾で拭く。
「トラかあ! そういや昔、見たわい!」
「そうなんですか?」
「あれは確か、シベリアだったかのう……。ああ! そうだ! 寅良君みたいな毛色の虎でのう! お前さんとは違って、こう、上顎からデカい牙が2つ生えとったわい!」
ここ数日の分を取り戻すように一気に饒舌になる井上さん。
ん?
自分の両手を頬に付け、下向きに突き出した曲がった両の人差し指でシベリアで見た虎とやらの真似をする井上さん。その様子を見て涼子はある事に気付く。
(さ、さあべるたいがあ!!?? いやいやアレは絶滅した動物で、でも寅良君の毛色は普通の虎とは似てないし……)
結局、涼子はそんな事はどうでもいい事だと思うことにした。
1万年前に絶滅したハズの大型肉食動物がシベリアで生きていたことよりも、井上さんが口を開いてくれたことを喜ぼう。
そういうことにしよう!
そういうことにした!
………………
…………
……
「寅良君の手は大きいのぉ!」
「ハハ! 無駄に図体ばかりデカくて参るっスよ」
「そうかの? でも、そのおかげでお前さんがワシらを大事に扱ってくれるのがよく分かるぞい?」
「そうっスか?」
「そうじゃよ! ワシの背中をさすってくれてた時もそうじゃ。まるで壊れ物を扱うように気を張っておったじゃろ? 優しい男じゃの、アンタは!」
「優しいっスか……。俺、そんなの初めて言われたっス」
いつものんびり朗らかな顔をしている寅良の表情に憂いの色が覗く、
さらに井上さんは続ける。
「そりゃ、お前さんが今までそういう世界にいたからじゃ。奪う事、殺す事こそ美徳、そういう世界にな。そういう世界では優しさこそ悪徳よ。そうじゃろ? お前さんたち海賊が何か奪って来なけりゃ、お前らの世界は皆揃って飢え死にじゃ!」
「……そう、だな……」
「でも、こっちの世界に来て寅良君は知った」
「何を?」
「人を思いやることの意味を」
「…………」
「今まで知らなかった事が悪いわけじゃあない。そりゃ、そうじゃろ? 自分が腹を空かせておる時に人が笑っとるとこ見てもイラっとしかこんわな。ワシもお前さんも聖人じゃあないしな。でも、今はどうじゃ? 人が笑っとるところを見てどう思う?」
「俺の言語能力に無い感情なんスけど、こう……、胸の辺りが……」
自分の胸の辺りを掴んで目を細める寅良。
人間以上の知能と高い知性を持つ獣人が、人間と同じように悩む。その事が涼子は意外だった。
井上さんはそんな彼の様子を少しだけ眺め、彼の胸を掴む腕にそっと自分の手を添えてやる。いつもは陽気な井上さんだがこの時の彼は長い人生で得た何かを弟子に教える仙人のようでもあった。
「止めとこう。その感情を言葉で言うのは陳腐になるぞ?」
「そうっスか……」
「そうじゃ。だが、ワシら地球人はその感情を大事にできる者を『優しい』と言うんじゃ。だからお前さんは優しい」
「俺は優しい……」
(ええ……。なんか良い事、言ってるみたいだけど、そう言うアナタは禁止された酒を飲んで怒られたりして、つむじを曲げて数日間、ダンマリ決め込んでたじゃないですかぁ……)
だが涼子にも思った事を胸の中に留めておくだけの分別があった。
井上さんと寅良が話をしている所に薫が飛び込んでくる。
「涼子ちゃん、大変!」
「あ、薫さん。どうしました?」
「なんか不法侵入の人たちを皆が捕まえたって……」
「不法侵入って、法人本部に来たお客さんか誰かがこっちに紛れ込んだんじゃ?」
「いえ、それが双眼鏡やら大っきなマイクとか持ってて、何かしようとしてたのはホントらしいの!」
これまたキナ臭くなってきたな、と思うと同時に涼子は、それで私にどうしろと? という気持ちになっていた。
不法侵入者がいたのは分かった。だが、何故、警察に引き渡そうという話にならない? と。
何も言えずにいた涼子に代わって薫に聞き返したのは井上さんであった。
「薫ちゃん?」
「うわっ! 井上さん、喋ったァ!?」
「そりゃ喋るわい! それより、侵入者“たち”というのは複数ということか?」
「は、ハイ! 4人の男の人たちです!」
「……そうか。涼子ちゃん、行ってきなさい。心配かけたがワシは大丈夫じゃ……」
「いや、だから警察を」と喉から出かかったのを我慢して、しょうがないので薫に急かされるように行く事する。ここでまた井上さんに機嫌を損ねられても面倒だ、と。
侵入者とやらが連れていかれたという多目的ホールへ向かう途中、涼子は薫から事のあらましについて説明を受けていた。
「皆、“お姫様”が来てから張り切っちゃてるでしょ!? それで、なんか自主的に施設の警備とかもやってたみたいなのよ!」
「そういえば女性の方々は側仕えみたいに控えて世話を焼いてるけど、男の人もなんかやる気を出してましたね」
「それで、そのメイド役の女性が林の奥で何か光を反射する物があるって言うから、小銃分隊の人たちが見に行ったらビンゴってわけ!」
「小銃!? ライフルなんか持ち出してんですか!?」
「いやいや、逃がさないようにいつもの分隊編成で包囲して捕まえたってだけで、銃なんか出してないわよ?」
そうこうする内に多目的ホールに辿りついた。
正直、涼子は自分が何をするべきか今だに分かっていないのだが。
多目的ホールの一番良い席、テレビがもっとも見やすい席にはいつものようにラルメが座り、彼女の前には4人の男が床に正座させられていた。しかも時代劇の御白洲のシーンのようにグルグルにロープで縛られた状態でだ。
縛られている男はそれぞれ、最近はあまり見ないような線の太いロックミュージシャン風の髪を逆立たせた男。鋭い目つきを隠すように眼鏡をかけたインテリ風の男。この状況ですら微笑んでいるように見える糸目がちの男。短髪で見るからにぶっきらぼうそうな男。
見た目の年齢こそ似通ってはいるが、見た目もバラバラ、服装もバラバラ。
どいつもこいつも一癖二癖ありそうな男たちだが、涼子には不思議と悪人には見えなかった。
そしてラルメと4人を取り囲むように大勢の施設利用者たち。
冷めた目付きをした者もいれば、目尻を釣り上げている者もいる。
「あの! これは一体、どういう事ですか!?」
意を決した涼子が声を振り絞る。
自分の言葉に力があるとは思ってはいなかったが、それでも声を上げなければ4人組が袋叩きにされそうな勢いだと思ったのだ。
だが、意外にも皆は涼子が入れるように囲みを開けてくれた。
そして涼子の姿を見て声を上げた4人組の言い出した事はあまりにも予想外の事だった。
「……ちぃっ!!」
「マズい! 君、早くここから逃げろっ!!」
「この施設の人たちは洗脳されている!!」
「逃げて、警察に連絡してくれ!!」
口々に涼子に逃げるよう言うと4人は急に立ち上がり、涼子の方へ向かって突進してきたのだ。
4人はそれぞれ二手に分かれて涼子の両脇の高齢者に体当たりしようとする。
まるで涼子が逃げようとした時に彼らに囲まれるのを防ぐように。
だが……。
「ぐっ!?」
「かはっ!」
「痛~!」
「……チッ!」
さすがに両腕と体を纏めてグルグル巻きにされていては彼らの実力を発揮できるわけもなく一瞬で取り押さえられてしまった。
「…………クッ、クッ、クッ! ククッ! クッ! だ、駄目だ! 我慢できん! 苦しい!」
ラルメはその様子を見て両手の袖で顔を隠して笑い出してしまった。肘を付いているせいでテーブルまで小刻みに震えていた。
「だ、誰ぞ、この状況は何か教えてたもれ!?」
「さ、さあ? 私も来る途中に薫さんに聞きましたけど、不法侵入者って話じゃないんですか?」
ラルメの前のテーブルに置かれている高倍率の双眼鏡と指向性収音マイクを見るに薫の言ってたことは間違ってはいないのだろう。ただ、多分に皆の憶測が含まれているだけで。
1人の男性利用者が声を張り上げる。
「盗撮魔じゃ! 姫様があまりにも麗しいから盗撮しに来たんじゃ!」
盗撮? だが彼らの持ち物の中にはカメラのような物は無かったが? デジタルカメラの高性能化が進んでいるとはいえ、施設と林の間には結構な広さの駐車場がある。盗撮するにはそれなりの器材が必要になるハズだ。
第一、それでは先ほどの彼らの言っている事が理解できない。
「お前、洗脳するにしても自分の事を『あまりにも麗しい』って……」
「……なんか、お前が可哀そうな奴に思えてきたわ……」
「洗脳しなくても自力でイケそうなのにね~」
「なんで、お前、そんなおツムでテロリストやってんだ?」
口々に思い思いの事を言い出す侵入者たち。
「洗脳」という言葉はさっきも聞いたが、今度は「テロリスト」と来たか……。
それに困惑したのがラルメだった。細い眉を明らかに顰めて侵入者に聞き返す。
「わ、妾がテロリストぉ?」
そこに現れたのが宇佐だった。
口元の毛が黄色く汚れているあたり、地域包括支援センターのケアマネージャーがお土産として持ってきてくれたプリンでも食べていたのだろう。
そして、またいきりたつ侵入者たち。だが今度は宇佐を逃がすためではなく宇佐に襲い掛かった。
「ハドー怪人!? クソが、残党が1枚噛んでやがったか!」
ロッカー風の男がカポエイラ風の蹴技を宇佐に見舞う。ただ腕が体ごと縛られたままなので跳んだ勢いでブレイクダンス式に頭頂部で回る。
「大河!? アナタ、そんな事をしてたらハゲてしまいますよ!?」
「ハゲたら何だ!? 髪なんかなくても勇気があれば何でもできる!」
「びぇ~~~!! 涼子しゃ~ん! この人が意地悪するぅ~!!」
「コノヤロ、宇佐ちゃんに何してくれてんだ!?」
「太ぇ野郎だ! シめちまえ!」
「ホント、悪い奴らだよ!」
「……地球は愉快じゃの~!」
(……誰か、誰かこの状況を何とかしてください……。もう……、しっちゃかめっちゃかです……)
あるいはチハの主砲でもブッ放してみればこの状況も治まるだろうかとも思う。だが残念ながらそんなわけにもいかないので自分だけでもしっかりしなくてはと頭をフル回転させる。
とりあえずは喧騒を楽しそうに眺めているラルメからだ。
「ちょっと! 姫様!」
「なんじゃ? 涼子は加わらんのか?」
「加わるかっ! そうじゃなくて、姫様ってテロリストなんですか?」
「そんなわけがなかろう。地球じゃあれか? 妾たちが狐狩りでもするようにテロでもやって余暇を過ごすのか?」
「んなわけが無いじゃないですか……」
「妾だってそうよ。むしろ妾はテロリストにクルーザーを取られた側よ!」
「分かりました。姫様を信じます、ところで……」
「なんじゃ?」
「この状況を収める方法については?」
「知らん!」
「分かりました……」
ふう、と溜め息を1つついて涼子は窓辺に移動する。
ハドー総攻撃の頃から涼子は自分の中で何かが変わっている事に気付いていた。
別に超常の力に目覚めただのそういう話ではない。
心持ちの話だ。
「覚悟」とか「決意」とか簡単だろう。だが、それも井上さんなら「言葉にしては陳腐になる」とでも言うのだろうか?
ハッキリしている事は1つ。
誰かがこの状況を止めなくてはいけない。
今、暴れているのは両腕を縛られている4人の若者たちと、特別養護老人ホームに入居しなくてはいけないほどの高齢者たち。
止めなくては誰かが怪我をする。そして誰かが悲しむ、涙を流す。
それは嫌だった。
では、どうやって?
こんなに揃いも揃ってヒートアップしては言葉で沈めるのは難しいだろう。
なら、こうするまでだ!
「フンッ!!!!」
涼子は思い切り窓ガラスをブン殴っていた。
効果はテキメン。
ガラスの割れる音に暴れていた皆は一瞬にして静まりかえっていた。
「……静かにしてください。落ち着いて話をしましょう……」
「「「……はい……」」」
以上で20話は終了です。
え?
ブレイブファイブVS天昇園ってタイトルなのに戦ってない?
そんなん5人中、4人が捕まった時点で負けでよくないスか?




