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引退変身ヒーロー、学校へ行く!  作者: 雑種犬
第13話 こんな事やってるからダークヒーローって言われるんだよ!
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13-2

 Hタワー。

 H市の中心部に位置する鉄筋コンクリート製3階建てのビルの上に鉄骨製の電波塔が乗ったH市のシンボルとも言えるそのタワーは、電波塔としての機能を2012年に634メートルの某電波塔に譲りながらも観光、商業施設として市民たちから愛され続けていた。

 だが現在はその電波塔上空に禍々しい色調の異次元ゲートがぽっかりと開き、人影は見えない。


「どうやら我々を引き込んで一網打尽にするつもりらしいな……」

「あれで隠れているつもりですかね?」


 タワーの前で呟くマックス君に山本さんが応じる。何事かとアーシラトさんが手袋を外して掌の目を開けて見てみる。

 僕の目にも直接は見えないものの、赤外腺センサーが不自然な熱を感知する。なるほどマックス君の言う通り周囲の建物の陰に隠れた大部隊がいるようだ。しかも電磁波の放射が少ない。ハドーの雑兵であるロボット兵器は少なく、本来は現場指揮官レベルの怪人たちが多いようだ。


「あのウサギは無事に逃げられたかな?」


 ふと情報を聞き出したウサギ型怪人の無事を心配する。あの空き店舗で情報を聞き出した後、僕たちはあの怪人を解放していた。もちろん「悪い事をしたら分かってるな?」と脅しをかけて。


「無事に地元に帰れたらいいんだけどな~」


 僕たちは異次元ゲートとやらの使い方を知らないので何とも言えない。

 仮に戻れなくとも、こちらの人間に投降してくれたらいいのだけれど。そのために彼女には空き店舗にあった物干し竿に白いカーテンを巻き付けて渡してある。人間に出会ったらカーテンを広げて振れば、それが「白旗」というこちらの世界の降伏の合図だと教え、ハドーの仲間に出会ったら「このポールを武器に戦ってます」と言えと言っておいた。上手く切り抜けてくれればいいと思う。


「上手く話が通じてるといいんですけどね~」


 山本さんの三角帽子の通信術式を通して魔法少女→明智君→市災害対策室へとウサギ怪人の投降については連絡をしてある。それでも混乱の最中だ。一抹の不安がよぎる。


「そんな悪い子には見えないんだけどな~」


 僕もアーシラトさんに同意する。むしろ、こっちの罪悪感がマッハだ。


「ハドーの本拠地のある世界って資源を使いつくした世界らしいですよ?」

「それでわざわざ他所の世界で海賊なんてしてるんだ!?」


 それは初耳だった。


「つまりは彼らは彼らで生存競争ということか……」


 侵略者にも事情がある。もしかすると個人的には友人になれるような人もいるかもしれない。数こそ少ないが宇宙人だって帰化しているような時代なんだ。


「ねえ?」


 思い切って提案してみる。


「次、一度だけ降伏勧告してみない?」

「あ、いいですね!」


 すぐに山本さんが提案に乗ってきた。山本さんだって根は見た目通り優しい女の子なのだ。


「ん? 別に構わねぇよ?」

「そんなに時間もかかるわけではないだろうしな」


 アーシラトさんもマックス君も同意する。


「ま、とにかく先に進もうぜ!」


 僕たち4人はタワーの下のビルに歩を進める。

 死神モチーフの改造人間、ヤクザの組長、異世界の魔王、ガチの悪魔と絵面が悪い面子ばかりなのが少々、気になるけど……。




「ようこそおいでくださいました!」


 ビル内部に入ってもタワーを取り囲んだ敵に動きは無かった。慎重に止まったエスカレーターを上がっていくと、エスカレーターの降り口の1メートルほど上に怪人の姿が現れる。硬質な体表に最初はロボットかと思ったがそうではない。キチン質で覆われた昆虫型怪人のようだ。外見はバッタ(?)のように思える。怪人の姿が透き通って見えることから立体映像(ホログラフィー)であると分かる。


 バッタ(?)怪人の登場が合図かビルの中に怪人集団が一斉に駆け込んでくる。1階ロビーを埋め尽くした怪人たち。数えきれないほどの怪人たちが鮨詰め状態だというのに、外にはまだ入りきらない怪人たちがごった返しているのがガラス越しに見える。君たち、圧死とかしないの?

 バッタ(仮)怪人の指示を待っているのか僕たちに襲い掛かることなく待機している怪人軍団。ともかく、これで僕たちは退路を塞がれたわけだ。


 バッタ(さっきから「?」とか「仮」とつけているけど、バッタと言い切るには違和感が残る)怪人が嘲るように僕たちに語り掛ける。


「安心しました! 私どももヒーローに攻め込まれることを予想していたのですが、まさか貴方たちのような負け犬しか来ないだなんて! どうやら貴方がたの戦力も底を尽いているようですね!」


 1階の怪人集団から笑い声が沸き起こる。大仰な手ぶりを交えて笑いを取っていく様子は道化師のようにも思える。


「誰が負け犬だって!?」


 怪人の言葉に噛みついたのはアーシラトさんだった。額に青筋を立てたアーシラトさんに気を良くしたのかバッタ()怪人はさらに続ける。


「だって、そうでしょうアーシラト? 私どももこちらを侵略するに当たって情報を集めてまいりましたがね。貴方は小学生相手に全敗してた海外出身の悪魔ですよね? その海外からこの国に来た理由だって宗教戦争に負けたからですよねえ?

 その隣の耳の尖った方はマクスウェル。異世界の魔王だって話ですが部下に裏切られ、裏切った元部下の手引きで暗殺者を居城に入れられて、遂にはこの世界に放逐されてしまったって話じゃないですか? 今頃、暗殺者を送り込んだ連中はのんびりと酒でも呷ってるんじゃないですか?

 そして可愛らしいお嬢さんはヤマトモでしたっけ? ええと、失礼。『ブラディ・フェイス』というコードネームの方が有名なものでして! それはともかく、貴方! そんな大それた異名を持つ癖に組長はおろか組の幹部や先輩連中、誰一人守れなかったそうじゃないですか!? よくそれで組長なんてなる気になれましたね? 私ら海賊にゃそんな恥ずかしい事はできません! ヤクザは違うんですか?

 最後にこちらも可愛らしい子ですねぇ!? デスサイズ! 貴方も本当に守りたかったのは有象無象なんかじゃなくて唯一人のお兄さんでしょう! そのお兄さんを失って失意のまま生まれ育った街から逃げ出して……。

 本当に揃いも揃って負け犬ばかり! 縁起が悪いからとっとと死んでくれます!?」


「君、便所コオロギ?」

「は?」


 僕の言葉に便所コオロギ怪人は勢いを失う。

 そう。バッタにも似ているが、スラリと伸びた長い脚はともかく2本の長い触角や臀部の2本の角、黄色と黒の特徴的な模様はカマドウマ、通称で便所コオロギを思わせる事に気付いたのだ!


「だから君は便所コオロギなの?」

「え? い、いや、今はそんな話をしているわけでは……」

「それはいいよ」

「え?」

「だから僕たちが負けたことがあってもいいよ。別に。負けても何度でも立ち上がってみせるから! そんな事よりさ。君、便所コオロギ?」

「え、と、この国には『竈馬(カマドウマ)』なる風流な呼び方があった気がするのですが……」


「だってさ! どう思う山本さん?」


 僕が話を振ると山本さんは無言で袖をめくって腕を見せる。


「うわっ! 凄ぇ鳥肌! 翼、大丈夫か!?」


 アーシラトさんの言う通り山本さんの腕にはクッキリ、ビッシリと鳥肌が立っていた。


「…………気持ち悪い……」


 じっとりと沈み込んだ目で便所コオロギ怪人から目を背ける山本さん。この言い方は「キモっ!」とか「キショッ!」とか言われるよりもダメージが大きいだろう。


「で、デスサイズ!? あ、貴方は男の子だから虫とか好きですよね!」


 何故か僕に助けを求めてくる便所コオロギ。


「う~ん。カブト虫とかクワガタ虫なら……」


 そもそも高校生にもなって昆虫に夢中になるような人は限られてくると思う。僕も国産のカブト虫なら平気だけど、以前にホームセンターで見た外国産の大型のカブト虫は腹とか脚とかに毛が生えてて駄目だった。


「似たようなものでしょう!?」

「全然違うと思うけどな~。大体、バッタ目キリギリス亜目で君によく似たリオックって昆虫がいてさ~。そのリオックが一時、昆虫界最強とかってもてはやされてたんだけどさ……」

「ほうほう!」

「その時にリオックに付けられた二つ名がさ、『インドネシアの悪霊』とかってのでさ~」

「えっ? 酷くないですか?」

「侵略者に酷いとか言われたくないけど?」


 顔の左右に大きく振って苦悩に悶える便所コオロギ。


「はあぁ~~~…………。私、ちょっと気持ちの整理が着かないので、これで失礼します……。あ、あと、屋上に来るまでに2階と3階に番人がいるんで楽しんでってください……。んじゃ、みなさん。後よろしく……」


 憔悴した様子の便所コオロギの姿が消える。

 勝った!

 ま、人を「負け犬」呼ばわりしたら、「便所コオロギ」とか言われても文句は言えないよね!

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