7-3
2018.3.15
マクスウェル=ラ=ピュゼル
を
マクスウェル=ラ=シュライク
に変更しました。
「ラ=ピュゼル」をモズの名で呼ばれた実在の海賊からあやかったつもりでしたが、完全な勘違いでした。
「ラ=ピュゼル」だと乙女とか使用人の意味になるそうでイメージから外れてしまうためです。
記憶頼りでやると駄目ですね。反省します。
よし!
メールかRINEの操作をするフリをして、それから自分で着信音をならす。で、電話が来たことにして場を離れよう!
ズボンの後ろポケットからスマホを取り出したその時だった。
「もし、そこな魔人よ」
「ひゃい! ぼ、僕でしょうか!?」
なんと青灰色の人に話しかけられてしまった。突然のことで声が裏返る。
ん?
今まではなんかヤバい気がして、視線をちょろっと動かして見るだけだったから手しか見えなかったけど、その人は顔も青灰色で、髪はほとんど銀髪に近いような薄い金髪。顔は若いが深い知性を感じさせる。耳は笹のように尖っていた。
尖った耳で思い出した。先週末にヒロ研の草加会長から聞いたな。異世界出身者のことを。
「あ、あの~。貴方はもしやダークエルフさんでしょうか?」
「いや、違うぞ? そいつは3高だろう。制服で分からんか?」
違うのか! 耳が尖ってるからエルフで、肌の色が青灰色なのも考えてダークエルフかと思ったよ。
というか彼の制服はブレザータイプの物で、3高の学ランとは違っているな。う~ん。H市の高校の制服ってまだ詳しくないんだよね。
「すいません。僕、最近、越してきたばかりでよくわからないんですよ」
「なんだ。そうか……、自分で自分の名が売れていると思うのは予の悪い癖だな。『蒼龍館の魔王』といっても聞き覚えないか?」
「ん? んん? う~ん、すいません。初耳です。…………あっ、蒼龍館って山の上の方の私立の進学校ですよね?」
「うむ。その通りだ」
あ~、確かに蒼龍館はブレザーだって小耳に挟んだことがあったような……
それより魔王って何だ? マオウ? 麻黄? 「蒼龍館高校の漢方薬です」って自己紹介があるか!? 昔、プロ野球選手で「大魔神」の異名で呼ばれる人がいたけど、そんな感じ? これも素直に聞いたほうがよさそうだ。
「ところで魔王ってのはどのような意味でしょう?」
「その言葉通りに『魔族を統べる王』という意味だ。もっとも、ここではない別の世界の話だがな」
「あ~、ダークエルフさんたちと同じ異世界出身の方でしたか~」
「然り、勇者とその仲間たちと共にこちらへ飛ばされてきたのよ。ついでに言うと、貴殿が先ほど間違えておったダークエルフは肌の色が全然違うぞ。土のような濃い褐色だ」
「そうだったんですね。失礼しました」
この魔王さん、最初のイメージと違って話しやすいな。尊大な感じはするけど、もう見た目から違うし、そんなもんだって気になる。
「ところで魔人よ」
「あの、先ほどから言われている『魔人』とは何でしょうか?」
「うん? そちのことだが?」
は? 機械呼ばわり、化け物呼ばわりは今までに経験済みだけど「魔人」!?
え、自分が「魔王」で、僕が「魔人」。「王」と「人」。同類項かつ僕の方が下ってマウンティング発言? さすが魔王。
「え? ま、魔人というのはちょっと……」
「なんだ違うとでも言うつもりか? それほど濃密かつ芳醇な死の香りを漂わせておいて……」
「ふぁっ!?」
何ソレ? 魔王さんはうっとりした表情でさらに続ける。
「そんな童女のような顔をしておいて、一体、どれほどの屍の山を築いてきたのやら」
「ん? それだったら魔王さんや勇者さん、その他にもたくさんいるヒーローたちは『魔人』なのですか?」
倒してきた敵の数が「魔人」の基準なの? 僕も中々にハードな戦いをしてきたつもりでも、活動期間は1年に満たない。もっと活動期間が長いヒーローはいくらでもいるし、スコアを僕より何倍も稼いでいる人だっているんだ。
僕の言葉に魔王さんは目を見開いて僕のことをまじまじと見つめる。
「まさか、本当に自覚がないのか?」
「自覚も何も『魔人』なんて初めて聞きましたし……」
「ふむ、魔人というのはな。行くも死、行かずとも死。そんな自らの過酷な運命すら屠り、冥府魔道の道を切り開き、その末に己の枠を超えてしまった存在よ。人に非ず、魔に非ず。せめて途中で死んでしまえば楽であろうに……。そんな崇高で哀れな者、いや存在を魔人と呼んだのよ。予がいた世界ではな……」
「あ~」
「思い当たる節もあるであろう?」
「そうですね。『人に非ず』ってところなんか特に」
「は?」
自分で言い出したことだろうに魔王さんは驚いた顔をする。
「『魔人』の自覚はなくとも、人ではない自覚はあると?」
「あっ、僕、改造人間なんです」
「なんと!」
「それに、それ以外の部分も当たってる部分が多いと思います。何処かで何かが違っていたら僕はこの場にいないでしょう。死んでいたと思います。でも僕は生きている。機械だらけの体で。周りの人が守ってくれて、助けてくれたからです」
「そうか……」
「魔王さんが言う『僕が築いてきた屍の山』には、そういう人たちも含まれているのでしょう」
「そうとは知らず心無い言葉を言ってしまった。許せ」
バスが来たが、なんとなくそういう気分になれなかった。魔王さんも乗り込む様子はない。やがてバスは出発した。別の路線の客だと思ったのだろう。
少しの間、沈黙が二人を包む。
「あの、魔王さんはどうして学校に行ってるんですか? それも都内でも有数の進学校に」
まさか大学でも行く気ですか? とまでは聞けなかった。
「うむ。そもそも予がここにいるのは、勇者たちと予の魔力の衝突の末の暴走の結果よ。で、だ。こちらの世界の文明と文化と技術を見てしまっては、元の世界に戻る気もな……。そうしてる内に予を裏切った連中が勇者と同じ学校にいくというのを聞いてな。それなら予もこちらの学校というものに行ってみようと思ってな。勇者たちと同じ所に行くのも癪だし。少しでも上の高校にしてやったのよ!」
「ん? その裏切者ってダークエルフとナントカ魔導士って人です?」
「ハハハ! な、ナントカ魔導士とはヤツも形無しだなァ! まあ、良い。その通り、貴公の言う通りよ!」
「ああ、通りで。勇者の仲間がダークエルフとかナントカ魔導士とかダークっぽいメンバー選んでんなあって思ったんですよ」
「然り然り。大体、こっちの世界じゃ『勇者』と書いて『ジゴロ』とでも読むのか?」
「ところで魔王さん? こちらの世界ではどのようにして生計を?」
「ん? ああ……」
僕の何気ない質問に対し、魔王さんは足元のアスファルトの欠片を拾い上げて僕に見せる。
僕の頭に疑問符が浮かんだところで、その石が激しく輝きだし、その光が収まると石は黄金色になっていた。
「聞いたことぐらいあるであろう? 『錬金術』だ」
「れ、錬金術!?」
「もっとも予の場合、スキルレベルが2だからな。18金までしか作れぬが」
「スキル!? スキルレベル!?」
な、何? そのゲームみたいなの!?
僕もその世界に行ってみたい!
あっ、駄目だ。それだと僕、退治される側だ……見た目的に!
「まあ、その辺の河原の石ころを金に変えて売り飛ばせば、生活費にくらいはなるぞ」
ん? 河原の石を勝手に持っていくのって厳密に言うと犯罪じゃ? あ、この人、魔王だ。じゃ問題ないね!
「ところで貴公はこれからどうするつもりだ?」
「どうするって……」
貴方と話しててバスに乗りそびれたんですよ!
「どうする? 世界を、とは言わん。国の一つでも欲しくはないか?」
わっ! この人(?)、ここにきて魔王っぽいこと言い出した。
「どうだ? 予の右腕になるというのなら、世界の半分をくれてやろう?」
「…………」
「ん? どうした?」
「……『右腕になるというのなら』? 前にその言葉を僕に言ったヤカラがどうなったか教えてあげましょうか?」
「わ! 済まぬ、済まぬ! く、クラスメイトが魔王はこう言うのがお約束だと言っておったのだ! 予は悪くない! 予は悪くないぞ!」
スーッと体から熱が引いていくのを感じる。
そういや、「世界の半分を~」って有名なマンガかゲームのセリフだっけ? あら、やだ。僕ったらお恥ずかしい。
それにしても魔王さん、僕の事を子供みたいと言うわりに、自分だって中々、可愛いとこあるじゃないか。
照れ隠しに後頭部をポリポリと指で掻きながら先の言葉に答える。
「どうするつもりって、普通に暮らしたいですね」
「貴公ほどの物がか?」
またか……
アーシラトさんに続き、魔王さんにも呆れられてしまった。まあ、いいさ。アーシラトさんだって分かってくれたんだ。魔王さんだって話せば分かってくれるさ。
「普通にとは?」
「思うがままに何者にも邪魔されず青春を謳歌すること……ですかね」
「それはおかしい。普通とは集団の最大公約数的なモノだ。個人を見た場合、誰だって何かしら我慢しているのではないか? 普通な個人など実はどこにもおらんのではないか?」
うっ……、さすが、元施政者。マクロの視点とミクロの視点を一緒にはしないのか。随分と怪訝な顔をしてらっしゃる。
「あ~、魔王さんの世界の『魔人』にはそれくらいの力はありませんか?」
「なるほど……」
顎に手をやって考え込んでしまう。
「う~む…………」
ドキドキ。まるで裁判の判決を受けるみたいだ。
「ごく普通の幸せを望む魔人など聞いたことはないが、魔人ならあるいは……」
やったー!! 勝訴! 第3部完!
てか、ファンタジーな世界の魔人とか言われる存在じゃないと「普通の生活」って送れないの? 意外と難易度たけーな!
「やってやりますよ。僕のために死んでしまった人、助けられなかった人のためにもね!」
「ハハ! その意気だ! 貴公が思うが儘にやってみせよ」
魔王さんとは今日、初めて会ったわけだけど、とても悪逆な人には思えないな。応援してくれるからか、意外と話しやすい人だからか。
そういや、この魔王さんが「悪逆」だとか「非道」だとか聞いた覚えもないけど。
それでも勇者を送り込まれる立場だったんだよね?
「ところで魔王さんは今日は何を?」
「ああ、聞いてくれたまえ! この近くの中学校でな、何でも魔法を使う少女たちが集う部活があると聞いてだな」
ん?
魔法を使う少女が集う部活?
ヤクザガールズの事じゃない?
まあ、アレを「部活」というのも語弊があると思うけど。
「で、こちらの世界の魔法とはどんなモノかと思って訪ねてきてやったわけだがな……」
「ん? どうしたんです?」
ま、まさか!? 魔王だからってドスと半自動拳銃持って追いかけまわされたとか!?
「……今日、部活、お休みだった……」
わお! そりゃ僕も誰にも会えないハズだ。高校の方が授業終わるの遅いからね!
しょぼくれる魔王さんと僕は近くの喫茶店に甘い物でも食べにいくことにした。
「そうそう、貴公よ。『魔王さん』などと呼ばなくともよい。予にはマクスウェル=ラ=シュライクという名がある。寸土の領地も持たぬ今、魔王と呼ばれては何だかこそばゆいがため我が名を呼ぶことを許そう」
「うん! よろしくねマックス! 僕は誠、石動誠!」
「ま、まっくす?」
第7話はこれにて終了です。
誠君に新しい友達ができました。
7話でやりたかったことは
「他のヒーローだって頑張ってるよ! よ!」
「そろそろ授業風景でもやっとくか! 柔道だけどな!」
でした。
感想もらえたら嬉しいですm(__)m




