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引退変身ヒーロー、学校へ行く!  作者: 雑種犬
第16話 ゴールデンウィーク後半戦初日
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16-3

「え~と、お名前を伺っても宜しいですか?」

「あっ、石動誠です!」

「…………え?」


 うん? 僕が名乗ると受付のお姉さんが固まってしまったぞ? お~い! 大丈夫ですか~!


「おっ! 誠、来たか!」


 背後の入り口から入ってきて僕に声を掛けてきたのは明智君だ。


「明智君! 明智君も災害対策室に何か用?」

「なに、急な頼みを聞いてもらったし、誠は当直に付くのが初めてだからな。色々と説明してやろうと思ってな」

「そうなんだ。ありがと!」


 持つべき者は友ってヤツかな。


「んじゃ、後は俺が総務まで案内しますんで……」

「あ、お、お願いします……」


 固まったままだった受付のお姉さんも明智君の言葉に我を取り戻したようだった。

 明智君に付いて2階の総務班の事務所まで行く。




「どうも石動さん! 先日はありがとうございました。私が室長の木村です」

「あ、どうも。お会いするのは初めてでしたね。いつもお世話になってます」


 事務所の奥、パーテーションで区切られた小会議スペースに案内されるとそこには数人の職員が僕を待っていた。

 最初に挨拶してきたのが室長。小太りなんだか筋肉室なんだか微妙な体形に浅黒い日に焼けた肌をしている中年の男性が名刺を差し出してくる。え~と、名刺を貰う時は両手で受け取るんだっけ? 


「すいません。僕は名刺とか用意していないんですが……」

「ええ。石動さんは高校生ですからね。そういうものでしょう」


 それから他の職員の方々も自己紹介をされて名刺を受け取った。

 それからブリーフィングが始められる。まずは経理担当者から当直任務の際の給与について。なんでも僕の場合は飛行能力を有していて、戦闘能力も非常に高い評価を貰っていたので結構な高額らしい。さらに戦闘があった場合の報奨金についても通常通りに貰えるそうな。それから僕の場合は今回だけの予定だからあまり関係ないが給与計算の締め日と振り込み日。それと労災関係。これはあまりお世話になりたい話じゃないね。後、当直で拘束されてる間は食費も支給されるらしい。


「そういや飯は外で食ってもいいけど、ホカ弁の配達もやってるんですよね?」

「そうですね。職員の注文と一緒にやるんで昼食の分は9時半までに、夕食の分は3時までに総務の方に言ってもらえれば……」

「あっ、じゃあ僕もそれでお願いします」

「分かりました。後でメニュー持ってきますね」


 食事の面倒まで見てもらえるなんて至れり尽くせりだね!


 続いて運用班の人から本日の本題、当直任務についての説明がされる。

 ちなみに運用班といっても何か機材を運用するための班ではない。自衛隊に習って「作戦」という言葉を使わずに「運用」と言っているのだ。この国では先の大戦の敗戦から軍事アレルギーがある人もそれなりにおり、行政機関で旧来の軍事用語が使えるのは気象庁だけと言われている。


「石動さんは航空無線は何が使えますか?」

「免許持ってないだけで大概は大丈夫ですよ」


 それを大丈夫と言っていいのかはさておいて。

 ちなみに僕の場合は民間機用のVHF、軍事用のUHF、洋上用のHF、その他にも各種の通信形式に対応している。


 壁面に掛けられた大型ディスプレーモニターを使用して市内の哨戒飛行についての説明もされる。


「哨戒飛行の際は災害対策室の管制室以外にも近隣の空港や航空機からも通信が入る可能性がありますのでご注意ください」

「こないだハドーの後始末してる時に災害対策室の管制とは通信したことはありますけど、余所の航空機やらの通信って英語じゃなくても大丈夫ですか?」

「空港の管制官や自衛隊機は問題ありませんが、民間航空機の方はパイロットが日本語が通じない外国人の場合がありますので、その場合は慌てずに空港か災害対策室の管制官を経由してもらえれば大丈夫です」

「分かりました」


 先週末から今週頭のハドーの対応をしていた頃は、まだ危険があるという事で民間機はH市上空を迂回していたそうな。


 ブリーフィングは進んでいく。


「石動さんだけでの対処が難しい事態になった場合は管制室を通じて他のヒーローに応援を要請する事になりますが、今日だと事件の発生現場にもよりますがヤクザガールズの子たちが早いと思います」


 ヤクザガールズは休日も災害対策室とは別に当直体制を敷いているのだ。以前に三浦君と天童さんがハドーの連中に襲われた時にすぐに駆け付けることができたのはそのためだ。


「そういえば石動さんは彼女たちと親交があるようですね」

「はい! ところで今日の向こうの当直は誰か分かりますか?」

「え~と、今日は山本組長と栗田本部長、それと1年生の子みたいですね」

「ああ、それなら不安はありませんね」


 山本組長と栗田さんの他、小沢さんなら戦闘能力に問題は無い。宇垣さんと永野さんの特化能力も強力だとは思うけど、直接的な戦闘力はどうなんだろ? 後、2年生の子で狙撃銃を使う子もいたけど、物が物だけに自分の戦闘スタイルにハマれば強いってパターンじゃないかな? 井上さんはアレだ。うん。爆弾は使いどころが難しいのに、あの人、爆破している内になんか1人で盛り上がってるのはどうかと思う。いい子には間違いないけどさ!


「それでは石動さん。明日の朝までよろしくお願いします!」


 つつがなくブリーフィングは終了し、室長を始め職員の方々が起立して僕に頭を下げる。


「いえ、こちらこそよろしくお願いします!」


 僕も立ち上がって返事を返す……。

 ん?

 今、室長は何て言った?


『それでは石動さん。明日の朝までよろしくお願いします!』

『明日の朝までよろしくお願いします!』

『明日の朝まで』

 ………………

 …………

 ……


 え? 明日までってどういう事?

 確か明智君は昨日、「昼と夜とどっちがいい?」って聞いてきたじゃん? それが何で「明日の朝まで」って事になってるのさ。それじゃ「昼も夜も両方」じゃん!

 疑問に思って電子頭脳内のメモリーを呼び起こす。あの時、僕は明智君に対して「どっちもいけるけど?」と答えて、それに対して明智君が「それじゃ8時までに庁舎に来てくれ」って言うから昼の担当になったと思ってたんだけどな~。


 あっ!

 そっか~! 僕が「どっちもいけるけど?」なんて言い方をしたから、明智君は「昼も夜もどっちもやる」って受け取っちゃったのか~! そこは「どっちでもいいけど」と答えるべきだったか~! てか、僕が改造人間じゃなかったら、とんだブラックバイトだよ!?

 まあ、この場で間違いを訂正してもしょうがない。今日の話じゃ代わりの人が見つかるわけもないだろうし、今日1日、我慢するか。


「どうした誠? なんか浮かない顔をしてるな?」

「……いやぁ、ナンデモナイデスヨ?」


 まさか面と向かって「明智君の勘違いのせいだよ!」とは言えずにお茶を濁す事にする。


「ん? あ、そうか? お、弁当屋のメニューを持ってきてくれたみたいだぞ!」


 総務の方がメニューを僕に差し出してくれる。


「ちなみに予算はいくらまでってのはあるの?」

「大丈夫だ。まさか命を懸けて戦う奴に腹減らしたまま戦ってこいとは誰も言わないさ!」


 ほうほう。それはいいことを聞いた。気を取り直してご飯を決めようっと!


「ん~と、それじゃ昼は唐揚げ弁当で夜はチーズハンバーグ弁当にしようかな。それぞれ特盛で!」

「決まったら、こっちのホワイトボードに書いておけば、時間が来たら係の人が集計して注文しておいてくれるぞ」


 そう言って、事務所中央のホワイトボードへ案内してくれる。

 それじゃ、とっとと書いておくか!


 《石動 昼 唐揚げ(特盛) 夜 チーズハンバーグ(特盛)》


「これでいい?」

「ん? 『弁』って書いとかないと、おかず単品になっちまうぞ?」

「あ、そうか!」


 慌てて2ヵ所に弁の字を足しておく。


「後、飲み物は庁舎の前のコンビニよりも喫煙所そばの自販機の方が安いから使ったらいい。それと、こっちに来てもらっていいか?」

「うん。なあに?」


 運用班事務所に移動して、事務所内のド真ん中を占有していた立体地図を利用したレクチャーが始まる。

 内容はH市西側と北側にある山間部の哨戒ルートについてだった。それぞれの山の高度や形、それを踏まえてどのルートを取れば効率がいいか。市ではその辺は任務に当る者の裁量に任せているようだったが、僕には明智君以上のルートは思い浮かばない。


「明智君、さすがだねぇ~!」

「まあ、地元民だからな!」


 地元民だからって、そんなの分からないと思うけどな! 脇で聞いてた運用班の人もうんうん頷いているし。


「……まあ、こんな所かな? 山間部は人はほとんどいないけど、その分、侵略者がアジトを作ってたりするから十分に気を付けろよ!」

「うん。ありがと!」


 明智君には本当に感謝だ。自分の頼みとはいえ、ここまできっちりサポートしてくれる人もそうはいないんじゃないかな?


 それから明智君とジュースを飲みながらだべったりしていたら、あっという間に時刻は10時近くになっていた。


「おっ! そろそろ午前の哨戒飛行の時間だ」

「そうか。じゃあ、俺はそろそろ帰るわ」


 それから内線で地下の管制室に連絡を入れ、運用班長に挨拶してから明智君と一緒に外に出る。


「それじゃ、後はよろしくな!」

「うん! 明智君もありがと!」

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