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石動誠ことデスサイズとハドーの新型ロボット怪人の戦闘も佳境に差し掛かっていた。
ビルの屋上のコンクリートや電波塔の鋼鉄の骨組みを飛び回る二つの影は、互いに互いの息の根を止めようと持てる能力の限りを尽くしているのだろう。
そんな中、両者の戦いを見詰める者が一人いた。
「超次元海賊ハドー」地球攻撃船団船長。
本名などとうの昔に捨て去ったこの男を人は「闇髭」と呼ぶ。
闇髭は交差しては離れ、また交差していく2つの影を見ながら苛立ちを隠せないでいた。
(おかしい……、何かがおかしい……)
何がと問われれば上手く答えられない気がする。いや、答えてしまえば認めてしまうことになる。自らの敗北を。
(何故、デスサイズは戦っていられるのだ! 奴は型落ちのスペック割れした過去の存在だぞ!)
対してハドーの新型格闘ロボット「B.Bディアス」号は地球攻撃船団の送った情報を元に、ハドー本国の持てる技術力の粋を結集して製造された最新にして最強のロボット兵器だ。
その戦闘力はブレイブロボのような巨大ロボットを除けば、地球上の全てのヒーローと1対1でなら勝てる計算なのだ。
「シューティングスター」の衝撃波を纏った体当たりにも耐えられる装甲。
「ブレイブファイブ」の5人を相手にしても纏めて撃破可能なほどの格闘戦技能。
「3Vチーム」最速のヴァルカンの飛行形体を超える機動性。
「アスタロト」の属性魔法を考慮された耐熱性、耐冷性、各部位のシーリング。
謎の秘密組織ARCANAのハイエンドシリーズ、大アルカナの1体であるデスサイズとて例外ではない。
食い詰め者の宇宙人集団「漆黒銀河連合」とやらを唆して入手した情報により、デスサイズの特性はすでに分かっている。
長所である機動性はB.Bディアスで十分に補足可能であるハズだったし、最大の攻撃力を誇る「ディメンションカッター」、「デスサイズキック」も共に発動前の僅かな時間のエネルギーチャージを捕捉することで回避可能なのだ。
弱点として上げられる薄い装甲はB.Bディアスの徒手格闘で対処可能。
つまりB.Bディアス号にとってデスサイズは与しやすい相手なのだ。いや、そのハズだった。
「ハアアアアア!」
デスサイズの怒気を孕んだ声が轟く。
巨大な電波塔を支える鋼鉄の骨組みがひしゃげるほど踏みつけて飛ぶ、青白いイオンの残光を引きながら。
拳を構えて迎撃するべく飛ぶロボット怪人だったが、怪人に達する直前で物理法則を無視するかのような動きを見せて右側面に回り込む。
「時空断裂斬!!」
ロボット怪人も回避しようとするが僅かに間に合わず、右腕を肩から切断される。
凌駕しているハズの運動性で遅れを取り、十分な根拠をもって回避可能と断じた技を食らってしまう。
闇髭はまるで戦っているのが自分であるかのような冷や汗を掻いていることに気付いた。
(何故だッ!!)
「いやぁ~、やっぱり時空間フィールドなら装甲の硬さやら厚さとか関係ないみたいだね!」
闇髭の驚愕を余所にデスサイズが暢気な声で言う。
「……デスサイズの性能の大幅な上昇を確認。何故だ?」
闇髭が認めることが出来なかった事実をB.Bディアスは機械であるがゆえに率直に口に出してしまう。
「何でだと思う?」
ロボ怪人の質問に質問で返すデスサイズ。だが、すぐに自分でタネ明かしを始める。
「一つはコレ!」
自身の左腕に付けられた籠手をプラプラとさせる。
「これは元々は僕のじゃなくて兄ちゃんの、デビルクローの籠手なんだけどさ。これを装備することによって大鎌のエネルギー供給力が上がって『時空断裂斬』の発動が早くなります! ま、標準装備じゃないせいで左手でビームマグナムが使えなくなるんだけどね!」
「それだけでは機動性の向上の理由が付かないハズだ」
「二つ目の理由なんだけどさ。君、もしかして本当に気付いてない?」
「何の事だ?」
右手で天を、空中にポッカリと開いた異次元ゲートを指差すデスサイズ。
「君たちが何処ぞの企業からかっぱらってきた半永久機関なんだけどさ。アレ、僕のみたいだね!」
「?」
「ねえ? 半永久機関の『半』って何を意味すると思う? そもそも、こっちの世界で100年以上も前に存在自体が否定された永久機関を大企業がわざわざ開発しようと思うかな? んなわけないよね! じゃああの機械は一体、どこから来たんだろうねえ!?」
表情が変わらぬデスサイズの骸骨を模した仮面が笑っているのでは? と思わせるような声色だった。
「正解は越後〇菓! ……冗談はさておき、あの機械『半永久機関』の開発元はARCANAみたいだね!」
「まさか……!」
「いや、だって機械に近づいたら『ARCANA.NET』とかいう、ふざけたログイン画面が電脳に出てきたんだけど?」
「まぁ、ログイン権限のある大アルカナは僕一人しか残ってないからね。だから『僕の』とは言ってみたけどさ、初めて僕も知ったよ。ナントカ工業さんはARCANAの廃施設かどこかから手に入れたんじゃない?」
「ではARCANAは何のために?」
「そう! そこがあの機械が『永久機関』ではなく『半永久機関』な理由さ! 実はね。アレは僕たち大アルカナのパワーアップアイテムみたいよ?」
「なんだと!」
「ハハ! 驚いた? 僕たち大アルカナの主動力炉である時空間エンジンは非常識な出力を誇るトンチキな代物なんだけどさ、少し問題があってね。時空間の断層の斥力からエネルギーを取り出すって理論らしいんだけど、ただ何もない空間でそんな事をしても空間の元に戻ろうとする力が大きくてロスが多いらしいんだけどさ……」
首を傾げながら、またゲートを指差すデスサイズ。
「ああやって空間に次元の大穴が空いてたら、その元に戻ろうとする力が無くなっちゃうんだって! 僕も初めて知ったけど。で、その結果、ロスが無くなった分、時空間エンジンの出力が上がるんだって!」
「つまり、お前たち大アルカナの時空間エンジンとセットで永久機関になると?」
「そゆこと。だから、あの機械単品だと『半』永久機関らしいよ?」
「さっきから『だって』とか『らしい』とか伝聞系が多くないか?」
「僕も今、ヘルプ画面を見ながらだからね」
「ふざけんなッ! さっき、こっちの世界では永久機関は否定されているって言ったのはオメェじゃねぇか!」
つい口を挟んでしまったのは闇髭だ。綿密な計画を立てて戦力を揃えて本国と調整をしてやってきた結果が敵のパワーアップだなんて信じられるハズも無かった。
だがデスサイズの返事はあくまで軽いものだった。
「だってアレを作ったのはARCANAだよ!? マジモンのキチガイだよ? 永久機関ぐらい作るっしょ!?」
「ところで気付いてる?」
「何が?」
「さっきからゲートから君たちの援軍が来ていないって事……」
「……!」
デスサイズとの戦闘に集中していたロボット怪人が闇髭を見るが、彼も肯定を示す頷きを返すのみだ。
「僕がログインして、ゲートを僕のパワーアップ用に最適化したから! 援軍がもう来ないのはもちろん、君たちの逃げ場はもうないよ!」
「言ってくれる……」
とは言え、ロボット怪人にも闇髭にも目の前の死神に勝利する道筋すら見えないのも事実だった。
「で、そろそろいいかい?」
「……」
「長々と話し込んでいたのはアレでしょ? どうすれば僕に勝てるか考えてるんでしょ? まあ、僕の方でも時間が欲しかったんだけどね。システムをオーバーフローさせて半永久機関を自壊させる目途がついたんで、そろそろ再開してもいいかな?」
「なんだと……」
デスサイズが大鎌を放り投げて、マントを脱ぎ棄てると病的に痩せ細った長身が露わになる。
「まあ、そんなこんなで僕が君たちの死神だ!」
「……!」
デスサイズが両手を怪人に向け、怪人の両足、左腕、首に時空間フィールドを発生させ逃げられなくする。そして身を捩りながら大きく跳びあがる死神。
「デスサイズ……!」
パワーアップの影響か、いつものような予備動作無しで次々と時空間トンネルを展開し、身を捻りながら突入する。
「錐揉みキイッッック!!!!」
砲弾と化したデスサイズ必殺の蹴りを食らい、ハドー最強のロボット怪人も両膝から下を残して四散してしまう。
屋上に着地したデスサイズが辺りを見回すと、闇髭はすでに逃げ出したのか姿が見えなかった。逃げ足の速さは海賊らしいと言えよう。
以上で14話は終わりです。
次回以降はハドー編のエピローグと日常に戻る誠君の話になると思います。




