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引退変身ヒーロー、学校へ行く!  作者: 雑種犬
第36話 ベリアル死す! サクラ、怒りの閃光魔術!!
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サクラよ 亡き戦友のために哭け 1

 最初に動き出したのは座敷童だった。

 新たに現れた謎の敵を前にあのベリアルが「逃げろ」と言い出す。その展開は咲良や河童、シスター智子の理解力を遥かに超えていたのだ。

 だが思考停止状態の河童とシスター智子の手を座敷童が引いて駆けだす事で彼女たちは我に帰る事ができた。


 だが黒い人影は咲良たちを逃がすつもりは無いらしく、再び左手を彼女へ向けて槍のような鋭さを持った鞭毛を次々と出してくる。


「やらせるかッ!」


 咲良たちへ迫っていく黒い鞭毛をベリアルは右手をサーベルに変え円を描くような一太刀で切り裂く、さらに左手をかざすと切られてもなおうねる物体は炎に包まれた。


「……くく、ふは、ふははははは!!」


 これまで一言も発する事が無かった黒い人影が突如として笑い出す。

 抑えていた笑いが堪え切れず堰を切って溢れ出したような笑い声。

 笑い始めてはもはや隠すつもりも無いようで黒い人影は身を捩らせ、かと思えば逆に身を反らせて大笑している。ただそれだけなのに人間的な尊厳を冒すようなおぞましい、冒涜的な笑いだった。


「……何がおかしい」


 奥歯が砕けるのではないかというほどにベリアルは歯を噛み締め、炎が灯ったような双眸を人影へ向ける。

 だが余人ならば視線だけで気絶してしまうような眼光を向けられてなお黒い人影は笑い続けていた。右手で腹を押さえておどけてさえ見せる。


「コレガ笑ワズニイラレルカ? ナア、べりある?」

「…………」

「昔ノ主ノ敵討カ、今ノ主ヲ守ルタメカ知ラナイガ、オ前ハソンナ奴ジャアナイダロウ?」

「黙れ!」


 ベリアルが踏み込む。

 黒い人影も両腕を向けて数えきれないほどの鞭毛を放出して迎え撃つが悪魔は手のサーベルで踊るように迫る触手を切り裂きながら突っ込む。


「無駄ナ事ヲ! オ前モ自分デ言ッタダロウ? 自分デハ我ニ勝テナイト」

「ベリアルさん!!」

「いいから早く行け! 後で事情は教えてやる!」

「あははははは! 後ナドアルノカ?」


 潰されたエレベーターの脇、階段の上り口でなおも未練がましくベリアルを見つめる仲間たちに発破をかけると座敷童が仲間の手を引いて名残惜しい様子ながらも階段を登っていった。


 いい仲間たちだと思う。

 まだ数は少ないし、力も大した事はない。

 だが、「悪意」の悪魔である自分も不思議と酷い悪さをする気にはならなかった。まぁ、少々の悪戯は愛嬌の内だろう。

 そうやって過ごしている内にいつしかかつての仲間を思いだすようになっていた。


 それだけではない。

 現在の主、長瀬咲良、あの少女には大きな可能性がある。

 自分が求めても得られなかったモノ、「神殺しの力」を得られるだけの可能性が。


 臆病で脆弱で、吹けば飛ぶような危なっかしい精神性を持ちながらもイラつくほどに甘っちょろい。


 だが、そのような者だけが嵐の吹きすさぶ荒野を進むような苦難の道を進んだ果てに得られる神をも屠る力。


 その力なくしては目の前の存在のような敵は倒せないのだ。


 だから今、ここで咲良を死なせるわけにはいかない。


 ベリアルは「悪魔では神に勝てない」という自然法則を理解しながらも前に出る。

 1メートルでも。

 1歩でも。

 1cmでも。

 1mmでも。

 迫る触手を切り裂きながらも悪魔は前進する。


 黒い人影は両腕のみならず、胴から脚から頭部からすら黒い鞭毛を出してベリアルを包み込むように苛烈な攻撃を加え、すでに人の形を失い、もはやウニやガンガゼのような棘皮動物のような姿になっていた。

 あるいは髪の長い女性の後ろ姿のようだと言えるだろうか。


 もはや一々、切り捨てたモノを燃やしている余裕はない。

 ベリアルは両腕をサーベルに変えて四方八方から迫る触腕を斬っていくが、切り捨てたハズの物体は姿を変えてタールのようにベリアルの足元へと絡みついて前進を阻む。


 なおも重い足を引き摺りながら前へと進むベリアルであったが、近づくということは触手の出現地点が迫ってくるという事と同義であり、次第に触手を躱す事すら困難になってくる。


 ベリアルの腕に足に腹に頭に幾度となく触手は掠っていく。

 なんとか致命傷こそ防いでいるものの、いずれ破滅的な未来は避けられないのは明白だった。


 出血は無い。

 肉を削られ、貫かれても傷口から血が流れる事はなく、そこからは黒い魔力が空中へと霧散していくだけだった。

 まるで存在そのものが削られていくような感覚を味わいながらもベリアルは笑う。


「何ガオカシイ? ソンナニそろもんノ元ニ行ケルノガ嬉シイノカ?」


 敵の声の調子が変わっていた。

 追い詰められた様子はない。だが、確実にイラだっていた。


 悪魔では神に勝てない。

 これは変えようがない法則、摂理だ。

 だが、自分の「悪意」の全てを叩き込む事ができないわけではない。


 ベリアルの真正面から飛び込んできた数本の触手槍が胴を貫いた。

 両腕のサーベルの変化が解けて人型に戻る。

 だがベリアルは笑っていた。


 自身を貫く触手を掴んでそのまま前へ。


「食らえ! ナァァァイアルラトホテェェェェェッップ!!」


 ベリアルが喉から湧き出る魔力に構わずに叫ぶと彼女の体から爆発的な魔力が放出されて、自爆にも等しい力の奔流は邪神ごと地下空間を飲み込んでいった。

(」・ω・)」うー! (/・ω・)/にゃー!

(」・ω・)」うー! (/・ω・)/にゃー!

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