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引退変身ヒーロー、学校へ行く!  作者: 雑種犬
番外編2 仁義無き争い
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EX-2-1

番外編、第2弾です


訂正 井上の学年を間違えてました。

【8月××日 二代目さくらんぼ組 若頭 鮫島真琴 死亡】


 大H川中のさくらんぼ組に激震が走る。

 当時、H市内にいたのは所属組員の半数程度であったと伝えられる。夏休み中、残り半数の構成員は隣県の埼玉に派遣されていた。

 派遣メンバーは3年生全員に若頭補佐である2年栗田、栗田の腹心である1年山本、そして武闘派(イケイケ)として知られる2年の小沢、1年の井上を加えた編成であった。

 これは戦力でいうのなら、当時最高のメンバーと言っても過言ではない。特殊怪人事件、いわゆる特怪事件の多発地帯であるH市を完全に空にすることはできないが、埼玉の状況を重く見た当時の執行部の力の入れようが見て取れる。

 さらにH市に届けられた続報に事態は混迷の色を深める。


【8月××日 二代目さくらんぼ組 組長 米内蛍 死亡】


 後に埼玉ラグナロクと呼ばれる一連の抗争。その最終決戦にて組長が戦死したのだ。

 伝え聞く彼女の最後は、満身創痍の状況にありながらも生命と魂を魔力に転換し、多勢と渡り合った末の立ち往生であったという。

 正に一時代を築いた任侠の徒花であった。

 組長の訃報に多くの物が涙した。


 その他、続々と届けられる派遣組員の訃報。

 明らかな異常事態であった。

 ヤクザガールズは集団戦で本領を発揮する魔法少女では無かったのか? 何故、その集団戦でやられるのか? 


 混乱の渦中にあったさくらんぼ組事務所の状況を組長代行であった宇垣は後に語る。

「もしかしたらH市に残った私らの方が恐怖していたかもしれません。目の前に敵がいて戦っていたなら、自分を奮い立たせることもできたでしょうからね……」


 そして2学期の始業式前日、本部長であった片岡彩弓の遺体が発見される。

 これで当時のさくらんぼ組3年生全員の死亡が確認された。

 2学期、騒乱の跡目争いが幕を開ける。




(…………帰りたい……)

 

 栗田梓は一人思う。

 始業式の放課後、大H川中旧校舎のさくらんぼ組事務所において緊急総会が行われていた。

 若頭補佐である栗田を議長として、参加者は全組員。

 栗田の口から死亡者の詳細が語られ、黙祷がささげられる。そして新体制についての話し合いに移る。


 さくらんぼ組は組長を頂点として若頭、本部長、若頭補佐の三役を幹部としている。宇垣の組長代行という役職はあくまで臨時の物であり、組長と三役、全員の長期不在に対し米内直々に指名された物である。相談役というポストもあるが、これはマスコットのラビン専用のポストである。

 また組長がその任を果たせなくなった場合には、若頭が組長を継ぐことにはなっている。しかし、本部長と若頭補佐には後継者としての立場は無い。


 大方の組員の予想では、組長の座は栗田若頭補佐と宇垣組長代行の一騎討ちになると思われていた。

 方や三役とはいえ本来の後継者の補佐役。方や前組長の指名での組長代行とはいえ臨時に過ぎない役職。


「まさか組長も若頭も守れないで、次の組長やりますなんて言わないわよね? 栗田さん?」

「そうね。私は立候補するつもりはないわ」

(おし! ナイス! 宇垣さん! 私はとっとと引退させてもらうわよ!)


 意外にもあっさりと跡目争いから自分から降りる栗田若頭補佐。誰もが三代目は宇垣組長代行で決定かと思われたその時……


「は~い! 私、立候補します!」


 立ち上がり手をあげたのは1年生の山本だった。


「「「は?」」」


 彼女はその年の春に組に入ったばかりの新人と言ってもいい。だが埼玉帰りで、()()()()()と言われている存在であった。

 あっさりと跡目争いから降りた栗田の腹心が立候補する。その場の全員が彼女の真意を探ろうとする。栗田若頭補佐の真意を。()()()()()()()()()()()()()()()()()


(山本さん、何を考えているのかしら? ヤクザガールの頭なんてロクなモンじゃないわよ?)


 山本の立候補に対し、栗田は何も言わない。()()()()()()()()()()()()()()()……。

 全組員がそう思ったという。


「ふざけるな! チンピラ(チンケなヒラ)以前の見習い(ジュンコー)じゃねぇか!」


 さくらんぼ組では自分の特化能力を見つける前の魔法少女を見習い、つまり準構成員としている。その山本が組長に立候補しようとしているのだ。宇垣が怒るのも無理はない。第一、山本はまだ1年生なのだ。


(えーと……、山本さんを応援するべきなのかしら? とりあえず議長として公正に、公正に)

「宇垣さん、山本さんはジュンコーではないわ」

「梓の言う通り、翼にも立候補する資格はあるよ!」

「ラビン!」


 机の上に突如、ラビン相談役が現れる。

 マスコットである彼は全組員に対し公平だ。これで栗田の言葉が嘘ではないことが証明された。


「ラビン、貴方、どこに行っていたの? 総会をやるって言っておいたでしょう?」

「梓、ゴメン! 僕も蛍がやられちゃうなんて思って無かったからさ。代わりの組長をスカウトできないかと思ってさ……」

「馬鹿な! 何処の馬の骨とも知れないヤツに命を預けられるわけないだろ!」

「そうだよ!」


 相談役以外は考えもしない事であったが、宇垣と山本により「新組長の外部からの招聘」の線が拒否され消えた。


(スカウトって一体、どんな人かしらね? ま、私じゃなければ誰だっていいわ!)

「そうかい? 『何処の馬の骨』ってわけじゃないんだけどね。どのみち向こうから断られちゃったよ。それじゃ僕は話し合いを見させてもらうね。もっとも僕は君たちの決定に異を唱えることはしないけど」


 そう言ってラビンは壁面の校内放送用スピーカーの上へふわふわと飛んでいく。


(ラビンのヤツ、宇垣さんに火点けるだけ点けといて自分は高見の見物ってわけ!? と、とりあえず話を元に戻しましょう……)

「立候補者は宇垣さんと山本さんの他にいない?」


 議長役の栗田の問いかけに対し、宇垣が吠える。


「山本はジュンコーでないにしても1年のチンピラには違いないだろ!!」

(ほら宇垣さん、滅茶苦茶ヒートアップしてるじゃない……。少し落ち着いてもらわないと……)

「宇垣さん、ウチの組では組長が死亡時にすでに若頭が死亡していて、変わりが指名されていないなんて想定されていないの……」

「だから次期組長に1年は立候補できないって規定は無いってか? テメェ、自分の手下を使って何をしようとしていやがる!?」


 宇垣の鋭い眼光が栗田を射すくめる。


(うわっ! 私にまで飛び火してきたわ……。ここは退かせてもらうに限るわ)


「そう……、なら私は議長を退かせてもらうわ。若頭補佐なんて組長と若頭のいない今、なんの意味も持たないでしょうからね」

(え~と、空いている席は……、あっ、後ろの方が空いてる。山本さんの後ろを通らせてもらおうっと……)


 議長の座を降りた栗田がすたすたと山本に近づく。


(あ、山本さんの背中にカナブンが付いてる! 取ってあげようかな? でも虫に触るのって抵抗があるわね……)


「おい……! 栗田ァ! 手前ェ、どういうつもりだ!」

(え……?)


 栗田は座っている山本の背後に立つ。これまでとは違う。栗田若頭補佐が山本翼への支持を明確に表明した瞬間であった。これ以降の山本への反目は、即、栗田への敵対行動と取られる。


(え? え? 宇垣さん、このカナブンがどうかしたの? てか、宇垣さんの位置からカナブンは見えなくない? どういうこと?)


 スッ……!

 スッ……!


 栗田の両脇に小沢と井上が並び立つ。

 山本、栗田、小沢、井上。埼玉の生き残りの4人であった。


(え? 小沢さんも井上さんもどうしたのかしら? そんな所に立たれたら、私が動けないじゃない……)


「それで勝ったつもりか……! 栗田ァ!!」


 宇垣が両手をテーブルに叩きつける。


 後に栗田・宇垣両者の名から「栗垣抗争」と呼ばれるさくらんぼ組、三代目跡目争いの幕はこうして上がった。


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