33-6
「でもよ……」
思いつめたような様子の明智君に真愛さんや三浦君は言葉を失っている。
2人も去年の埼玉での出来事は報道などで知っているだろうし、何より子供の頃から知っている明智君が思い出しただけで体を震わせる程の存在というだけである程度は察しているのだろう。
邪神の話が出ただけで一変した空気にD-バスターはポカンとした顔をしていたが、その空気に負ける事なく呑気な声を出したのは天童さんだ。
「向こうが邪神とかって神様なら、こっちも神様を呼んだら?」
「あのなあ……」
天童さんのあっけらかんとした様子にむしろ明智君も緊張がほぐれたようで溜め息をつく。
でも彼女は呆れられてもめげずに話を続けた。
「でも『困った時は神頼み』って言うじゃん? ヴァルキリーさんとこの神様はどうよ?」
「いやあ……、ウチの主神ってこういうのですよ?」
ヴァルキリーさんも先ほどのスマホを取り出し1枚の写真データを読み込んで皆の前に差し出す。
今、気付いたけど彼女のスマホは日本ではあまり見ない北欧企業の物だった。
「あ……、無理そう……」
スマホに映しだされていたのは北欧らしいシンプルな家具に腰掛けた老人だった。
2匹の大型犬と1匹のフクロウをはべらかせて手には木製の杖を持った隻眼の老人。
頭髪は銀のように輝く白髪で腰まで長く、顔や手には古木のように深い皺が刻まれていて、残った目の眼光は鋭い。
でも、うん。ヨソの神様の事をこう言っちゃなんだけれど、とても全長約80メートルのスーパーブレイブロボよりも巨大な邪神ク・リトル・リトルと戦えるようには見えない。
さらにヴァルキリーさんが画像をスライドして次の画像を表示されるとそこには先ほどの老人。
先ほどと同じ椅子に腰掛けているけれど、頭にはサンタさんのような帽子が被せられ、手にした杖にも赤と緑のリボンでデコレーションされている。
老人の目付きは先ほどの画像よりも険しくなっているように見えるものの、そんな事などお構いなしのマッチョ系白人男性たちに囲まれて写真を取られているところだった。
「……これは?」
「これは一昨年のクリスマスパーティーの時のですね」
「へぇ……。このお爺ちゃ、いや、神様、なんか嫌がってない?」
「いえ、意外と楽しんでると思いますよ?」
「……そうなんだ……」
いずれにせよ老人にしても周囲のマッチョたちにしてもとても邪神と戦えるようには思えない。
「ウチって北極圏近くがホームじゃないですか?」
「うん」
「で、旧支配者、皆さんが邪神って呼んでる連中の勢力圏は南極を中心とした南半球なんであんまり関係ないかな~って、大昔に旧支配者の活動が下火になった時に対旧支配者用だった巨人族を処分しちゃったんですよね~」
「は……?」
し、処分ってどゆこと?
「そのせいですかね? 巨人族の血を引くロキがグレちゃったのは……」
うん。きっと間違いなくそうだよ。
でも、あの野郎に同情する気にはならなかったけど。
「ま、という訳でウチの神族は旧支配者相手にはちょっと……」
「ええ~!? 神様と神様でも相性みたいなのあるのか?」
よほど自分の言った事が名案だと思っていたのか、天童さんはなおも食らいついていく。
でも、そこで明智君が口を挟んだ。
「天童」
「ん? なんだい? 明智ん」
「邪神って言ってもな、人類の有史以前から強大な力を持っていた人間以上の知性を有する敵だから神に等しい存在と呼ばれているだけでな。本質的にはアレは巨大宇宙怪獣だと思った方がいいぞ」
「そうなの?」
「そうなのです。そういう意味では去年、撃破した経験を持つ死神さんの方が……」
話がこちらに向いてきた。
去年、埼玉で邪神ク・リトル・リトルの体内に兄ちゃんと跳び込んで中身をグチャグチャにして倒したわけだけれど、正直、同じ事をまたやれと言われても無理だと思う。
兄ちゃんはすでにいないし、僕と兄ちゃんの2人がかりでも迫りくる邪神の触手を凌ぎきる事はできなかったんだ。
あの時はスーパーブレイブロボや赤夢市に来ていた大勢のヒーローたちの援護があってこそできた事だった。
そして埼玉での人的損耗はいまだに回復したとはいえない状態で、あの時と同じような、いや、兄ちゃんがいない以上はそれ以上の援護態勢が必要だろうけど、そんなもの到底、望む事ができないのは僕だって理解している。
「多分、同じ手は使えないと思うな……」
「俺もそう思う。それに……、今度、召喚された邪神が埼玉の時と同程度だとは思わない方がいいぞ?」
「どゆこと?」
「先ほど天童が言ってた神頼みの件だけどな。俺も以前に考えて色々と資料を漁ってみたんだ……」
「さすが明智ん! 話が分かるゥ~!」
「茶化すな。で、今、世界で最大の宗教は分かるよな?」
「キリスト教でしょ?」
さすがに明智君、すでに天童さんが思いつくような事は考慮していたのか。
「で、キリスト教の主神は今は戦える状況にはないのだが、現時点でのキリスト教の最大戦力は知ってるか?」
「4大天、いや3大天使?」
4大天使の内の1柱、ウリエルは仏教の修行中だった。
「正解、だが、かつては違ったんだ」
「闘魂4大天使よりも強力な天使が?」
「あ! 私、知ってます! メタトロン級天使ですよね!」
「ヴァルキリーさんの言う通り、かつてキリスト教には対邪神用超巨大天使がいたんだ」
明智君が話す所によるとメタトロンという天使は旧支配者と戦うために作られたスーパーヘビー級の天使で、ルシファーやベルゼバブといった悪魔の対抗勢力である4大天使とは性質が異なる存在だという。
メタトロンは同型の天使であるサンダルフォンをタッグパートナーとして数多の旧支配者とセメントマッチを繰り広げていたが、すでに消滅しているという。
「……そりゃ、アホほど触手を飛ばしてくる相手にインファイトを仕掛けてたらねぇ……」
「そうは言うが誠、メタトロンの身長が成層圏まで届くほどであったとしてもか?」
「え……?」
セイソウケンってあの成層圏?
僕が1時間ほど前にD-バスターを連れてった?
「……それ、マジ?」
「まあ、それが宗教的な誇張であるならいいのだがな」
「誇張じゃなかったら?」
「その身長のメタトロンとサンダルフォンをボッコボコにして消滅させたヤツがいるって事だろ?」
「ええ……」
さすがにそれはちょっと……。
戦いようがないような……。
むしろ、そんなのが本当にいるのならク・リトル・リトルなんて小物もいいとこじゃん!?
てか、スーパーヘビー級ってそこまで!?
「前回、ク・リトル・リトルを呼び出したのはロキだからな……」
「ああ! 彼は人がギリギリで乗り越えられるんだか乗り越えられないだか分からないような状況で苦しむのを見て楽しむ悪癖がありますからね!」
「ああ、で、今度、邪神を呼び出そうとしてる連中はロキみたいに甘い奴かは分からん……」
明智君とヴァルキリーさんの話を聞いて一気にしょぼくれた空気を一変させるような大声を高田さんが出す。
「大丈夫、大丈夫! そうならないように俺が出張ってきてんだからよ!」
以上で第33話は終わりとなります。
今回でUN-DEADが召喚しようとしている邪神について脅威が伝わるでしょうか?
それでは、また次回。




