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引退変身ヒーロー、学校へ行く!  作者: 雑種犬
第16話 ゴールデンウィーク後半戦初日
65/545

16-5

 天昇園の戦車隊を確認した後、山間部に向かって飛行する僕に管制官から通信が入る。


「デスサイズ、こちら災害対策室管制」

「はい。こちらデスサイズ」

「北町商店街にて異星人同士が戦闘しているとの通報が入りました。至急、向かってください」

「了解。現場到着まで……、2分程度掛かります」

「了解しました。恐らくは警察の到着よりも石動さんの方が早いと思われます。幸運を祈ります」


 異星人同士の戦闘とは……。

 判断が難しい展開が来たなと思う。

 戦闘中の異星人とやら、どちらかは地球人の味方なのか。それとも、どちらも地球人の敵で侵略者同士の縄張り争いなのか。

 僕に攻撃を仕掛けてきたら敵、とも言えないと思う。戦闘中の混乱の最中で僕を敵と誤認する恐れもあるからだ。そして僕の武器は異様に殺傷能力が高いので相手を生かしたまま捕らえるというのは難しいし、悠長に近距離で相手が敵か味方か確かめてられるほど僕の装甲は厚くない。

 さて、どうしたものかな……。とりあえず現場に行ってみよう!


 H市北町商店街。僕が住んでいるアパートの近所の中通り商店街とは少し雰囲気が違う。何ていうか、寂れたというか、時代に取り残されたというか。昼近いにも関わらず幾つかの店舗はシャッターが閉じられたままで、そのシャッターに浮いた茶色い錆が余計に僕に陰気な印象を与える。

 その北町商店街の中ほど、少し裏路地に入った所にその店はあった。


『立ち呑み 気楽』


 おでんや焼き鳥、モツ煮などとお酒を売るお店で、店内に席は無く、客は路上に並べられたテーブルで飲食をするスタイルの店らしい。店名に「立ち呑み」と書いてあるが瓶ビールのケースに段ボールを敷いて座ってもいいらしい辺り、どこか昔懐かしのテキトーな感じを覚える。

 その店の前で2人の異星人がビールケースで殴り合っていた。……戦闘と言うよりは喧嘩か? コレ?


「え~い! 話の分からん奴だ! 今こそ我々の科学力で地球人に借りを返す時ではないか!?」

「話の分からんのはそっちや! ええか! 困難を自分たちの力で乗り越えてこそ、地球人の成長はあるんや!」

「貴様には人情というものは無いのか!」

「そうやって自分でできる事も取り上げてやってやるって方がおかしいわ!」


 なんぞ、コレ?

 僕が予想していたのは1.どちらかは地球人の味方、2.両方とも地球人の敵。だが正解は予想外の3.両方とも地球人の味方。

 1人はカニの様な灰色の甲殻に包まれた3本爪の異星人で、標準的な日本語を話しているが堅苦しい気もする。一人はイルカのようなツヤのある黒い肌の持ち主で、黄色く発光する大きな単眼が特徴的だ。単眼の方も日本語を話しているが妙な訛りがある。2人とも身長は2メートル無いくらいだろうか。


「あら? 貴方、ヒーロー? ごめんなさいね。面倒掛けて……」

「ひゃあ!?」


 いきなり後ろから声を掛けられてビックリした!

 どうやら店はL字型になっていたようで、喧嘩している2人に気を取られて死角にいたもう一人に気付かなかったようだ。


「…………!」


 声の主のいる後ろを向くと、そこには3ナンバーの1ボックスカーよりも大きな胴体に昆虫のような脚が8本も生えたような大型の異星人がいた。スズメバチのような黄色と黒の警戒色の体色に昆虫のような甲殻、緑に光る3つの複眼。胸元から出した幾本もの触手を1カップ酒の瓶に突っ込んでいる。

 喧嘩している2人は2本の足と2本の腕を持った人型と言えるものだったが、正直、この大型異星人は異星「人」と言うよりは宇宙怪獣と言ったほうがしっくりくる。


「あら? この子、固まっちゃったわね。驚かせちゃったかしら?」

「ミナミちゃん。アンタを初めて見て驚かない奴ぁいないよ」


 僕を見て首を傾げる宇宙怪獣に店のオバちゃんが声を掛ける。どうやら、この宇宙怪獣はミナミというらしい。


「ほら! アンタも大丈夫かい!」


 店のオバちゃんが醤油ベースのいい匂いのする大鍋を掻き混ぜながら僕に声を掛ける。


「……ええ。えと、あの異星人同士が戦闘してるって通報があって来たんですけど……」

「ぷっ!」


 僕が来た理由を告げるとオバちゃんは噴き出してしまった。


「コイツらの事を知らない奴が通報したのかねぇ……」

「あら? ごめんなさいねぇ。あの2人もお酒を呑むとたまにああやって喧嘩しちゃうのよ……」

「そ、そうなんですか?」

「まあ2人とも本気で殴り合ってるわけじゃあないから安心して。本気で殴り合ってたらビールケースなんてすぐに壊れちゃうわ」


 それもそうか。一般的に異星人は地球人を大きく上回る身体能力を持つと言われてるものね。


「えと、近隣住民の方も不安に思われると思うので……」

「それもそうよね。ちょっと待って!」


 ミナミさんは話の通じる人で良かったと思う。切に。


「ジュン! チョーサク! 貴方達、いつまで馬鹿やってるの! お巡りさんが来てるわよ!」

「「……!」」


 ミナミさんが今だ殴り合っている2人に大声を上げると、2人はピタリと動きを止めて僕たちの方に顔を向ける。


「ミナミさん。彼は警察官ではなくてですね……」

「おっ! デスサイズやんけ!」

「ジュン! 人の揚げ足取るのは止めなさい! チョーサクも初対面の人に馴れ馴れしい言葉を使わない!」


 え~と、ミナミさんの言葉からするとカニっぽい方がジュンさんで、大きな単眼の方がチョーサクさんかな?


「あ、ど~も~。お楽しみ中に悪いんですが、もう少しお静かにお願いできませんか?」

「まったく、デスサイズって言ったら、まだ子供でしょ!? 私たちの10分の1も生きてない子に何を言わせてるんだい!」

「ふむ。少々、盛り上がりすぎてしまったようだな……」

「堪忍やで!」

「チョーサク! 謝る時にユモ星系訛りは止めなさい!」


 ミナミさんに叱られて2人は振り上げていたビールケースを地面に置き、それに散らばっていた段ボールを敷いて座る。


「スマン、スマン! デスサイズの兄ちゃんも悪かったな!」


 チョーサクさんは何とか訛りとやらを改めるつもりは無いようだ。


「いやな。先日、海賊の連中を何体か倒したらな。市役所の災害対策室とかいう所の役人が来て、ヒーローとして登録してくれたら報奨金が出るというのでな。思わぬ臨時収入につい気が緩んでしまってなぁ」

「まあ、夜勤明けにここに飲みに来るのはいつもの事なんだけど……」


 臨時収入に浮かれているということは登録したということか。


「……ってことは同業者さんですか?」

「せやで!」

「じゃあ、これからよろしくお願いします」

「ご丁寧にありがとうね。……まぁ、登録証がまだ来てないから厳密にはまだ違うのかもしれないけど……」

「ほな、よろしくな!」

「うむ。こちらこそよろしく頼む」


「それでな。そのハドーとかいう海賊とやらに世話になっている町を荒らされて、我ら微力と言えど賊徒の排除に協力したら、先ほど言ったように市役所から役人が来てな。我らが地球人に認められたような気がして嬉しくなったものでな。もっと地球人のために出来ることはないか話していた所よ」

「せや。ただ、ちょっと方向性がな」

「ああ、ありがとうございます」


 ミナミさんもそうだが、ジュンさんとチョーサクさんも友好的な宇宙人のようだ。最初、ビールケースで殴り合っていたのを見た時には野蛮な異星人かと思ったけど。


「まあ、地球人から見ればビックリするわよねぇ~。道具使って喧嘩してたら」

「それもそうだな」

「でも、あれやねん。ワイらの場合、素手で殴りあってた方がヤバいねん! 例えるなら、……そうやな。ハリセンでドツキ合ってるようなもんや!」


 なるほど。そういう見方もあるか。現にジュンさんもチョーサクさんも怪我をしてる様子は見られない。


「そういうことなら……。でも気をつけてくださいね」


「ホントよねぇ……。ん? オバちゃん! 1カップ、もう1杯!」


 ミナミさんが店のカウンターの方に触手を伸ばす。


「あいよ!」


 オバちゃんも慣れたものでカップ酒を渡すと、カップに触手が巻き付いてミナミさんの方へ戻っていく。


「兄ちゃんも食うか?」

「この店の料理は見てくれは悪いが、結構、イけるぞ?」

「いえいえ、仕事中ですので……」


 チョーサクさんは小丼に入れられた牛スジの煮込みを食べている。カメラのシャッター状の口を開けたり閉めたりする様子は古代のアノマロカリスを思わせる。

 ジュンさんは両手とも重機のような3本爪だが、シオマネキのように左腕は大きく、右腕は小さい。食事などの日常生活の際は右手を使っているのだろう。日本人からすれば片手だけで食べるのは行儀が悪く見えるが体の構造上、致し方無いだろう。彼は右手の爪で焼き鳥の串を掴んで美味しそうに頬張っていた。


「ところで先ほど夜勤明けと言ってましたけど、何のお仕事をされてるんですか?」


 彼らが飲み屋で飲食したり、市からの報奨金で喜んだりと日本の経済に馴染んでいるのは確実で、彼らのような異形の異星人はどのような手段で収入を得ているのか疑問に思った。


「うん? ワイら3人とも警備員の仕事やで!」

「まあ、見てくれが地球人とは違うから商業施設には行けんがな。今は工業団地に行っている」

「ハドーが攻めてきた時もそこだったわね」

「バチコ~ンかましたったわ!」


 そう言ってチョーサクさんは目をピカピカ光らせて、ジュンさんは左腕の爪をガチガチ鳴らす。


「あ~、大変でしたね~」


 確かハドーが奪った半永久機関を所有していたヴォルト工業の研究施設も工業団地にあったハズだ。まさかハドーの連中も異星人のガードマンがいたとは思わなかっただろう。


「……おっと、それじゃ僕はそろそろ失礼します」

「あら? もう行くの?」


 ミナミさんは半分ほど飲んだ1カップの中にオバチャンから牛スジ煮込みの煮汁と大量の一味唐辛子を入れてもらっていた所だった。


「ええ、哨戒飛行の途中でしたから……」

「まぁ、それなのに手間を取らせちゃったわね」

「うん? もう行くのか?」

「ほな、またな~!」

「はい! それじゃ、また」


 そう言って店から少し離れて飛行を再開する。

 3人の気のいい異星人たちは僕が見えなくなるまで手を振ってくれていた。


 うん。いい人たちには違いない。

 違いないんだけど。

 何て言うか。どっと疲れた気がする。本当に大事じゃなくて良かった!


以上で16話は終了です。

ではまた。

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