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引退変身ヒーロー、学校へ行く!  作者: 雑種犬
第10話 僕の行く末
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10-5

「あのウサギが真愛さんを魔法少女にしたの?」

「ええ、ラビンが魔法の国からきて初めて会ったのが私だったのよ」


 苦くて濃いコーヒーを無理に啜りながら話をする。

 さくらんぼ組の面々はたっぷりの砂糖とミルクを注いでコーヒーを飲んでいる。ここのコーヒーはミルクで薄まるのを前提にした濃さなんだな。酸味が控えめなのが唯一の救いだな。


組長(オヤジ)、小沢さんから通信でそろそろ帰投するそうです。全員、無事だそうです」

「りょう~か~い」

「その帽子に『念話』の術式が編み込められているのか。便利な物だな」

「ええ。マクスウェルさんの所ではどのように?」

「元の世界では似たような魔法があったが、特に補助媒体を使ったりは無かったな。使える者は限られるが、そもそも通信の重要性についての意識があまりなくてな……」


 宇垣さんから渡された三角帽子を受け取って、しげしげと眺めながらマックスくんが語る。


「それは僕がいた世界でも同じだよ」


 マックス君の話にラビンが乗っていく。


「魔法の国と言ったか?」

「うん。元々、僕のいた世界では争い自体が絶えて久しい所でね」

「それでよく、こっちの世界の住人に戦う力を与えられたものだな?」

「ああ、最初はそれで苦労したよ。何しろこっちの世界では僕たちが使う魔法なんて存在すらしないんだもの」

「何故、そこまでして女子供を戦わせようとする?」


 それは僕も思っていた。ヤクザガールズは中学生。真愛さんに至っては小学校低学年から魔法少女をやっていたのだ。普通はその年代の子供を戦わせようとは思わないだろう。


 ラビンはテーブルの上で僕の顔もチラリと見て話を続ける。さっき銃を向けたからか意識されてるようだ。当たり前か。


「オジキさんも聞いて欲しい。僕達がこの世界の人間に力を貸す理由を。

 一つには、この世界の人間は一部には利己的で破滅的な思考を持つ者も多く存在する。でもね。それ以上に邪悪を憎み、手を取り合い互いに愛し合うことができる優しい人たちも数多くいるんだ。そんな僕達と近い精神性を持った人たちが侵略者の魔手に晒されていて、科学の力では太刀打ちできない相手が現れた時、手を貸すのは当たり前じゃないかな?」


 あれ? このウサギ、なんか良い事言ってる?

 まあ、でもウサギにオジキよばわりされるいわれはないと思うけど。


「もう一つ、これがさっきの魔王さんの質問に当たるけどね。この世界には魔法は存在しない。……まあ、アーシラトみたいな古代の悪魔は別だけどね。

 そんな世界の大人に魔法の力を与えたところで、小さく纏まってしまうのさ。なんていうのかな? こちらの物理法則の中で動いてしまうって言えばいいかな? それって魔法を使わなくてもいいよね? って事しかできないのさ。何か燃やす時、ガスバーナー程度の炎を出すなら魔法なんていらないのさ! そこで太陽を何もない所に出現させたり、反物質をポンと召喚したりするのが魔法使いさ。その点、真愛はよくやってくれたよ。

 そこで僕達はまだ年若い少女たちのセンス・オブ・ワンダーつまり想像力にかけることにしたんだ!

 それに、彼女たちはまだ幼いとは言っても『誰かを守りたい』という意思は本物だよ。それは否定したくないな」


 確かに、僕に魔法の力を与えられたとしてもラビンが言うように常識に囚われた事しかできないだろう。常識の壁を突破できるのは夢見る少女、つまりは真愛さんや山本組長のような女の子か、あるいはマジキチ梁山泊(ARCANA)を一代で築き上げた皇帝(ザ・エンペラー)みたいなレッドゾーンを余裕で振り切った誇大妄想狂くらいなものだろう。


「アレ? ラビン、さん。さっきまで女子中学生を平気で兵器に仕立て上げる邪悪な存在にしか思えなかったのに、何かまともな事を言ってるぞ!?」


「平気」と「兵器」で韻を踏んでみました。


「ラビンは誤解されやすいからね」


 真愛さんがラビンを抱き上げて膝の上に置く、マカロンを一つ渡すとウサギらしく両手で持ってシャクシャクと少しずつ食べていく。


「おっ! パトロール(ドサ回り)から帰ってきたみたいだね!」


 窓の外に箒で飛行する魔法少女のV字編隊がゆっくりとグラウンド目掛けて降下してくる。小沢さんと井上さんの姿も見える


「何だアレは? 清掃用具で空を飛んでいるのか?」

「ああ、あれはこっちの世界のお約束みたいなモンだね」


 マックス君の世界じゃ箒で飛ぶ魔女はいないのかな?


「ただいま戻りました~!」


 しばらくしてから事務所に5人の女子生徒が入ってくる。変身は解除しているが皆、手に箒を持っている。


「あ、お邪魔してま~す!」

「オジキぃ! お久しぶりっス!」


 井上さんは元気だな~。さすが去年、一年生にして特攻隊長とか呼ばれてただけはある。


「お久しぶりです……オジキ」


 小沢さんは女子中学生と思えない渋さがある。ん? 小沢さんとは前の土曜にも会ったじゃん? さてはヤクザ映画の観過ぎだな!


 1年生たちが席を立って帰還組のお茶の準備を始める。


「小沢殿、先週末はどうもありがとうで御座った」

「ザワち~ん。アンガトね! 私もデブゴンも出してお菓子買ってきたから食べてよ」


 三浦君が立ち上がって頭を下げる。天童さんは座ったまま顔を向け手を振る。


「いえいえ当然の事をしたまでです。それにオジキの気合の入った暴れっぷりも久しぶりに見れましたし」


「済まぬが、その箒を見せて貰えるか?」


 マックス君が一人の組員から箒を受け取る。


「これは?」

「ああ、ここにスマホを取り付けるようになってます。『念話』では組員以外とは連絡が取れませんから」

「なるほど……、他の皆も同様の改良をしているようだな」

「特化能力に応じて別の改良を加えてる者も二人ばかりいますね。栗田さんと豊田さん、魔王さんに箒を見せてあげて」


 栗田さんともう一人の組員が自分のロッカーから箒を取り出してくる。


「私の箒には高度計とマッハ計、G計が付けてます」


 栗田さんの箒は計器のせいで非常に重そうに見える。


「私の箒には狙撃銃の脚のスタンドを付けてます」


 豊田さんと呼ばれた女子生徒が箒の先端近くに取り付けられた金具を展開して見せる。恐らくそこにライフルの二脚を乗せるのだろう。




「オジキさんにはお礼を言わなくちゃいけませんね……」


 それぞれお茶を飲み終わった者は食器を片付けたり、訓練を再開したりしてマックス君やヒロ研の皆も訓練の見学をさせてもらってる中、二人きりになった応接セットで山本組長が僕に言う。


「何の事?」


 僕には思い当たる節が無い。土曜の事ならむしろこちらから礼を言うべきことであるし、今さら埼玉の事を言われるとは思えない。


「この間、私、梓ちゃんと喧嘩しちゃったんです……。梓ちゃん、それで組を辞めるって言いだして……」


 ああ! こないだ栗田さんとバス停で会った時のことか!


「その後、ウチに梓ちゃんが来て教えてくれました。今までず~と私に恰好をつけるために無理してたって。本当は怖くて怖くて仕方無かったって……。

 私、そんなこと夢にも思いませんでした。だって梓ちゃんは昔からカッコ良くって、憧れのお姉さんで何でもパッ! っとやっちゃう凄い人だと思ってましたから……」

「見た目からクールな感じだもんね」

「ですよねぇ。でも、本当は違ってたんです」


 何人が知っていることかは分からないが、栗田さんの特化能力からしてそういう人なのだと思う。


「私、組を立て直すことばかり考えて梓ちゃんに甘えていたんだと思います。オジキさんが梓ちゃんに話し合うように言ってくれなければ、私たちはすれ違ったまま離れ離れになっていたかもしれません。だから、ありがとうございます!」


 そう言って僕の顔を見る山本さんに先ほど感じた凄味は感じられない。そこにいたのは去年、埼玉で怯えていた一人の少女だった。




「「「凄~い!!」」」


 事務所の一画で歓声が上がる。

 そこにいたのは1年生たちと指導役の宇垣さん、それに真愛さんとマックス君だった。

 1年生たちは皆、手の平にティッシュペーパーを乗せている。マックス君は1年生たちと同じように手の平を出しているが、ティッシュペーパーは見当たらない。

 その場の皆の視線が天井に向いている事に気付き、僕も天井を見てみると、そこには天井の合板に張り付いたティッシュペーパーがあった。


「ああ、アレ。ああやって魔力操作の練習をしてるんですけど、やっぱり魔王さんは凄いですね!」


 山本さんがテーブルの上のボックスから1組のティッシュを引き抜いて手の平に乗せて見せてくれる。


「…………ッ!」


 山本さんが意識を集中するとティッシュが10cmばかり浮き上がる。なるほど、同様の事をしてマックス君は天井にティッシュを張り付けてみせたのか。


「あれ? こっちの世界の人間でも変身しなくても魔法を使えるの?」

「一度、変身すれば自転車の乗り方みたいに体に染みつくみたいですよ? ただ、そもそも魔力量自体が少ないのでこんな手品みたいな事しかできませんが、それでもいい訓練にはなるそうです。オジキさんも行ってみますか?」

「うん!」


 ソファーから立ち上がって、マックス君たちに近づいていく。


「マックス君、凄いじゃん!」

「ん? 誠殿か。元々の世界でも似たような訓練があってな……。もっとも、最初はちり紙で次は羊皮紙と次第に重い物に変えていくのだがな……、こういうこともできるぞ?」


 天井に張り付いたティッシュが、2枚1組のティッシュがめくれて下側の1枚が落ちてくる。そしてマックス君の掌の上、10cmほどで止まる。更に天井に張り付いていた残りの1枚も落ちてきて、先に落ちてきたティッシュの10cmほど上に止まる。それから上の1枚は右回りに、下の1枚は左回りに回転を始める。


「「「おお~~~!!」」」


 またも歓声が上がる。


「さすがは魔王といったところだね。魔力の手への流入量の調整、放出方向の操作、いずれも完璧じゃないか」


 ラビンが解説を入れてくる。


「うむ。それが目的の訓練だからな。そちたちもそうだろう?」

「いや、僕達はそこまでは求めてはいないよ。ただ短銃に短刀、箒と手を使って魔力を供給する物が多いからね。両手の魔力の集中と魔力の放出が目的さ」


「へえ~? 魔力自体を武器としているわけじゃないのね?」


 真愛さんが棚の上の辞書を持ち上げてから浮かせて見せる。


「ブボォっ!!」


 その光景を見てマックス君が咽てしまう。僕はその光景に呆気に取られる。


「お、おい! ラビンとやら! こっちの世界の人間は魔法があーだこーだ言ってたのはどうなった!?」


 ラビンがそっぽを向く。僕のビームマグナムを突きつけられても、瞬きもせず目を逸らさなかったラビンがだ。


「おい! 答えよ!」

「僕にだって……、分からないことがあるんだ……」


「そういや真愛ちゃんさ~、体力測定の時、ボール投げだけ異様に成績良くなかった?」


 天童さんが気付く。まさかインチキ? いや、禁止はされてないだろうけどさ、そもそも魔法使いを想定していないだろう。


「……てへ!」


 真愛さんがこちらを見てウインクする。可愛くしても騙されないぞ!


第10話は以上で終了です。

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