37-7
「ただいま~!」
「う~っす!」
「こんちわ~!」
「あら? こちらは?」
僕と真愛さんが妙に人懐っこい河童に面食らっていると護衛対象である長瀬咲良ちゃんが帰ってきた。
アーシラトさんに修道服姿の老女、天昇園のサーベルタイガー型獣人、寅良さんも一緒だ。
「お! サっちゃん、おかえり! デっちゃんも来とるで」
「え、あ、どうもすいません」
「い、いえいえ。石動です」
4人に少し遅れてシスターに説教されていた明智君も続いてくる。
「まったくエラい目にあった。お前らも俺を置いていきやがって……」
「あはは、子供を泣かした罰だよ」
「そういう事にしておくか。……早速ですが園長、少し皆で話をいいですか?」
「はい。それでは事務室で……」
「あ、それじゃ俺は石動さんに引き継ぎできたんで、これで帰ります」
「寅良さんも御疲れ様でした」
寅良さんを見送った後で園長先生に案内されて事務室へと通される。
寅良さんを初め天昇園で働いているハドー獣人の人たちもヒーロー登録しているそうで、咲良ちゃんが学校にいる間は彼らが交代で1人ずつ詰めているそうだ。
アーシラトさんも咲良ちゃんとは既知の仲のようで護衛役を買ってでているそうなのだけれど、何分、アーシラトさんの事だ。不意にふらっとコンビニに出かけたりするので他にもヒーローが必要なのだろう。
ようするに市の災害対策室では人手不足もあるのだろうけれど彼らハドー獣人の事を信頼できる存在として見ているという事なのだ。
実際、昨日、一緒に戦ってみた感じ、彼らハドー獣人の実力は折り紙付きで、元海賊だけあって一気呵成の連携戦術に秀でているように思える。
敵として出会ったハドー怪人はどれも血走った目をして残虐さを隠そうともしない連中ばかりだったけれど、天昇園で働いている彼らは戦闘でもなければ皆のんびりとした気の優しそうな人たちだった。
まさに「衣食足りて礼節を知る」と言ったところだろうか?
現に外に出ていった寅良さんを子供たちが見つけてワーワーキャーキャー跳びはねながら大喜びしている。
僕も小学校低学年くらいだったら同じようにはしゃいでいたかもしれない。あの毛皮とか触らせてほしいし。
まあ、寅良さんを囲んでいる子供たちの中に先ほど僕がデスサイズだと知ってオシッコ漏らして泣いていた子供たちも混ざっていたのはさすがにちょっとショックだけれど。僕も去年の4月から12月末まではヒーローだったし、引退してからもこの街に来てからちょいちょい戦ってるんだけどなぁ。
「お、シスター、ちょっといいか?」
「ああ、ええ、どうぞ」
「ほれ、真愛。これ知ってたか?」
事務室まで案内される途中、アーシラトさんがボイラー室の前で立ち止まって園長の許可を取って扉を開ける。
内部に設置されていた業務用のボイラーの操作パネルのカバーをアーシラトさんが指差して示すので見てみると、そこには《寄贈 羽沢真愛》と黒地に金文字で印刷されたシールが貼られていた。
「あら? 知らなかったわねぇ。私、寄付先はコーディネーターさんに任せていたから。って、この日付……」
現役時代の真愛さんと言えば誰もが知る超一流のヒーローだ。
6年ほどの活動期間中に稼いだ金額はまさに天文学的数字になるだろう。ただし一流のヒーローともなれば社会に寄付などで還元するのが当然という風潮がある。寄付をしない=自分の事で精一杯のヒーローはいくら強かろうが二流といったところだろうか。
そして真愛さんが見て驚いていたのは《寄贈 羽沢真愛》の下に小さく印字されていた日付だ。その日付は今から6年ほど前。
アーシラトさんも真愛さんが何に驚いているのか分かったのか得意気な顔でサムズアップして見せる。
「ああ! この時期の真愛の敵といえばアタイだろ? つまりは真愛がアタイをボコって稼いだ金を寄付して買ったヤツだなコレ!」
「えぇ……」
「アハハハ……」
なんで自分がボッコボコにされた話でそこまで得意気になれるのかは分からない。
僕も真愛さんも反応に困ったような顔をするしかなかったし、咲良ちゃんも乾いた愛想笑いを返すしかできなかった。
ただボイラーのみならず、子羊園の内装は全体的に綺麗で新しめのものが多い。
壁紙も白くLED式の照明を綺麗に反射し、フローリングもテカテカと柔らかく輝いて見える。
外から見た黒く変色した板張りの外壁からは想像もできないほどに明るい空間だった。
もちろんシスターたちの建物を綺麗に保とうとする努力の結果もあるのだろうけれど、それでも施設の子供たちが良い環境で暮らせるのは素晴らしい事だと思う。
「…………」
「どうした、誠? 何か考え事か?」
「いやね、僕も寄付とかしたほうがいいのかな~って……」
「お、丁度良い。そんな話が来てるから後でな……」
ん?
んん?
僕に寄付の話が来ている?
しかも明智君経由で?
どういうこっちゃ?
ニッコリと笑う明智君に妙なものを感じたのだけれど、皆が事務室に向かって移動を再開したのでその場でその話を聞く事はできなかった。
事務室に到着した僕たちはソファとテーブルが並べられた応接スペースに案内される。
ソファに座った僕たちに昨日、風魔軍団に人質にされていたシスターと河童が湯呑に入ったお茶を出してくれた。
「……さて、皆、揃ったところで状況を説明しようか」
僕と真愛さん、アーシラトさんに子羊園の園長、そして咲良ちゃんと河童がソファに座って明智君の話を聞く。
風魔軍団がシスターを攫ったのは「魔力を持つ人間」である咲良ちゃんを誘き寄せるためである事。
風魔に「魔力を持つ人間」を捕らえるよう注文した客がいるハズだがその目星が付いていない事。
そのために風魔軍団を潰してもまた別の敵が咲良ちゃんを狙ってくる恐れがあるために護衛をつけるという事。
また同じく「魔力を持つ人間」である真愛さんも狙われる可能性がある事。
「でもさ、この世界の人間は基本的に魔力を持たないんでしょ? なんで咲良ちゃんは魔力があるの?」
「ああ、咲良はアタイの神性を取り戻してくれたからな。その時にアタイと霊的な繋がりができて、なんていうかアタイの巫女みたいな存在なんだよ」
そういや昨日もアーシラトさんは呼ばれてもないのに風魔のアジトまで来てたしね。
「でも、その割にはハドーの連中が攻めてきた日は助けに来なかったやん?」
「うっ、あ、アレは、まあ……、酒、呑んで寝てたから……」
アーシラトさんは助け船を求めるように僕の方を見てくるけど、僕も寝過ごしていたので何にも言えないや。
ただ、話を逸らす事はできるだろう。
「そ、そういやさ! 明智君は『ナイアルラトホテプ』って知ってる?」
「は? なんで誠がその名前を?」
「昨日、ベリアルさんをアジトの最深部から連れ帰る途中に『奴の名はナイアルラトホテプ、気を付けろ』って……」
「ベリアルさんが!? もしかして、あの“黒い人影”の名前ですか?」
「うん。ベリアルさんと戦っていた……」
それまで事務的な態度で話を進めていた明智君はその名を聞くと目を見開いて驚愕し、咲良ちゃんもソファから跳び上がって闘志に燃えた目で僕の顔を見つめてくる。
「……もしかして誠も戦ったのか?」
「逃げられちゃったけどね」
「命があっただけメッケモンってとこだな。アレは邪神だ」
「ん? 邪神?」
でも、確か明智君は前に「旧支配者というのは神と呼ばれているが宇宙怪獣みたいなモンだ」って言っていたような?
実際、去年、戦ったク・リトル・リトルはまんま怪獣って感じだったし。
「まあ『旧支配者』と呼ばれる連中にも色々といてな。中でもアザトースとかヨグ=ソトース、それにそのナイアルラトホテプみたいな連中は“神”と言えるだろうな」
うわあ……。
僕、知らない内に神様に喧嘩、売ってたのかぁ……。
「ま、ナイアルラトホテプはヨグ=ソトースとかより一段、格の落ちる神らしいしな。対処法も割れてるし」
「対処法?」
「うん。なんでも奴さんを毛嫌いしてる旧支配者もいるらしくてな。交信できればロハで来て燃やしてくれるらしいぞ」
燃やす?
ああ、火が弱点なのか……。
道理でマーダーマチェットが炎を吹いてすぐに逃げに転じたと思ったらそういう事か。
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