10-2
神田少年と彼に付き従うベテランロボヒーロー、スティンガータイタンに出会った翌日、僕は真愛さんと二人で下校していた。
「昔、アーシラトさんが悪戯でタイタンの大砲の弾を花火に変えて大変だったのよ……」
「へぇ~、そう言えば昨日、アーシラトさんが腹に穴を開けられたことがあるって言ってたな~」
「ああ、その時の事ね。花火に変えられた砲弾を全部、アーシラトさんに撃ち込んで、それから杭打ち機でズドン! と……」
「ひえ~! 怖っ! てかアーシラトさんって昔は悪かったんだね~」
「うん。なんていうかな? 愉快犯? 面白そうな事を思いついたら即やっちゃうみたいな?」
「はは! アーシラトさんらしいや!」
ガシャコン、ガシャコン、ガシャコン、ウィン、ガシャコン。
お! 噂をすればなんとやら。スティンガータイタンの機械音が聞こえる。
辺りを見渡すと向こう側からタイタンと神田君、それに知らない3人の少年が現れた。が、少し様子がおかしい。
神田くんと同学年ぐらいだと思われる3人の小学生男子たちは、タイタンと神田君の周囲を走り回り、口々に囃し立てる。
「やーい! やーい! ポンコツロボットやーい!」
「悔しかったら空の一つも飛んでみろ!」
「レーザービームって知ってるか? 便利らしいぞ! ポンコツも使ってみろよ!」
(え、エラく昭和スタイルの糞餓鬼様だな)
タイタンに自分が脅かされる事は無いと分かってるが故の暴挙。ただし煽り言葉のセンスは皆無だ。しかし、よくもまあ飽きずに走り回れるものだ。バターになっても知らないぞ。
いやいや! 変な所に関心してないで神田君を助けてあげないと……。よし! ここはZIZOUちゃんスタイルで……。
「こら~~!! なんばしよっとね~!!」
「やべ! 逃げろ逃げろ!」
僕が目一杯の大声を出すと悪ガキ3人組は散り散りに逃げ去っていった。
「大丈夫? 神田君」
「あ、亮太のお姉さんと石動さん」
俯いていた神田君に真愛さんが声をかけると、神田君は顔を上げる。その目にはうっすら涙が浮かんでいた。やっぱり、あんな事を言われたら悔しいだろう。タイタンを使って反撃するわけにはいかないしさ。
「やあ、偶然見かけてさ」
「ありがとうございました。困ってたんです」
やっぱり神田君は礼儀正しい子だ。
「あんな悪ガキ、ブン殴っちゃえばいいのに……」
「僕は暴力は嫌いです。『暴力とは、無能者にとっての最後の拠り所である』。父がよく言ってました」
「アシモフだね。ハリ・セルダンだっけ? サルヴァー・ハーディンだっけ?」
「それを知ってて殴れと言っちゃいますか?」
神田君が呆気に取られた目で僕を見てくる。
「私はその人たちは知らないけど、向こうは『言葉の暴力』と『数の暴力』で来るんだから怪我しない程度でなら許されると思うな」
自分で言い出したことながら、真愛さんに暴力を肯定されるとドキリとする。
真愛さんも元魔法少女、魔法という理不尽を善意で振り回していた狂気の存在だったということを思い起こさせるなあ。
「でも、それで僕が勝ったとしても、結局、それは僕の後ろにタイタンが控えているからで、虎の威を借る狐というか……。本当にそれで勝ったことになるんでしょうか?」
「そ、それは……」
小学生に諭される高校生二人。
神田君も性格がいくらか悪ければ、その頭の良さであの3人組に言い返してグウの音も出ないほど追い込んでやれるだろうに。生きづらい性格をしていると思う。
「う~ん。あの子たちはタイタンが自分たちを害さないって分かってるから、あんな事ができるわけでしょ? ならタイタンはいないものとして考えても……って、そう簡単に切り替えられないか!」
「そうですね……」
「でも非道いわね。タイタンだって実績は山ほどあるのに……」
「いえ、時代遅れなロボットには違いありません」
「そりゃあ最近のトレンドからは外れてるけどさ……」
ロボット兵器のトレンドと言えば3Vチームに代表されるような高機動、最新ハイテク兵器による大火力、AIの疑似人格による高コミュニケーション能力だ。そのいずれもタイタンには無い。
「それでもアイツらが言うようにポンコツだとは思ってないでしょ?」
「もちろんです。装甲の厚さは戦車並みだしで、パワーも火力も十分ですよ! 85ミリ砲は弾種を切り替えることで対応力もありますし……」
「フフっ! それを聞けて安心だわ! 私も誠君も引退したんだから、いざという時は神田君とタイタンに守ってもらわないとね!」
「うん! そうだね!」
「任せてください!」
神田君の顔に笑顔が戻る。さっきまで涙目だったのが嘘のような威勢の良さだ。本当に頼もしい。僕がタイタンに守られることはないだろうが、もしかしたらタイタンと轡を並べることはあるかもしれない。そう思わせるほどだ。
ガシャコン、ガシャコン、ウィン、ガシャコン、ガシャコン。
すっかり元気を取り戻した神田君が去っていくのを真愛さんと二人で見送る。
神田君の歩く速度が上がっているために、タイタンもつられてスピードが上がっている。その様子がまるでタイタンまで元気になったようだった。
その姿を見ながら僕はふと思う。
僕は40年後、何をやっているだろう?
僕には神田君のような理解者はいるだろうか?
ロボットのスティンガータイタンと改造人間の僕、もしかしたら僕の行く末はタイタンと同じかもしれない。むしろ他人にポンコツと馬鹿にされながらも、世代を超えた理解者のいる分、タイタンはマシなのかもしれない。
「という事が昨日ありましてね」
「えっ!? 今の回想シーンで御座るか?」
「うん」
翌日、僕は学校でこの話をしていた。
「僕は知らなかったんだけど、スティンガータイタンってどんなロボットなの? 三浦君は知ってる?」
「まあご近所さんで御座るからな。強いには強いでござるが……、何というか……」
「何というか?」
「ヒーローと言えば誰かのピンチに颯爽と駆けつけるもので御座ろ? その点、タイタンの移動速度は……」
「あ~! それはあるかもね」
「一昨年に神田少年の父上が無くなるまでは父上のトラックにいつも乗ってたので、いくらかカバーはできてたので御座るが……」
トラックでカバーできるという時点でお察しくださいといった所かな。確かにタイタンが猛スピードで走ってる姿は想像もできない。
「ところで三浦君」
「何で御座る?」
三浦君にはこっちの話が本題だった。
「今週の金曜に大H川中のヤクザガールズの所に行くんだけど、三浦君も来る?」
「石動氏は何を言っているで御座る? 行くに決まっておろう!」
三浦君が呆れたような声で言う。決まりきったことを聞くなと言わんばかりだ。
「アタシもいいかい?」
天童さんも横から話に乗ってくる。いいけど、天童さんは大H川中出身なんだから別に目新しいこともないと思うけどな。あっ、こないだのお礼とかそういうことかな?
「草加会長も誘ってもいいで御座るか?」
「いいと思うよ」
「それにしても何かあったので御座るか?」
「先週、知り合った人が異世界の魔王でさ。こっちの世界の魔法を見てみたいって言うから、僕は知り合いだから間を取り持ったんだけど、ついでに土曜のお礼にお菓子でも持っていこうかと思って……」
「魔王というと『蒼龍館の魔王』で御座るか? 石動氏も顔が広いで御座るね。それはそうと、一番、助けられたのは拙者で御座る。お菓子代は拙者が出すで御座るよ」
「そういうことならアタシにも出させなよ」
「ん~、僕も臨時収入があったから別にいいんだけど……」
結局、3人で3分の1ずつ出し合うことになった。木曜にでもオネウチマートのテナントに入ってる有名洋菓子店にでも買いにいくことにしよう。
昔の特撮で巨大ロボット物は色々とありましたが、
「大きなロボ」「赤い男爵」「17」など最終回で壊れてしまう物が多かった気がします。
スティンガータイタンはそんなロボが生き残っていたら? を形にしてみました。




