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前回投下後、3000PVいきました。ありがとうございます!
「邪馬台国の卑弥呼について記述のある魏志倭人伝ですが、これは魏志という史書の倭人伝という項目なのですね。さて、この魏志というのはそれだけでは我々にとって馴染みの薄い物ですが、蜀志、呉志と合わせて三国志と呼ばれる、と言えば聞いたことがあるという人も多いと思います。日本の三国志を題材としたゲームなどで卑弥呼が登場するものがあるのはこういう事情なんですね……」
その日の5時限目、日本史の時間だった。
日本史の担当は中井先生。ストレートロングが良く似合う美人の先生だが、歴女ですぐに授業が脱線するともっぱらの評判だ。
「三国志で貴方は誰が好き? ええと、石動君!」
え? 何で三国志を知っている前提なんですか? えーと、あ! 兄ちゃんが三国志のアクションゲームとかやってたな。
「王平です」
「あら? 微妙な所を突いてくるわね。それは何で?」
「そつがない感じで、最後も敗死するわけでなく病死で終わるからです」
「あ~、ちょっと前まで戦っていた人は目の付け所が違うわね……」
中井先生は一人で納得している。
中井先生が黒板を向いた隙に、隣の天童さんが折りたたまれたノートの切れ端を渡してくる。
≪今日の放課後、部室でデブゴンの退院祝いやろー!≫
うん、いいんじゃない? 僕に異存は無い。
切れ端に「OK!」と書いて天童さんに返す。
中井先生に目を戻すと、古代中国において皇帝が印を臣下に送ることの意味について解説していた。もちろん教科書にはそんな所はない。噂に違わぬ脱線ぶりだった。
「退院祝いは皆、出れるってよ!」
6時限目も終わり、SHRを待っている時間に天童さんが話しかけてきた。
「皆って草加会長も?」
「草加ちゃんも大丈夫って」
そう言ってスマホを見せてくる。RINEで連絡を取り合ったみたいだ。
放課後、僕と明智君で最寄りのコンビニまで買い出しに行く。
今日の分は僕の奢りでいいだろう。三浦君に怪我させた連中を処理した分の報奨金は僕が貰うわけだし。そこから出したと思えば安いもんだ。
ちょっと多いくらいかな? ってくらいの飲み物とお菓子をカゴに入れていく。
「なあ。いくらなんでも多すぎないか?」
「ん~。余ったら部室に置いといたらどうだろ? なんか作業するとき摘まめるように」
「それもそうだな。 なら飲み物は常温でも普通に飲めるお茶系を多めにしとくか……」
「そうだね!」
結構な重さになったので飲み物とお菓子で袋を分けてもらう。軽いお菓子は明智君に持ってもらって、重い飲み物の袋は改造人間の僕が持つ。
買い物袋を持って部室に向かう途中、校舎と部室棟を繋ぐ廊下でどこかの部の顧問の先生に見つかる。竹刀を肩に担いだ見るからに厳しそうな先生だった。
「コラっ! お前ら、お菓子なんて持ってどうするんだ!」
「こないだ怪人に襲われて怪我した奴の退院祝いを部室でやろうと思いまして……」
明智君が上手く切り抜けてくれる。
「何!? それは大変だったな。あまりハメを外しすぎるなよ!」
「「はーい!」」
と、これで済んでしまった。
それにしても明智君、前に生徒会長に「嘘は言ってない。隠していただけ」ってクズの言うことだって言ってたよね?
三浦君が怪人に襲われたのは本当だし、退院したのも本当だけどさ。入院したのは一晩だけなんだけど、それを知ってたら、さっきの先生の対応も変わったんじゃないかな?
部室に入ると他のメンバーは全員揃っていた。
「おっ! 待ってました!」
「買い出し行かせちゃって悪いわね」
「今日の分は誠の奢りだそうだ」
「おお~! ありがと~!」
「いいの? 誠君?」
「うん。臨時収入があったし」
「ヌフフ、かたじけのう御座る」
長テーブルの上にお菓子を広げて、めいめいに飲み物の500ミリペットボトルを取っていく。僕は炭酸入りヨーグルトドリンクにした。
「「「「「「かんぱ~い!」」」」」」
全員が飲み物を取ったところで乾杯をする。
「それにしても三浦君、すっかり元気になって良かったよ」
「その節は何度、お礼を言っても足りないくらいで御座る」
「いいってことよ!」
話題の中心はやはり三浦君だ。
「いや~、デブゴン、カッコ良かったわ~。皆に見せてやりたいぐらいだわ!」
「ドゥフフフ! 惚れたで御座るか?」
「いや! 自分でも不思議なぐらいそういう気持ちにはならなかったわ!」
「でも天童さん、三浦君に膝枕して、怪人が爆発した時は炎と破片から庇おうとしてなかった?」
「そら介抱ぐらいするだろ? てか、開幕必殺技でいきなり怪人を爆破したヤツが何言ってんだ?」
「あら、そうでしたっけ? ウフフ」
あ、あの時は気が動転してたんだ。ゴメンよ天童さん。
「そう言えば会長! 『流星』と呼ばれる魔法少女にも助けられたでござるよ!」
「マジで!」
「パーソナルカラーは水色で、シニヨンと眼鏡の似合う美少女で御座るよ!」
「マジか~! 私も超見たかった~!」
本気で悔しそうに両手で頭を抱える草加会長。
「水色? 航空迷彩?」
とかブツブツと何か言ってるし。ていうか、それについてはハズレだよ。会長さん。ヤクザガールズのパーソナルカラーは特化能力を見つける前に、初変身の時点で本人の意向に関係無く決まってるらしいし。
「そういや不思議に思ってたんだけどさ」
「ん? 何で御座るか?」
「ヤクザガールズは別に広報とかいるわけでもないけど、そんなに謎の存在なの?」
三浦君の話だと栗田さんなんか「正体不明の謎の魔法少女」扱いらしいし。
「いや『流星』だけが別格で御座るな」
「そうねぇ。別に隠してるわけじゃないみたいなんだけど、目撃者が極端に少ないのよね」
三浦君に草加会長も同調する。
そこに意外にも明智君が口を挟む
「……それは多分な。他のヤクザガールズの面々は書類関係とか事務仕事が苦手でな。栗田にその皺寄せがいってるんじゃないか?」
「あ~、ありえるね~!」
「だろ?」
「栗田さん、頼まれると断れないタイプだもんね~」
明智君も去年、埼玉でヤクザガールズと一緒だったしね。
「え? 明智君も石動君も『流星』と知り合いなの?」
「あ、会長。石動氏がヤクザガールズに連絡を取ってくれたで御座るよ!」
「魔法少女の連絡先を知ってるだなんて……、う、羨ましい!」
「僕も明智君も去年の埼玉で一緒だったから……」
「だな」
明智君がスマホを取り出して何やら操作してから三浦君に差し出す。
「お前らが『流星』って言ってるのは、この写真で誠の2人隣にいる人だろ?」
「どれどれ……。おお! そうで御座る! この人で御座る!」
「え! 私にも見せて!」
草加会長が食いついていく。やっぱり草加会長もヒロ研の会長だけあってそういうの大好きなんだな。
食い気味の草加会長の後ろから真愛さんと天童さんがスマホの画面を覗きこむ。僕も倣って一番後ろから覗き込むと、スマホの画面に表示されていたのは去年、埼玉の自衛隊施設内で撮影した20人ほどでの記念撮影だった。
僕や明智君の他にも、譲司さんや犬養さん、ヤクザガールズの面々などが写っていた。それにしても僕、この時は荒んでいたつもりだったけど、ちゃっかり記念撮影には映ってるのな。
「この栗田って子は誠も言ってたけど、断れないタイプでな。こっちのロンゲのおっさん、生徒会長のお父さんなんだけど。コイツ、書類仕事はこの子か誠にブン投げてたぞ」
「はは! そうだった、そうだった」
弾薬の補給申請だとか、食事をパトロール中に外で食べたときの経費の支払い申請だとかそういうのよくやらされたっけ。特に弾薬の補給なんて僕もヤクザガールズも自分たちの分は必要ないのに。ほんとしょーもないオッサンだったなぁ。
「アっちゃんも大変だな~」
天童さんが呆れたように言う。
「そういえば天童氏は彼女たちの先輩で御座ったな」
「ん? そうだよ? こっちのヨっちゃんなんかクラスメイトだったし」
ヨッチャン? あ、米内前組長か!?
「なあなあ、アっちゃんってそんな凄いヤツなの?」
「栗田殿は羽沢殿に次いで史上2人目の音速を突破した魔法少女で御座るよ?」
「え? それ本当?」
天童さんよりも先に真愛さんが驚く。天童さんはといえば「音速を突破する」ことが凄いのかどうか悩んでいるようだった。
「うん。本当だよ。でも、こないだ本人が言ってたけど音速を超えられるのは急降下時のみだって」
真愛さんに僕が答える。
「そ、それ本当!?」
今度は草加会長が異様に食いついてきた。メモ帳を開いて何やら書き込んでいる。
「う、うん。これはついこないだ聞いた話ですけど……」
「……そっか……、だから流星か……」
またブツブツと呟いてメモ帳とにらめっこだ。
「そういえば会長。今朝、石動氏が言ってたで御座るが、デスサイズの身長は205cmだそうで御座る」
「三浦君! でかしたわ!」
「ついでに変身前の身長と体重は……」
二人でドンドン、ヒートアップしていく。
「くす! 三浦君も草加会長も本当にヒーローが大好きなのね!」
真愛さんはそう言って微笑んでいるけど、コレはそんな微笑ましいもんじゃないですよ? なんていうか鬼気迫るというか……
第9話は終了です。
「ヒーロー同好会」なのに略称が「ヒロ研」なのは如何なものかと思い始めている今日この頃です。




