39-20
やがて18時30分になると、夕食の時間になる。
昨日は家に帰ってから食べたけれど、今日からは泊まりと言う事で僕も真愛さんも子羊園で夕食を頂くことになった。
「さ! 石動さんも羽沢さんもお腹いっぱい食べてくださいね!」
「急な話ですいません。それじゃ頂きます」
2列に並んだ長テーブル。
その出窓側のテーブルの端に僕たちは座った。
僕が出窓を背にして、対面に真愛さん。真愛さんの隣に咲良ちゃん、そして僕の隣が河童さんの席だ。
咲良ちゃんの席は普段は違う場所らしいのだけれど、いざという時の護衛のために彼女には真愛さんと僕のそばにいてもらう事にした。
でも例の風魔軍団に人質に取られていたシスター智子が僕たちの席にトレーに乗った料理を持ってきてくれて食堂に集まった皆で「頂きます」をしたというのに隣の席は空いたままだった。
辺りを見渡すと他のシスターさんと一緒に河童さんはまだ1人でご飯を食べられない小さな子の食事を手伝っている。
僕が抱いていたイメージと違って意外と面倒見のいい人(?)なんだろう。
そういえば、僕が泊まりの準備をしにいっている間に空き部屋の掃除やベッドの準備をしてくれたのも河童さんらしい。
もう「河童」なんて呼び捨てにはできないね。
「あっ、美味しい……」
「そうね。栄養バランスも凄い考えられてるって感じよねぇ」
「いやぁ、僕、普段は1人で自炊だからこういう家庭的な優しい味が嬉しいなぁ……」
今日のメニューはたっぷり野菜と豚肉の中華風肉野菜炒め、ホウレン草を生姜醤油で和えたお浸し、関西式の肉じゃが、玉ねぎ入りのかき玉汁。
肉じゃがのような煮物はたくさん作ると美味しいなんて話も聞くけれど、逆にたくさん作ると水分とか出てきそうな肉野菜炒めもしっかりと油通ししているのかべッチャリとしていない。色鮮やかなままの野菜にコッテリとした鶏ガラスープが絡んでご飯が進む味付けになっていた。
僕も真愛さんも美味しく夕食を頂いていたわけだけれど、人生の楽しみの1つであるハズの食事でそうも言っていられない人が1人だけいた。
「よ~し! 咲良、たっぷり食べろよ~」
「…………」
アーシラトさんが持ってきた咲良ちゃんのご飯は茶碗ではなく丼に盛られていた。それも丼物やお蕎麦に使われるような小さな丼ではなく、ラーメン丼にだ。
実は僕のご飯もラーメン丼なのだけれど、僕の場合はサブエネルギープールを食料から賄っているので昔に比べて大食いになってしまっているというだけ。それに比べて彼女は中学1年生の極々普通の人間だ。
咲良ちゃんは食べ始めたばかりだというのに顔を青くしながら無言で丼飯を無くす事に取り組んでいた。
「あっ、ちゃんとオカズも食えよ! イエス・キリストだって言ってただろ。『食事はバランス良く』ってな! ガッツリ鍛えて、ガッツリ食う。それが強くなるコツさ!」
どうやらラーメン丼のご飯のみを食べてそれで御馳走様とはいかないようだ。
むしろ咲良ちゃんのお皿に乗せられているオカズは他の子に比べて気持ち多いような気すらする。ちょうど少し離れた席でご飯を食べている柔道部っぽい男子と同じくらいかな?
さすがに少し可哀そうな気がして、助け船を出してもらおうと園長先生を探してみると、老シスターはアーシラトさんの後ろで咲良ちゃんを見ながらどこか遠い目をしている。その目はなんだか「懐かしいな~」と言っているようだった。
そういえば園長先生も昔はエクソシストのバリバリの戦闘員だったそうで、自分の若かった頃の修行を思い出しているといったところか。
う~ん、でも鍛えて食べて寝て、また鍛えるってスタイルで邪神なんかに勝てるのかな?
そら僕みたいに改造人間になれとかは思わないし、思ったとしてもそんな事、口が裂けても言えないけどさ。
やっとの事で食事という苦行を終えた咲良ちゃんだったが、アーシラトさんがデザートとばかりに持ってきたビールジョッキと砂糖壺に水差しを見てこの世の終わりといった表情を見せる。
ビールジョッキにたっぷりの白砂糖(これは果糖らしい)を入れて水を注ぐと咲良ちゃんの元へと運ばれる。
「……ぅぷ」
「ねぇ、アーシラトさん?」
「ん、なんだい?」
「これ、どっかで見たと思うんだけど、もしかしてマンガ?」
「おっ! よく分かったな! 行きつけの美容院で読んだんだ!」
アーシラトさんはキリッっとした顔で言ってのけるものの、特訓の元ネタがマンガはどうかと思う。
てか「〇゛〇」置いてる美容院ってなんだよ!? アレは床屋に置いてあるものでしょ?
咲良ちゃんには是非、改宗をおススメしたい。
以上で第39話は終了となります。
それではまた次回!




