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引退変身ヒーロー、学校へ行く!  作者: 雑種犬
第16話 ゴールデンウィーク後半戦初日
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16-4

「石動さ~ん!」


 哨戒飛行の最中、市中心部に近いHタワーに寄った僕は何者かに声を掛けられる。

 タワーの基部、ビルの屋上部分にいた僕は声の主を探すが中々、見つからない。


「「「お~い!」」」


 おっ! 下か!

 最初の声の主は神田君。スティンガータイタンの操者の少年だった。彼はビルの向かいの歩道で僕を見つけて声を掛けたようだった。タイタンと友人らしき少年2人も一緒だ。

 屋上から飛び降りて彼らの元へ向かう。


「神田君、久しぶり!」

「石動さんも無事で何よりです!」


 心なしか神田君はいつもよりも元気そうだった。まあゴールデンウィークに友達と出かけてるんだから元気で当然か。


「神田君もタイタンも何事も無かったようだね」

「はい!」


 ゴールデンウィークの前半はハドーの残党の処理に僕も神田君も従事していたのだが、空を飛べる僕と飛べない上に鈍重なタイタンでは割り振られる現場が被らなかったために実際に会うのはハドー総攻撃の時以来だ。

 神田君は怪我一つしていないようだし、タイタンも新しく塗られたペンキのムラがある以外は変わりない。


「ところで何かあったんですか?」

「特にはないけどアルバイトってヤツ?」

「ん? ああ! 当直の哨戒ですか?」

「うん、そう」


 僕がそう言うと神田君はホッとしたような顔をする。


「神田君はこれから遊びに行くの?」

「はい! 友達の家に」


 そりゃ今から遊びに行くのに僕が変身してうろついてたら何かあったのかと思うよね。


「ああ。でも、この辺は瓦礫の撤去でトラックやら重機やら多いから気をつけてね!」

「はい!」

「まっ! その瓦礫を作ったのは僕たちなんだけどね!」

「ハハ! 石動さんとアーシラトさんとマックスさんと後、魔法少女の組長さんでしたっけ?」

「うん。山本さんって言うんだけどね」


 ふと神田君の後ろにいた2人の少年に見覚えがある事に気付き、記憶を辿ってみると僕と神田君が初めて会った時に彼を囃し立ててからかっていた子だと思い出した。

 僕は屈んで神田君の耳元まで顔を寄せて(僕は変身すると身長205cmなのだ!)小声で聞いてみる。


「あの子たちとは仲直りしたの?」

「はい。あいつらもあの時、大H川中に避難してたみたいでタイタンの事を見直したって言ってましたよ」

「ああ! 明智君もタイタンの事は『お上品な精密機械とはワケが違う』って褒めてたよ!」

「そ、それって褒められてるんですか?」

「……多分ね」


 ちょっと自信無いけど。


「それじゃ、あんまり長々と話してたら後ろの2人に悪いから僕は行くよ」

「あ、それじゃ当直、頑張ってください!」

「うん。じゃ、またね!」


 神田君だけではなく、後ろの2人にも手を振ると彼らも溢れんばかりの笑顔で手を振ってくれる。

 それから彼らとは離れた所で飛行を再開する。




「管制室、管制室。こちらデスサイズ。これより哨戒飛行を再開する」

「了解」


 簡潔な管制官のお姉さんの返答に満足した僕は対地高度400メートルで西へ向かう。美人系の声だったな。

 高度を高く取りすぎないのは民間機とカチ合うのを避けるためと、市民にヒーローが仕事してる所を見てもらって安心感を与えるためだそうな。仮に高度1万メートルを飛んでも市民には分からないだろう。

 どうでもいいが、僕の電子頭脳内の航行コンピュータは高度をメートルで表示する。これは僕が常識知らずの侵略オタ(ARCANA)に改造されたためで、通常の航空機は高度をft(フィート)で計算する。そのため一々、別のタスクで計算しなおさなければならないので面倒極まりない。

 高度が低い分、単位時間当たりの探査範囲は狭くなるがこの辺はすでに哨戒済みだ。とっとと西の山間部へと行こう。


 天気が良くて緩やかな上昇気流を感じながら空を飛ぶ。惜しむべくはその気流をセンサーで感じ取っている事だ。これが素肌だったらどれほど気持ちがいいだろう。

 ん?

 市道を西に進む3輌の装甲車両を発見する。戦車? 装甲車? 砲塔付きだから戦車か? いや、歩兵戦闘車って可能性もあるか。僕には見覚えの無い形式の車両だけど自衛隊かな?


「管制室、こちらデスサイズ」


 よく分からないので災害対策室の管制室に聞いてみることにした。危険性が高いなら話は別だが、向こうは対空火器すらあるか分からないし。


「どうしました?」

「市道を神奈川方面に進む装甲車両を発見しましたけど何かありましたか?」

「いえ、こちらには何も上がってきてませんが自衛隊では?」

「それが自衛隊の現行車両では無さそうですが……」

「……?、その車両の形式は分かりますか?」

「え~と……」


 電子頭脳のアーカイブを参照するが、該当の車両は中々に見つからない。


「…………」


 戦後車両のデータが終了したが該当は無し。後は戦中戦前の車両だ。んなアホな!

 だが僕のセルフツッコミも空しく、戦中戦前のデータアーカイブを検索して0.38秒、あっという間に該当車両が見つかる。3輌の一致率はそれぞれ89%、98%、100%。一番、一致率の低い車両にしても僕の目からは2番目の車両と違いはよく分からない。恐らくは間違いないだろう。だが正直、信じがたい結果だった。


「あ~、その……」

「どうしました?」


 自分でも信じられない事を言って馬鹿にされるのではないかと少し恥ずかしくなる。


「いえ、件の車両なんですけど……、2輌は九七式中戦車改、1輌は九五式軽戦車と出ました。九七式の方は正式外の改良がされているようです」


 そう。僕の足元を進む戦車は大日本帝国陸軍の戦車だったのだ。もちろん自衛隊の兵器ではない。九七式改、九五式ともに自衛隊の正式兵器になった記録はないのだ。九七式なんて「中」戦車なのに、自衛隊の前身である警察予備隊が装備したのは米国製のM4E8中戦車とM24軽戦車だ。M4は同じ中戦車だからともかく、M24は「軽」戦車。つまり九七式中戦車は米国の軽戦車以下の存在だと判断されたということだ。まあ九七式は敗戦国の兵器だけに数が揃わないというのもあるんだろうけど。

 ただ警察は戦後数年間は砲塔を外してドーザーブレードを取り付けた車両を配備されていたようで、東京で大雪が降った年に活躍したという記録が残っている。

 だが目の前の車両は立派な砲塔がついて細長い主砲まで取り付けられている。

 突如、目の前に現れた旧軍の亡霊。これは何やら事件の香りがするぞ!


 だが管制官の言葉は僕の予想を裏切る物だった。


「ああ! それなら問題ありません。その戦車は天昇園の物でしょう」

「天昇園?」

「はい。特別養護老人ホーム天昇園。まあ、よくある老人ホームなんですが、ボケ防止に戦車とか使ってるらしいですよ」


 は? そんなん「よくある老人ホーム」とは言わないと思うよ?


「へぇ~……」

「なんでもお年寄りって自分が昔は普通に出来ていたことが出来なくなったのを認めるのが辛いそうで、それで余計に動きたがらなくなって、さらに運動能力が低下するって悪循環らしいですよ? でも若い頃に繰り返し繰り返しやっていた事って体に染みついていたりするそうで、やっぱり若い頃と同じとはいかないみたいですけど、それでも『できる』っていうのがお年寄りの自尊心にいいとか。

 で、最初は旧軍の銃のモデルガンとかで教練とかやってたみたいですけど、どんどん悪ノリしてって遂には戦車を……」

「えぇ……」


 一理あるんだか、ないんだか分かんないな。


「まあ、そんなこんなで今では市のヒーローの一員です」

「ふぁっ!?」

「そんなに驚かなくても……。先週のハドーが攻めてきた時だって石動さんほどじゃないですけど彼らも結構、スコアを稼いだんですよ?」


 んなアホな!? とも思ったが、よくよく考えてみればハドー怪人は俗に「機関砲を受け付けない」と言われていた。という事は逆説的に機関砲以上の物であれば倒せるということだ。九五式軽戦車の主砲は37ミリ、九七式中戦車改の主砲は47ミリ。徹甲弾なら十分に対処は可能だろう。まあ旧日本軍戦車の泣き所である神だか紙だかの装甲は置いておいて。


「そういえば今日は彼らの1人の葬儀の日でしたね。葬儀で弔砲でもブッ放したんでしょう」


 近所迷惑過ぎるでしょ!? ん?


「あれ? ハドー総攻撃のヒーローの死者は0名って聞いてたんですけど……」

「ええ、その通りです。なんでもハドーの怪人やらロボットに散々、大砲を撃ちまくって気を良くして、その日の晩御飯をいつも以上に食べたら喉に詰まらせたそうです。というわけなんでハドー戦の犠牲者ではありません。後、1名が血圧を上げて現在も入院中だそうです」


「あの……。とても戦場に出していい人たちには思えないのですが……」


 旧軍に所属していたとして今年で少なくとも90歳前後。どう考えても戦わせていい年齢ではない。


「まあ、それもそうでしょうけど。死ぬ数時間前まで気に食わない奴に大砲ブッ放してる人生ってのも、それはそれでアリだと思いません?」

「の、ノーコメントで……」


 一応、高度を下げて戦車の一団を確認すると車体の側面に「特別養護老人ホーム 天昇園」と白ペンキで書かれている。管制官のお姉さんの言う通りだ。

 高度を上げようと思った時、先頭車両の砲塔上面のハッチが空いて枯れ木のように痩せ細ったお爺ちゃんが出て敬礼してくれる。僕も慣れない答礼を返してから高度を上げる。

 あの車長のお爺ちゃん、皺だらけで骨と皮だけに見えたけど背筋はピンと伸びていたな。管制官のお姉さんの言う通りかもしれない。ただ戦車の振動以上にプルプル震えてた気もするけど……。

今までテケトーな事を書きまくってきて今更ですが、

戦車はともかく、モデルガンだか木銃だかをご老人に持たせてボケ防止に活用している施設は実際にあるそうです。

ただ作者はそれを何かの記事で読んだだけなので、学術的な根拠がある話なのかは知りません。


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