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話数表記を試行錯誤中です。
PiPiPiPiPiPiPi
目覚まし時計で目を覚ます。午前7時、お腹が空いた……
ロフトから降りてマグカップに注いだ牛乳を一気飲み。食パンを2枚トースターに入れて、フライパンにウインナーと玉子。昨日作ったトマトスープを温めた所で食パンが焼き上がる。皿にパンを移したら、新たに2枚トースターで焼く。冷蔵庫の中からピクルスを出して朝食の準備は完了。
改造人間になって嫌な事はいくらでもあったけど、日常で不便を感じるのがコレ。僕の体は補助動力として普通の食品から摂取する栄養を使うのだが、燃費悪すぎません?
テーブルの上に朝食を並べテレビを付けて、頂きま~す!
「昨日、H市郊外において『笑う魔王』ロキの活動が確認されました。目撃した場合は自身の生命を守ることを最優先にして行動してください」
「いやー、怖いですねぇ」
「ロキの特怪レベルは不明ですが、識者の中にはレベル6以上は確実と見る物もおり注意が必用です」
「続いては」
「はい!CMの後はこの春マストな新作ファッション情報でーす」
H市の人は慣れた物だね。ローカルニュースなんだからもっと詳しくやればいいのに。ていうか識者って誰なんだろ? 大体、レベル6ってARCANAの尖兵ロボットと同等じゃん! そもそもロキのレベルを確定出来ないのは戦っている所を見た者がいないからじゃん? それを適当な憶測を垂れ流すだなんて危険極まりない行為だと思う。
不和の芽を撒き、悪の炎に燃料を注ぐ。そして訪れる結果を見て高笑いする。それが「笑う魔王」の二つ名の由来だ。
朝からイライラしていると朝食の皿が空にいつの間にか空になっていた。
気を取り直して、レンジに弁当用冷凍食品を数種類まとめて電子レンジ入れてスイッチ。その合間に洗い物と着替えを済ます。それから弁当の準備に洗顔と歯磨き、寝癖を直して7時40分。
「行ってきます」
誰もいない部屋に声を掛ける。その寂しさにはまだ慣れない。気を取り直していこう!
「マコっちゃん、おはよー!今日も朝から可愛いねー!!」
「お早う。天童さん。でも、その、可愛いってのは止めてくれないかな」
「ハハっ! だが断る!」
教室について着席。天童さんは今日も絶好調だ。ふと昨日の晩に思いついた事を聞いてみる。
「そういえば天童さん」
「ん、なになに!?」
「昨日の話なんだけど、僕の兄ちゃんがデビルクローだって誰から聞いたの?」
「え? 職員室で小耳に挟んだ」
「へー、そうなんだぁ。この学校の職員にプライバシーって概念を教えて差し上げたいなぁ」
昨日の晩は明智君が喋ったのかと思ったけど、昨日の様子だと僕がクラスメイトだって知ってたかは微妙だと思っていたんだ。
「いやさぁー、入学式の前にトイレに行ったらさー、菜々子ちゃんが配付物持つの手伝ってくれって言うからさー」
「ほうほう……」
取り敢えず菜々子というのは担任の安井先生の事だ。僕も安井先生には親しみやすさを感じているけど、下の名前でちゃん付けは無理だよ。
「んで、職員室に付いてったら、ちょーどマコっちゃんから電話が来てさー、『燃えないゴミを燃やしに行くので暫く行けません』ってだけ言われて電話切られたって菜々子ちゃん涙目なってたぜぇ~」
「は、ははっ」
ご、ゴメンなさい安井先生!
「そしたら周りの連中もザワついてさ、『例のデビルクローの弟か……』みたいな話が聞こえてきたんだよねー」
「んで、クラスの皆にはアタシの口からってわけ」
Oh! プライバシーの概念を教えるべき相手がここにも一人。……便利ですよ。主に人間関係の構築とか……。
「それにしても『燃えないゴミを燃やしに行く』とかロックな事を言い出すデビルクローの弟ってどんなヤツかと思えば、こんな可愛い子だし、アタシも驚いちったわ!」
「もお、また可愛いって言った……」
「ハハハ!ゴメン、ゴメン」
天童さんが謝るという行為を知っていたのは意外だった。そういうのとは無縁の御仁かと。
「それにしても、僕、『燃えないゴミを~』とか言ったかな」
「……言ったんじゃないか」
「あっ、明智君、お早う」
丁度、登校してきた明智君が話に入る。
「誠、クラスメイトとして忠告だが、ARCANAの事で人が変わる癖は直したほうがいいぞ」
「いやー、お恥ずかしい。でも、もう潰した連中ですし……」
身に覚えが無い訳ではない。ぽりぽりと頭を掻いて反省する。
「アハハ!やっぱりマコっちゃんはロックなヤツか!…………んでさ?」
「うん?」
「ん?何?」
「マコっちゃんの名前って何?」
一瞬、天童さんが何を言ってるのか理解出来なかった。
言ってる事を理解した後も混乱は収まらない。が、ある可能性に思いあたる。
「あ、あ~『石動』って読みにくいよね」
「いや、それは分かるよ。最初は読めなかったけど……そうじゃなくて『マコっちゃん』って名乗って悪党シメてた訳じゃないでしょ?」
「悪党相手じゃなくても、そう名乗った事なんか無いよ……」
「石動氏の識別コードは『デスサイズ』で御座るよ」
「うわぁぁぁ!デブゴン!!」
いきなり登場する三浦君に天童さんが驚いて机の角に腰をぶつける。
「どうしたの?京子ちゃん」
「あ、ああ真愛ちゃんか。いや、いきなりデブゴンが……」
「ドゥフフフ、失礼したで御座る」
真愛さんも参上。
「お早う、真愛さん、三浦君」
「おはよう、誠君」
「お早うごじゃりまする石動氏」
「で、何の話をしてたの?」
「うん、天童さんが僕の識別コード知らないって、困っちゃうよねー」
「え、、、誠君の識……別コー……ド……」
「……真愛さんも分からないとか?」
こくりと小さく頷かれてしまった。
う、嘘だぁぁぁ!
だって昨日の放課後、僕の事は話に聞いたって……ん? 誰から聞いたんだ?
整理して考えると、まず天童さんが職員室での話を言いふらす。それから真愛さんはデビルクローの弟について人に聞いてみる。誰から? そら幼馴染みの明智君からだろう。明智君がその時に「彼」などの三人称で語っていたとするなら……。
明智君を見ると視線が合う。
「誠、お前、知名度に関してだが実の所、マイナーもいいとこだぞ。理由は4つ。
1つ、お前が主に戦っていたARCANAが個人経営の組織のため、一般人に脅威の認知度が低かったこと
2つ、これはお前たちの功績と言ってもいいが、ARCANAの作戦をお前たちが未然に潰して回ってたこと
3つ、主にM市という地方都市で活動していたこと
4つ、2つ目と3つ目の理由の結果、お前の記録があまり残っていないこと」
「そ、そうなんだ。」
別に名前を売るために戦っていたわけじゃないし、当時はそんなこと考える余裕も無かったけど、全て終わった後になってみるとマイナーって言われるのはちょっとショックだよ。
「す、凄いことだと思うよ!被害に遇う人を抑えることができたんだから!!」
真愛さんの必死のフォローが余計に悲しい。そして、さらに三浦君が追撃をかけてくる。
「ドゥフフフ、結果、石動氏のドキュメンタリービデオはほぼ2巻分で御座る」
「え?それって少ないの?」
「明智氏のデスゲームは全3巻で、羽沢氏にいたってはドキュメント全12巻と特撮ドラマが全13巻で御座るよ?」
「うわぁ……」
ん?ここでまた疑問が一つ。
「じゃあさ、なんで皆は兄ちゃんのこと知ってるの?」
「デビルクローさんは凄い有名だよ?」
「デビルクローを知らないヤツなんかいねーだろ!」
「うん、有名なのは知ってるけど、何で有名なのかを知りたいんだ」
明快な答えを持っているのは、またしても三浦君と明智君の二人だった。
「仁さんは色んな所に首を突っ込んでたからな。俺も『困ってる人を放っては置けないヒーロー』って印象を受けたな」
「他のヒーローのピンチに颯爽と駆けつけて、ビシッと気の効いた事を言って、強さを見せつけ状況を引っくり返す。それでいて驕る事無く気さくな人柄。ヌフォっ!これで人気出ない訳がないで御座るよ。……と、これを見るで御座る」
三浦君が鞄から取り出し見せてくれたのは自前のタブレット。何やら電子書籍らしい。
「月刊our heros 1月号」読んだことはないけどヒーロー専門誌だったハズ。最新号ではなくバックナンバーを見せるということは、そこに見せたい記事があるんだろう。
目次ページから慣れた手つきでジャンプした先には……
「国民的ヒーローランキング! ベスト100!!」
へ、へぇ~……こんなのあるんだ。僕以外の3人も三浦君のタブレットに注目する。記事の中身
はというと……
第3位 「正義の悪魔」「最強ヒーロー」デビルクロー
⚫とにかくカッコいい!(小学生/11歳)
⚫ノンフィクションのドキュメント映像を見てても彼が登場するだけで実家のような安心感を覚える(学生/24歳)
⚫出てくるだけで、その後の展開が読めてつまらない(無職/34歳)
⚫子供がいつも真似してます(主婦/42歳)
⚫弟くんがかわいい!(短大生/20歳)
「ふ」
「「「「ふ?」」」」
「ふざけんなよ!三十代無職と短大生!」
「お、落ち着け誠。短大生はともかく、無職の言ってることは24歳学生と変わらないぞ。ただひねた言い方してるだけで」
ん、、、?それもそうか。気を取り直してみると、四本貫手の構えの兄ちゃんの写真がデカデカと載ったそのページは自分の事のように誇らしい気持ちにさせてくれる。
「三浦君、次のページを見せてもらってもいい?」
「いいで御座るよ」
スライド操作でページを送る。また次のページ。さすがに上位は知ってる人も多いな。死んだ父さんも仕事関係の業界誌をこんな気持ちで読んでたのかな? 順位が下がるにつれ一人のヒーローのスペースは小さくなっていく。おっ、機動装甲忍者さん! 15位か……さらにページを送っていくと……
「あ、真愛さん!ラブリー☆キュートが35位に入ってるよ!」
「え~、もう引退して何年もたつのになぁ~」
口ではそう言いながら満更ではないようだ。嬉しいのか、照れてるのか。
と、さてベスト100まで来て、最初に戻りもう一度確認していく。
「僕、ベスト100以下なんだ……」
そう僕の名前は入っていなかった。そういえば僕どマイナー問題の話だった。先程のショックがまた訪れる。
「な、言ったろ?」
明智君が勝ち誇った顔で言う。
「せ、拙者は好きで御座るよデスサイズ!ドキュメントビデオのED曲に洋デスメタルバンドの曲を使ったり、戦闘シーンにショパンの葬送行進曲を被せるあたり、ヒーロードキュメントの常識を無視したのか知らないのか……とにかく型破りなビデオで御座る」
「へへ、三浦君ありがと。でも、それって映像プロダクションの功績だよね?」
「み、三浦君、別の号でもいいから誠君の記事はないの?」
「あるにはあるで御座るが……」
「馬鹿!あんなら気を利かせて、とっとと出せ!」
三浦君が新たに別の号を表示すると、天童さんが奪うようにタブレットを僕の前に差し出す。
去年の6月号の表紙は、変身ポーズのデビルクローの背後に大鎌の柄を肩に掛けたボロマントのシルエット。あ、このシルエット、僕だ。
僕、いつの間にか雑誌の表紙デビューしてた!