12-3
「半永久機関?」
Hタワーへの出発前、明智君が僕達に話した内容は突拍子もない物だった。
ボルト工業が所有する半永久機関。先週、三浦君と天童さんがハドーの小隊に襲われたのもソレを狙った行動と思われること。先週のはボルト工業の偽装工作にまんまと乗せられたハドーの空振りであったこと。そして部隊を僕達に撃破されたハドーが逆に陽動を仕掛けてくることは予想していたが、ここまでの規模、「総攻撃」と言っていいほどの規模とは明智君でも予想できなかったこと。そして市内のボルト工業の工場に隣接する研究施設も襲撃されたことが確認されたこと……。
「つまり、異次元ゲートが開きっぱなしってことは……」
「察しがいいな。多分、ボルト工業の半永久機関とやらがその動力源なのだろうな」
そんなことはすぐに察しがつくだろう。「超次元海賊」の異名を誇るハドーとて次元間の移動には大きなエネルギーを消費するようで軽々と言ったり来たりはできないのだ。そうであればこそハドーはこそこそと数年に渡ってゲリラ的な襲撃を繰り返していたのだ。それがこのタイミングで異次元ゲートが開きっ放しで続々と戦力を投入してくるだなんて、どう考えてもおかしいだろう。つまりは今までは無かった物が使えるようになったということだ。それが半永久機関なのだろう。
「でもさ、その半永久機関とか奪取してから異次元ゲートを開くまで早すぎない?」
僕の疑問に対して明智君も幾つかの可能性を示す。
「そうだなあ。総攻撃が始まった当初は奴らの旗艦に残っていた戦力を全て投入したと考えるべきだろうが、それにしてもゲートが開くのが確かに早すぎるな。俺の予想だとボルト工業に奴らの内通者がいたか、ハドーの科学力について我々の見通しが甘かったのか、もしくは……」
「もしくは?」
「そもそもボルト工業の半永久機関とは異次元空間からエネルギーを取り出す物であったのか」
なるほど、つまりは本来の使い方に近い物だから軽く手を加えるだけで済んだということか。
「そんな物、一体、どこから入手したのだ? ボルト工業とやらは?」
マックス君の疑問ももっともだ。半永久機関だなんてこの世界の常識からかけ離れた物を一体、どこでボルト工業は手に入れたのか? 独自に開発したということはないだろう。永久機関自体、もう100年以上も前に完全に否定された存在なのだ。そんなものを一部上場の大企業が予算を投入するだなんて株主への背任に等しい。
「さあなあ、それは分からないなぁ……、だが、どうせロクでもない手段でも使ったんだろ?」
明智君も何か思う所があるのか宙を眺めながら適当に返答する。
「ところで、そのナントカ機関って話を聞く限りだとそんなに大きな物じゃないんですよね? 探すのも面倒ですし、そろそろ行きませんか?」
山本組長の言う事ももっともだ。
「そうだな。大きさは先週の偽装工作の際に使われたのが1ボックスカーらしいからな。それに入る程度の大きさだろう。Hタワーの鉄骨作りの電波塔部分に設置されているのなら分かり易いだろうが、その下のビルに隠されているのなら探すのも難儀しそうだな」
「それもそうだね。じゃ、いこうか?」
「だな!」
半永久機関だ異次元ゲートだのいう話には興味無さそうにしていたアーシラトさんが同意する。
「このメンバーじゃ心配はいらないと思うが、くれぐれも気を付けてくれよ!」
「うん!」
「は~い!」
「任されよ!」
「アタシを誰だと思っているんだい!」
めいめいに明智君に返事を返して僕たちは大H川中を出発する。
昨晩から降っていた雨は止んでいたが、黒雲は天低く立ち込めていた。
市中央部に位置するHタワーを目指し駆けていく僕たち4人の上空をブレイブファイブのドラゴンフライヤーが轟音を立てて飛んでいく。あの方角だと東京湾の方か?
ドラゴンフライヤーは俗に言う2号ロボだが現在はパイロットがいないハズで、ということはオートパイロットでブレイブロボの所へ向かって合体するのだろう。
僕は高度を上げてビルの上に出て、ドラゴンフライヤーの飛んで行った方向を確認する。予想通りネオブレイブロボがハドー艦隊を戦闘を繰り広げていた。なるほど市内への被害を抑えるために東京湾上空まで敵艦隊を引きつけたのか。
ハドー艦隊は旗艦を中心に球形陣を敷きネオブレイブロボを攻撃している。
僕は高度を元に戻して、皆に状況を説明する。
「……予もブレイブロボ見てきてよいか?」
「いいけど気をつけてね?」
「うむ!」
僕と入れ替わるようにマックス君が上がっていく。が、1分ほどで降りてくる。
「合体してるみたいだが、小さくしか見えなかった……」
「なんだい! アンタも巨大ロボットとか大好きな口かい?」
猛スピードで駆けながらションボリとした声色のマックス君にアーシラトさんが呆れたような声を上げる。
「もちろんである! 予はこちらの世界の科学技術が素晴らしいと思っておってな。ロボットもそうよ。しかもブレイブロボ自体が合体ロボであるのに、さらに合体するのだぞ!? なんとも贅沢な話ではないか!」
「そ、そうかい……」
興奮しているマックス君に悪いので黙っておこう。ブレイブロボとドラゴンフライヤーが合体してスーパーブレイブロボになるのは何も贅沢な話というわけではなくて、敗戦国である日本は国連から巨大ロボの保有制限を食らっているだけだということは。普段は2体のロボットを別々の場所で使って、いざという時は超大型ロボットに合体するというわけだ。現にアメリカなんかじゃ最初からスーパブレイブロボ並みの大きさのロボットを何体も保有している。
それにしても異世界人であるマックス君も巨大ロボットとか好きなんだなぁ。男の子は皆、巨大ロボット大好き説に現実味が帯びてきたな。
「皆さん! 敵が見えてきましたよ! 多分、防衛線に接触したのでは?」
おしゃべりで気が逸れていたが、山本さんの声に前方を見ると揚陸艇型や獣人型怪人に戦闘ロボットが多数見える。空戦ロボットなどはこちらに向かって編隊飛行を開始していた。
「それじゃヤりますか!」
「うむ。他の連中が少しでも楽できるように派手にいこうか?」
「おっ! いいね!」
「は~い!」
4人の戦意は旺盛。それじゃ、まずは僕から……。
「マチェット・ブーメランッ!!」
マーダーマチェットを体を捻りながら投擲すると大鉈は回転しながら敵集団へ飛んでいく。大鉈をキャッチするべくイオン式ロケットを出力全開にして加速。立ち塞がる敵を大鎌で切り捨て、大鉈をキャッチする。
今度は大鉈と大鎌を別々の方向に向けてそれぞれ投擲。手が空いた所で腰のホルスターからビームマグナムを引き抜いてファニング6連射! 上空の揚陸艇3隻にそれぞれ2発ずつ命中。戦車並みの装甲を誇る揚陸艇も対兄ちゃん用のビームマグナムには抗えず空中で爆発四散する。
大鎌と大鉈を回収しようと方向転換したことろで、蝙蝠型怪人が翼膜を広げて行く手を阻むが。
「デビルクロー! パンチ……」
兄ちゃんの形見の左手の爪付籠手にエネルギー供給、時空間フィールドを爪先に展開して怪人の胸板を貫く。
それにしても兄ちゃんの形見で兄ちゃんの必殺技だから「デビルクローパンチ」の名前はそのまま使ってるけど、どう考えてもパンチじゃないよね? 「拳」じゃなくて「貫き手」なんだもの……。
蝙蝠型怪人を難無く撃破して、大鉈と大鎌を回収。うん、今日は朝ご飯を抜いたけど調子はいいみたいだ。
「ふははは! 4属性多重詠唱の威力を見よ!」
マックス君が上空から竜巻を起こし敵の身動きを取れなくしてから火炎弾、氷飛礫、硬岩槍の連射を浴びせる。
マックス君の体の上下左右に浮かび上がった魔法陣は回転しながら次々と風火氷土の魔法を展開していく。手に持った刺突剣を指揮者のタクトのように降るマックス君。もしかすると剣は武器としてだけではなく、「魔法使いの杖」としての効果もあるのかもしれない。
それにしても笑い方がまるで魔王だ。あっ、魔王だった……。
蛇の下半身で猛スピードで地上を駆けていくのはアーシラトさんだ。
両手からそれぞれ魔法弾を連射しながら敵を殲滅していく。魔法弾を掻い潜って肉薄する敵怪人には唸る肉斧アックスボンバーだ。機関砲弾を物ともしないと言われるハドー怪人と言えどアーシラトさんのラリアットで次々に頸椎を圧し折られて絶命していく。
「……おっと、随分と頑丈な奴もいたモンだな!」
アックスボンバーを受けて即座に立ち上がって殴りかかってきた怪人がいた。その怪人はトドやセイウチなどの海獣を思わせる重厚な獣人で、ブ厚い皮下脂肪ゆえか、それとも骨格自体が丈夫なのかアーシラトさんの断頭台のようなラリアットに耐えて見せたのだ。
「なら、こうだ!」
蛇の俊敏さを活かして瞬時に背後に回り込み、後ろから海獣怪人の腰に両腕をまわす。そのまま一気に持ち上げ怪人の頭頂部から落とす。蛇の下半身のパワーと柔軟性を活かしたバックドロップ。美しいブリッジが荒技とは対照的だ。これにはさすがの海獣型怪人も耐えられなかった。
「ウィ~~~!!!!」
アーシラトさんが往年のレスラーのように右手を突き上げて雄叫びを上げる。
アーシラトさんの雄叫びに一瞬、気圧されて動きを止めてしまった熊型怪人の口元が不意に押さえつけられ、背部の冷たい感触に全身の力が奪われていく。
山本さんが背後から魔法短刀を突き立てているのだ。あの位置だと肝臓の位置か。宙に浮いた箒の上に立って2メートル近い怪人を刺し貫いているのだ。さらにドスを捻り上げると熊型怪人が白目を向いて倒れる。
すぐそばには熊型の前に殺られたのであろうサイ型怪人が喉笛を切り裂かれてのた打ち回っていた。
山本組長には他の3人のような殲滅力は無い。そのために雑魚であるロボットたちには目もくれずに怪人のみを狙っていた。
その顔は返り血で真っ赤に染まりながらもいつもの笑みは変わることがない。そして彼女の魔法少女の衣装の色は黒であるために衣服の返り血は目立たない。まるで顔と手だけが血に濡れているようだった。
これが山本組長が宇宙人や異次元人などの侵略者たちから「ブラディ・フェイス」または「ブラディ・スマイル」と呼ばれ恐れられる理由である。
次の目標を手近にいた鹿型怪人に定めた山本組長は箒から飛び降り、ドスを構えて突っ込んでいく。怪人も腕を振り上げて殴りつけようとするが、それよりも先に怪人の腹部にドスが突き立てられる。刃を上にした状態で肋骨を避けるように腹部から横隔膜を通って心臓へ。怪人の吐いた血反吐が山本の頭上から降り注ぐ。
もはや4人を止められる者はいなかった。ハドーの大部隊を蹴散らしながらHタワーへ向けて進んでいく。
これにて第12話は終了です。
また次回、お会いしましょう。




