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引退変身ヒーロー、学校へ行く!  作者: 雑種犬
第34話 「切り札」
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34-3

「わ、分かりました。それでは次の候補者を……」


 ルックズ星人からタブレットPCを受け取ったサクリファイスロッジ代表はタッチとスライドを繰り返して次の候補者のデータを呼び出す。


「ん? これは?」


 思わずルックズ星人が声を上げる。

 タブレットの画面に映し出されていたのは十数人の女の子たちの写真だった。

 この世界には魔力を持つ人間など珍しいというのにこれほどの候補者がいるとはどういう事であろうと疑念を抱いたのだ。


「第2の候補者は第2期魔法少女シリーズ、通称『ヤクザガールズ』の子たちです」

「…………」

「第2期型は第1期型と違い、魔力の素養が無い者でも変身の際に肉体を変質させる事で魔力を扱えるように変化するのですが……」

「ちょっと待ってください。これも却下、却下です!」


 憮然とした表情をしているのにも関わらずに話を進めようとしているサクリファイスロッジ代表にルックズ星人は慌ててタブレット端末を突き返す。


「ええ……」

「貴方、さっきの話を聞いていましたか!? ヤクザガールズなんてデスサイズと仲が良いヒーローの際たるものじゃないですか!?」


 ヤクザガールズとデスサイズの交友については界隈で良く知られている事だった。


 昨年の「埼玉ラグナロク」においては両者はよく共同戦線を張っていて、ヤクザガールズがチームワークで敵勢力と前線を構築し、敵戦線の脆弱な所を機動力と攻撃力に優れるデスサイズが突破するというのが彼らが得意としていた戦術である。


 そして今年の5月初頭の「ハドー総攻撃」において、デスサイズはハドーの攻勢開始より数時間も姿を隠したままで、敵の根拠地がHタワーにあると判明した後にヤクザガールズの組事務所がある大H川中学校から出撃していたのだ。


 さらについ先週の宇宙テロリストに占拠された銀河帝国巡洋艦の撃破作戦においてもヤクザガールズがデスサイズに協力していたという情報もある。


 すなわち両者の仲は緊密で、それを裏付けるようにヤクザガールズたちはデスサイズの事を「オジキ」と呼んで慕っているのだ。

 ヤクザガールズに手をだすという事はデスサイズを敵に回すに等しい行為と言えよう。

 さらにヤクザガールズ自身、「魔法」というインチキ臭い能力を有する厄介な難敵だったのだ。


「……えと、それじゃ第3の候補を」

「今度は誰なんです? またデスサイズの関係者じゃないですよね!?」

「いえいえ、今度は大丈夫です」

「ほう……」


 サクリファイスロッジ代表がタブレットを操作して次の候補者の写真データを表示する。

 画面に現れたのは20代くらいの女性。人懐っこい笑みを浮かべており、太めの眉が余計にその印象を強くしている。

 だが、何故かその女性は頭髪を全て剃り上げていた。


「……却下」

「え……?」

「却下ですって! だって、この人、アレでしょ!? ZIZOUちゃんでしょ!?」

「え、ええ……。話だけでも……」

「駄目です! ZIZOUちゃんみたいな宗教キチガイなんて相手にしてたら、私ら(UN-DEAD)皆まとめて出家するハメになりますよ!?」

「えぇ……」


 ZIZOUちゃんと呼ばれる女性。

 彼女は羽沢真愛と同じく第1期型の魔法少女であり、羽沢真愛には劣るものの、この世界の人間でありながら魔力の適正を持つ。


 だが現在、ZIZOUちゃんの名は真性の宗教キチガイとして知られている。

 大天使だろうが異星人だろうが構わずに改宗させていく手練手管はまさに恐怖の対象であり、日本国憲法によって保障された「信教の自由」などあってなきが如しといった有様だった。


「もっとこう、手頃なのはないんですか!?」


 次から次へと手に負えないような面々を出されて、ついにルックズ星人は椅子から立ち上がって大声を出した。


「落ち着いて! 落ち着いてください! 次、次はいくらかマシですから!」


 サクリファイスロッジ代表も必死でルックズ星人を宥めすかし、次の候補者のデータを見せつける。


「ん? これは?」


 次の生贄候補者は初めての男性。

 だが、まだ生贄にされていないというのに男性の皮膚は青灰色をしていた。


「彼はマクスウェル・ラ・シュライク。異世界からきた魔族の王、いわゆる“魔王”です」

「でも彼は先の『ハドー総攻撃』において400を超えるハドー獣人を瞬く間に屠ったようなマジモンの魔法使いでは?」

「でも、まあ、死神とか宗教キチよりかはマシかな、っと……」

「マシっちゃマシですが……」


 半ば感覚が麻痺していたルックズ星人はこの際、この異世界の魔王でお茶を濁そうかという気になっていたが、サクリファイスロッジ代表が何か言い辛そうな事を切り出そうとしている事に気付いた。


「……? 何か?」

「あ、いえ……。術式で『魔力を持つ人間』と指定されているのに魔族というのは人間でいいのかな~って……」

「うん?」

「後、異世界の魔力というのは、こちらの魔力と同様の物なのかはちょっと分かりかねるところがあって……」

「駄目じゃないですか……」


 検証しようにもサクリファイスロッジ代表自身、魔力というものについて計測機器による観測以上の物は分からないのだ。


 魔王マクスウェル自身、精強を誇るハドー獣人を一方的に蹂躙するような相手なのだ。

 その魔王を捕らえるのにも少なくない損害が予想される。

 それで魔王の持つ“異世界の魔力”では駄目でしたでは目も当てられない。




 結局、サクリファイスロッジ代表が選出した生贄候補者はどれも適当と思える人物がおらず、話は振り出しに戻る。


 そして2人が今後について協議を続けていると部屋のドアをノックする者がいた。


「誰でしょう? どうぞ!」

「失礼……」


 ドアを開けて現れたのはナチスジャパンの代表である鉄子であった。

 装備品の整備中であったのか着ているツナギは所々、油で黒く汚れていたが彼女はそんな事など気にする様子もなく室内に入ってルックズ星人の元まで進む。


 彼女はD-バスターからもたらされた「邪神招来計画」の情報漏洩について報告に来たのだった。

ツイッターやってます

雑種犬@tQ43wfVzebXAB1U

https://twitter.com/tQ43wfVzebXAB1U

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