8-3
「デブゴン。アタシたち、助かったみたいだな……」
「……そうで御座るな」
少しでも楽な姿勢にしてやろうと、地面に座ってデブゴンの頭を膝の上に乗せてやる。
そのアタシたち二人の前でザワっちが2丁の銃を乱射する。いや、乱射というのは違うかもしれない。ザワっちのの銃弾が外れることはないからだ。
ドンドンドンドンドンドンドンドン!
豹型怪人の体を貫通することはできなかった拳銃弾だが、配下の戦闘ロボが相手であれば話は別だ。装甲の最も厚いであろう胸部であろうと、曲面で形作られた頭部であろうと関係なく銃弾が命中すれば弾け飛ぶ。
前進しながら2丁拳銃を連射。
戦闘ロボの集団の中で連射。
四方八方から飛び掛かられても連射。
背後から迫る敵を振り向きもせずに連射。
左右の敵に両手を水平に広げて連射。
クルクルと身を回しながら連射。
攻撃を回避してムーンサルト式に飛びながら連射。
2丁拳銃がまるで新体操の手具のようだ。
飛び散る空薬莢がどんどん増えていく。空薬莢の量が拳銃本体の体積を超えている気がする。
「……おかしくねぇ?」
「何がでござるか?」
ついアタシの口から出た疑問に、デブゴンが戦闘を見もせずに答える。
「なんで弾切れにならねーのさ!」
「ああ、『2丁拳銃のザワ』の特化能力は『高速リロード』。その速度は自身の消費ペースを超えているで御座る」
「はあ?」
そんな無茶苦茶な。
「ほれ、彼女の手の甲から魔法陣が浮き上がっているで御座ろ? あれがソレで御座る」
確かにザワっちの両手から赤い光の魔法陣が浮き上がっていた。
「それにホレ!」
デブゴンが弱々しい動きでゆっくりと天を指差す。
広がる青空の中を何かが動き回っている。小さな黒点にしか見えない蚊のような動きをしているのが数体と、ピンクの光線。
ピンクの光線は空を縦横無尽に動き回り、黒点にぶつかると黒点は爆散してしまうが、光線は何事も無かったように機動を続ける。また別の黒点に狙いを定め、ジグザグの複雑な運動で接近する
ピンクの光線はビームやプラズマの類ではないのだろう。恐らくは何者かが光を発しながら空を駆けているのだ。そして遥かに運動性に劣る黒点に体当たりを繰り返しているのだ。
また1体、黒点が爆発する。
「な、なんだアリャ!?」
想像を絶した光景に思わずデブゴンの服を強く握ってしまう。
「大丈夫、大丈夫で御座るよ。黒い点にしか見えないのがハドーの飛行型戦闘ロボ。ピンクの光を引いているのが、多分、魔法少女で御座るよ」
「多分ってホントに大丈夫なのかよ!?」
「接近戦タイプの『2丁拳銃のザワ』と違って目撃情報が少ないので何とも言えないので御座るが、『流星』の二つ名で呼ばれる魔法少女がいると聞いたことがあるで御座る」
「聞いたって誰から? 私も大H川中だったけど、そんなん聞いたことねーぞ!」
「石動氏からで御座る」
「マコっちゃん情報かよ……」
マコっちゃんののほほんとした顔が脳裏に浮かぶが、ヤクザガールズに連絡取ってくれたのもアイツなんだから当てになる情報なんだろう。
それにしてもアタシは駄目だなぁ……。本当ならアタシが怪我したデブゴンを励まさなきゃいけないのに、アタシが逆に励まされてる。
「ハッ。1個小隊の戦闘ロボをまさか一人で殲滅するとはな!」
アタシたちが空の戦いに気を取られている内に、ザワっちは戦闘ロボを全てスクラップに変えていた。
「……残りは貴方たち3人だけです。渡る渡世のなんとやら。投降して洗いざらい白状するなら命までは取りません」
先頭の豹型怪人に右手の銃を向け、左手の銃を少し離れた残り2体に向けるザワっち。
「とっとと片づけてしまえ!」
「俺達の助けが必要か?」
2体の怪人が先頭の怪人に話しかける。黒い方が助勢を口にするが、先に子供を襲おうとした怪人はそれを拒否した。
「いるか! こんなメスガキ一人に俺が負けると思っているのか!?」
「ふん、好きにするがいいさ」
最初から分かっていたのか、身じろぎもせずに腕組みをしたまま見守る2体。
ザワっちが左手の銃も向けるのが先か、豹型が駆けだしたのが先かは分からない。気が付いた時には二人は殴り合うような距離で戦い始めていた。ナイフのような爪と2丁の拳銃で。
上段から振り下ろされる大振りの爪の一撃を変形ムーンサルトで回避しながら左膝に連射。
着地の勢いを使い、アスファルトの上を転がりながら連射。
飛び上がるように立ち上がり豹型の背後から接射で連射。
駄目だ! 背後からの連射でも怪人には然したるダメージを与えることができない。
「ちょこまかとォォォ!」
怒声と共に振り向きざまに振りかざされる凶刃をスウェーで躱し、左膝に1発。跳ね上がる銃口の勢いを使いながら正中線をなぞるように連射。
下段から振り上げられるアッパーカットをハイキックでいなしてクルリと周りながら左膝に連射。
両手を交差させて2丁の拳銃で左膝を連射。
「クソがあぁぁぁぁぁ! ……………………!」
飛びかかろうと駆けだした豹型怪人だったが左脚で踏み込んだ瞬間、その体は大きく揺らめく。
ザワっちはこのために左膝へ執拗に銃弾を浴びせていたのか!
もちろんザワっちがこの瞬間を見逃すはずもなく、足元に出現させた魔法陣で一気に加速。抱擁するような距離まで詰めてしまう。
そして体勢を崩して頭を下げた豹型の口中へ右手の拳銃を押し込む。
「体の中まで頑丈にできてるもんですかね? 最大出力、徹甲、爆裂……」
ザワっちが魔法を発動させるたびに襟元の代紋のさくらんぼが浮かびあがる。
そして銃爪を引くと、豹型怪人は断末魔を上げることもなく頭部が吹き飛ぶ。
「驚いたな……我らヤグアル三兄弟が末弟、ドライを倒すとは……」
「次は我らアインとツヴァイが相手だ!」
今まで観戦していたもう1体の豹型と黒豹型がついにやる気をだした。戦闘に備え首を振って伸ばし、手首を振る。膝を屈伸すると筋肉が大きく膨れ上がる。
が、ザワっちは2体の怪人に背を向け、こちらに歩きだす。
「……おい! どうした? まさか降参するとでも?」
「私の役目はここで終了です」
歩きながら頭だけ振り返り答える。
「なんだと! どういうことだ!?」
「真打登場ということです」
ザワっちは拳銃をホルスターにしまい、アタシたちの所までくるとしゃがみ込んでデブゴンに両手の平を向ける。掌から放たれるキラキラと乱反射する光がデブゴンにあたると、デブゴンの呼吸が楽になったようだ。
「な、ふざけるな!」
怒りを露わにする豹型は気付いていただろうか? 自分の背後。上空から自身に目掛けて形成された赤く光るトンネルに。
「デスサイズ! キック!」
爆発!
襲い掛かる破片がザワっちの魔法障壁にぶち当たって落ちる。魔法障壁に守られていると分かっても迫りくる紅蓮の劫火に身を屈めてデブゴンを守ろうとしてしまう。思わず目を瞑る。
目を開けた時、豹型怪人のいた場所にいたのは死神。アスファルトに開いたクレーターに立つデスサイズだった。
「……マコっちゃん?」
アタシの知るマコっちゃんじゃなかった。
変身しているとか、そういうことじゃなくて。
大きな目をクリクリさせて笑顔のマコっちゃん。ちょっとしたことでヘコんでしまうマコっちゃん。「可愛い」と言われると頬を膨らませて拗ねるマコっちゃん。それがアタシの知る石動誠だった。
そのマコっちゃんが怒り狂っている。
「うわあああああ!」
雄たけびを上げて黒豹型に大鎌で斬りかかるデスサイズ。
「チッ……!」
黒豹型の両手の爪に大鎌は受け止められるが、デスサイズは右手で背中から鉈を引き抜いて追撃を仕掛ける。躱されても今度は左手の大鎌。
大鎌と鉈の二刀流で黒豹型を追い詰める。
その姿にアタシは思わず背中に冷や汗が流れるのを感じていた。マコっちゃんはアタシたちのために駆けつけてきたのに。マコっちゃんはアタシたちを守ろうとしているのに。マコっちゃんが怒っているのはデブゴンが傷つけられたからなのに、だ。
「石動氏、激おこぷんぷん丸でござるなぁ……」
「でしょう? 私も巻き添えは食らいたくはないんで……」
アタシの膝の上のデブゴンと魔法で治療を続けるザワっちは落ち着いていた。
「小沢殿は石動氏と面識が?」
「ええ。去年の埼玉で」
「ああ!」
「ああなっちまったオジキと並び立てるのは、オジキのお兄さんか、ウチの先代組長くらいなモンでしょう」
「それにしても悲しい男で御座る……」
「ええ、本当に……」
え? あのマコっちゃんが「怖い」とかじゃなく「悲しい」?
「石動氏はあんな事を好む男ではないというのに……。彼の望む生き方は、彼を望まぬ戦いから遠ざけてはくれないので御座るなぁ」
そうだ、そうだよなあ。アタシがわざわざ電話してマコっちゃんに助けを求めたんだよな。マコっちゃんは戦いたくなくて、他にいくらでもヒーローがいるH市に来たのに。
大鎌を爪で反らした黒豹型だったが、続く鉈の袈裟斬りを躱しきれずに受けてしまう。大きな火花が飛び散る。身をのけぞらした怪人の腹部に大鎌の石突が叩き込まれる。
たまらず吹き飛ばされる怪人。
「時空断裂斬!」
左腕から繰り出される赤く光り輝く大鎌の一撃を受け、黒豹怪人は頭頂部から両断され爆発四散してしまう。
「マコっちゃん!」
アタシは友人の激闘に右手の親指で応える。
第8話は終了です。
「リベ〇オン」みたいなガン=カタをやりたかったけど断念しました\(^o^)/




