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引退変身ヒーロー、学校へ行く!  作者: 雑種犬
第12話 大決戦! 東京H市SOS!
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12-1

「永野さん! 下がって!!」


 ハドーの飛行揚陸艇から飛び出す敵集団を茫然と見つめる永野に栗田が叫ぶ。


「…………! 栗田さん! 前に出過ぎよ!」


 我に戻った永野が声を上げるが栗田は構わずに加速を続ける。

 山本の話ではこちらに向かっているのは「治癒魔法」に特化した宇垣と、「爆弾生成」能力に特化した井上。いずれも直接的な戦闘に特化したタイプではない。井上の爆弾は大型目標に設置しての爆破や、(トラップ)としての用法には向いているが空中を縦横無尽に駆ける敵との戦闘に向いた能力ではないのだ。


 その2人と栗田を加えた3人で、この50体以上の敵を相手にしてどうするか? 永野を加えた4人で戦う、というのは論外だ。一見、それは妥当な方法に思える。だが、空中警戒任務にあたっている永野が戦闘に加わって消耗してしまったらどうなるか? その後は多勢に無勢の状態でさらに目を失った状態で戦わなくてはならない。今現在、辛うじてハドーの進行を食い止めていられるのは永野の「探査魔法」のおかげなのだ。


 ならば、どうするか?

 栗田に思いつくのは奇襲しかない。いや、すでに敵も栗田たちの存在を察知しているだろう。だからこそ揚陸艇から兵員を展開しているのだ。つまり奇襲ではなく強襲だ。

 敵が迎撃態勢を整える前に痛撃を加えてその後の展開を容易にする。それが栗田が今できることだった。

 箒を含めた全身を均一に覆っている障壁魔法を操作して後方は薄く、前方を厚くする。さらに障壁を錐のように角度を付けて尖らせる。

 敵集団中央近くの空戦ロボットに狙いを定めて加速術式に魔力を流し続ける。加速! 加速! 加速!

 目標の空戦ロボットだけではなく、周囲の空戦ロボットも栗田に対して射撃を開始するが全て障壁魔法に弾かれる。目標は腕部に取り付けたブレードを展開して栗田を迎え討とうとするが、ブレードが展開しきる前に栗田の尖らせた障壁が激突。破片を撒き散らしながら四散する。


「…………! くぅっ……!!」


 方向転換のGに全身を苛まれながら次の目標を定めて突進。さらに撃破!

 普段ならば、さらに言えば2、3時間前までは容易に出来ていたことが多大な苦労を要するようになっている。栗田とて連戦の疲労が蓄積しているのだ。

 だが、敵集団のド真ん中で立ち止まるわけにもいかない。込みあがってくる吐き気を飲み込みながら、次の目標を探す。

 敵も栗田の進路からは離れるようにして包囲を敷いて射撃を加えてくるが、栗田の飛行は航空力学に因ったものではない。魔力で無理矢理に方向転換をして突進。命中、撃破!


「…………うっ!」


 また込み上げてきた吐き気に一瞬、注意が逸れる。栗田の意識を戻したのは永野の悲鳴だった。


「栗田さん! 前! 後ろにも!」


 栗田の前方、相対速度を考えれば眼前と言ってもいいような距離に3体の空戦ロボットが立ち塞がっていた。さらにその後方にも5,6体の姿が見える。永野の言葉から後方にも敵が迫っているのだろう。

 栗田は左手に魔力を集中して強化をかけて箒の柄をしっかりと握り、右手に魔法短銃(マカロン)を召喚する。魔力残量を考えれば、恐らく再装填の余裕はないだろう。つまり、いつ魔力が切れて消えてしまうか分からない障壁魔法と8発の魔法弾が装填された短銃のみでこの場を切り抜けなければならない。


「栗田さん! 後ろの敵は私が!」


 永野からの通信に「止めて!」と叫ぼうとするが吐き気に邪魔されて声を上げることすらできない。呼吸すら乱れて過呼吸気味になっているのだ。

 栗田の窮状に永野が堪らず飛び込んできたという形であろうが、永野の飛行能力はそれほど高くない。速度の面でも運動性の面でもだ。さらに攻撃力の面では短銃と短刀しか使えない永野の敵集団に飛び込んでも嬲り殺しにされるのは火を見るよりも明らかだ。


(不味い……。こっちは素早く切り抜けて永野さんの援護に行かないと……)


 もはや永野の消耗がどうのこうのという場合ではない。消耗どころか、このままでは彼女の命すら危ういのだ。


 姿勢を低くして眼前の敵小隊に突撃。右の肘を強く脇腹に押し付けて固定しながら左端の敵に突入。すれ違い様に残る2体の敵に短銃の連射を浴びせる。あっという間に3体の空戦ロボットを撃破するが、短銃の残弾は3発。

 すぐさま反転して永野の援護に向かおうとする栗田であったが、不意に箒への魔力の供給が途切れてしまう。


(魔力切れ!? こんな時に!)


 もはや箒での飛行を諦め短銃を放り捨てて、なけなしの魔力で両手にそれぞれ障壁魔法を展開。敵の追撃の射撃を防ぎながら墜落の衝撃を緩和する。

 幸い民家の生垣に落ちたので衝撃はそれほどではなかったのだが、それでも激痛に栗田は身悶え、起き上がる際には何度も足がもつれてしまう。


「……永野さんを助けに行かないと!」


 箒も短銃も失い、栗田に残された武器は腰に差した魔法短刀(ドス)のみであった。それでも彼女は永野の元へ向かおうとする。

 足を引き摺りながら前に進もうとするのは去年、埼玉で自分たちを守って死んでいった先輩たちに二度と犠牲者を出さないと誓ったためであった。彼女たちの葬儀で泣き崩れる家族のことや、見殺しにしたのかと自分たちに詰め寄る友人たちのことを忘れることは栗田には出来なかった。

 だが、そんな栗田の元へ無情にもハドーの戦闘ロボット、空戦ロボットたちが押し寄せる。たちまち栗田は包囲されてしまう。


「随分と手こずらせやがって!」


 戦闘ロボットの先頭に立つのは2足歩行のリクガメを思わせる重厚な装甲で覆われた怪人であった。ペンチを思わせる尖った口から涎を垂らしている。


(もはや、これまでか……)


 栗田が諦めようとしたその時、不意に上空を包囲する空戦ロボット集団の中に火球が飛び込んできた。火球は集団のド真ん中で炸裂。爆風と破片に巻き込まれたロボット数体が脱落する。

 さらに火球がもう1発。先ほどとは別の位置で火球は炸裂。さらに数体のロボットが撃破される。


「な、何者だっ!?」


 リクガメ怪人が狼狽して火球を放った主を探すが、火球を放った主はリクガメ怪人の後ろから現れた。


 それは不格好な子供の作った積み木細工にも見えた。直線を多用されたデザインは大雑把でおおよそ製作者に美的感覚があったとは思われない。その2メートルを超す巨体の動きは鈍く、酷い騒音を放っていた。人間を模して四肢をもつソレは歪な形状から、むしろ冒涜的なものすら感じる。

 だが、そのロボットは美術品ではない。観賞用として美術館に飾られておくべき物ではないのだ。そのロボットは純然たる戦闘兵器であった。


「タイタン! 次弾HE(榴弾)、目標は敵指揮官! ヤクザガールからは離した位置で起爆!」


 スティンガータイタンの傍に立つ少年が左手首の腕時計型通信機(コミュニケーター)を通して巨人に指示を出す。


 ガシャコン!


 タイタンの左肩に取り付けられた短砲身砲が角度を下げてリクガメ怪人を狙う。


 ボンッ!


 砲身から飛び出した火球は少年の指示通りにリクガメ怪人の近くで炸裂! 怪人は爆風で倒れ、付近にいた陸戦用の戦闘ロボットも3体が大破、他複数に損害を与える。栗田には爆風は届くものの障壁魔法で被害は無い。


「おのれ、ポンコツめっ! かかれ! かかれぇ~!」


 飛び起きたリクガメ怪人が配下のロボット集団に号令をかけると、次々に射撃を開始、あるいは接近戦用のブレードで白兵戦を挑むが重装甲のスティンガータイタンは物ともしない。塗装が剥げるくらいだ。

 逆にタイタンが騒音を上げながら突き進み、腰の関節をグルグルと回しながら殴りつけるとハドーのロボットたちは次々と砂糖菓子のように砕け散る。


「このポンコツがぁ~!!」


 流石にリクガメ型怪人はタイタンのパンチにも耐える。さらに鋼鉄の腕に文字通り噛みついてすらくる。


「タイタン! 次弾HEAT(対戦車榴弾)!」


 物陰に隠れた少年がコミュニケーターで指示を送る。

 指令を受け取ったタイタンは現在、自身が置かれた状況と指令から適切な答えを導き出し実行した。即ち、腕に噛みついた怪人を殴りつけ、怪人の咬合力が緩んだ所を振り払う。さらに怪人の腹部に狙いを定め。肩の主砲を発射!


 先ほどの榴弾での射撃では倒れて転ぶ程度の被害しかなかったというのに、対戦車榴弾の直撃を受けて怪人は口と両目から炎を吹いて絶命する。


 対戦車榴弾(High-Explosive Anti-Tank略してHEAT)とはモンロー/ノイマン効果を利用した液体状金属のメタルジェットによる化学エネルギー弾であり、徹甲(AP)弾などの運動エネルギー弾とは違い初速度は威力に関係が無い。そのためスティンガータイタンの短砲身低圧砲にも使われているのだ。

 装甲車などの機関砲が通じないと言われるハドー怪人であったが、さすがに対戦車兵器には無力であった。もっとも装甲車や戦闘ヘリなどからHEAT弾頭のミサイルを撃ったところで人間と大して変わらないサイズのハドー怪人に直撃させるのは難しいだろうが。


 栗田もチャンスとばかりに手近な戦闘ロボットを2体ばかりドスで切り捨てたところでスティンガータイタンを操る少年に声を掛けられる。


「大丈夫ですか!?」


 辺りを見回すと栗田を取り囲んでいた敵はすでに全滅していた。


「ありがとうございます。助かりました。ですが……」

「何か?」

「まだ仲間が近くで戦っているんです。手を貸していただけませんか?」


 付近の敵を一掃したとはいえ、永野が今も戦っていることに違いはない。早く助けに行かなければ。だが少年は思いもよらぬことを言う。


「大丈夫だと思いますよ?」


 少年の言葉に栗田の脳内には疑問符が浮かぶ。ふと上空を見ると地上から機関砲の対空砲火のように火球が次々と上がってハドーの尖兵たちを打ち落としている。これは一体?

 ふと、三角帽子の通信術式を思い出した栗田が傍らに落ちていた帽子を拾い、永野を呼び出す。


「永野さん、永野さん、聞こえる? 応答して!」


 だが永野からの返答は帽子の術式からではなく背後から聞こえてきた。


「あっ……、どうも、ご心配をおかけしました……」


 見ると永野は下半身が蛇のようになっている女性に背負われていた。

 女性は下半身が蛇になっているだけではない。両側頭部には「く」の字型の角が生え、顔に付いている目は4つだった。彼女はアーシラト。かつてプリティ☆キュートと戦い、その後、思い直してこちらの世界で暮らしている悪魔だった。


「アーシラトさんに助けて頂きました……」

「あいよ~!」


 永野の言葉に気の抜けた暢気な返事を返す悪魔。


「……それじゃ、あの景気良く対空砲火を上げてるのは?」

「ん? なんて名前だっけ? 顔色の悪い異世界の魔王って人」

「あ、ああ。マクスウェルさんですね!」

「えと、そちらは?」

「僕は神田です。こいつはスティンガータイタン!」

「私は彼らに助けられたところです」

「あっ、アレ!」


 話の途中で永野が上空を指差す。その方向を見ると青白い光芒がグングンと近づいてきてハドーの揚陸艇に接触したやいなや、揚陸艇は真っ二つになってしまう。たちまち爆発を繰り返しながら落下していく揚陸艇だった物。


 間違いない。彼だ。

 重装甲の揚陸艇を撃ち落とすでも爆破するでもなく、真っ二つにするような芸当ができるのは栗田には一人しか思い浮かばなかった。

実の所、旧ソ連製の低圧砲の射撃シーンは見たことがないので火球のように見えるかは分かりません。

その辺はご容赦ください。

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