33-1
僕は茫然と駆けていくD-バスターの背中を見送っていた。
走り始めこそ適当なスタートだったために無駄のあるフォームだったものの、徐々に陸上の短距離走者のような綺麗なフォームで加速していく。
普通なら自分が自壊するところを僕たちに見せたくないのかと思う所だろうけど、アイツの事だから走ってる内に楽しくなってきたんじゃないかと勘繰ってしまう。
でも、アイツ、そんな奴だよね?
こんな悲劇的な結末が似合うような奴じゃあない。
水曜の放課後に僕たちの前にD-バスターが現れて、彼女の事情を聞いてから、ここ数日間、何度も考えていた。
1度、戦えば自身の放出する熱により勝敗に関係なくD-バスターは死ぬという。
そのD-バスターが敵として僕の前に現れた時、僕はどうするのだろう? どうしたらいいんだろう?
お風呂に入っている時、台所で食器を洗っている時、何度も何度も僕はその事を考えていた。
結局は僕のARCANAにイジられた脳味噌は彼女を敵として認識して戦うのだろう。
そうなった時、真愛さんたちは僕の事をどう思うだろう?
何より僕自身は僕を許せるのだろうか?
そうやって何度も何度も悩んで、でも結論なんか出なくて。
それが「なんかノリで」みたいな感じでポッと出のカラクリメカを相手にリミッターを切ったと?
え? アイツ、対僕用のアンドロイドなら、僕のビームマグナムの装弾数とか把握してないの?
そりゃバイクが動かなくなったモーター・ヴァルキリーさんにカラクリロボが襲い掛かりそうだったけどさ。それにしたって「何かノリで」は無いだろう。
「な、何とかならないの、誠君?」
真愛さんも心配そうな声を上げる。
D-バスターと妙に気が合っているようだった天童さんも無言だったけれど、その目には涙を浮かべて悔しそうな表情だった。
でも、僕にはどうする事ができない。
そもそも僕は機械なんて特に詳しくなんかないのだ。
自分の体内の物の事なら電脳のヘルプウィンドウを見て把握する事ができるものの、他の機械、D-バスターのような高度な戦闘機械なんて正直チンプンカンプンだよ。
僕は改造人間になる前と同じく無力だ。
でも、僕は1人じゃない。
「明智君!?」
そう、今はすぐ後ろに頭脳労働担当者がいるのだ。
「……う~ん、少し頭を冷やしてもらったらどうだ?」
焦ったように聞く僕に明智君も彼は彼で茫然とした声を返してくる。
まぁ、彼女に頭を冷やしてもらってノリで行動してもらいたいのは僕も同じ、でも頭だけ冷やしてもなぁ……。
「煙と何とやらは高い所が好きって言うだろ?」
ああ、なるほど。
明智君は肩をすくめて天を指差して見せる。
「分かった! 変身!」
明智君の「冷やす」と「高い所」という言葉で彼が何を考えているか理解した僕は忌まわしい死神の姿に変身し、D-バスターの後を追って走り出した。
駆けだしてすぐに真愛さんたちから十分に離れた事を確認して全身のイオン式ロケットをフル稼働させ加速。
見る見る内にD-バスターの背中が大きくなっていく。
彼女に追いつく前に手にしたビームマグナムをグリップの付け根あたりで握力に任せて圧し折る。
空を飛べないというD-バスターと僕とでは僕の方が最高速が優位であるらしく、彼女に追いつくのはあっという間だった。
一気にD-バスターを追い越して振り向きざまに彼女の腹部にボディーブローを叩き込む。
「ちょっ!? ひでぶ!?」
何か言おうとしたD-バスターに構わず大きく空いた口にビームマグナムの折れたグリップを押し込み、ビーム銃の冷却機構を全力で作動させるとグリップ内に位置する冷却器のガスが鼻やら耳から漏れ出す。
「腹の中まで冷却ガスを入れて!」
当座はこれで良いハズだ。
D-バスターの返答も待たずに僕は彼女の後ろから腕を回してロケットを吹かして離陸する。
いつものような回避行動などは考えずに遮二無二に垂直に上昇していく。
僕の機体温度もロケットの噴射で徐々に上昇していくけれど、生憎と僕の冷却器はどこぞのポンコツみたいな使い捨てとはワケが違う。
しかもナノマシン成形のメンテナンスフリーなのも僕の勝ちといったところか。
考えてみるとD-バスターというアンドロイド、実の所そんなに高性能という訳でもないみたい。
必殺兵器だとかいう「石動兄弟抹殺光線」とやらも前腕部の隠顕式ビーム砲が3基と連射性能は兄ちゃんのビームマシンピストルには及ばず、1発の威力も僕のビームマグナムに劣るといった具合で、しかも僕ら兄弟の場合はそれ以外にも武器があるのだ。
多分、これは僕の予想だけれど、D-バスターは複数機で連携を取るものなのではなかろうか?
それならば3連ビーム砲の取り回しの良さは
証拠というわけではないけれどD-バスター“1号”という名称は2号機以降の存在を匂わせる物なんじゃなかろうか?
(……悪夢、かな?)
複数のD-バスターを想像して、先日のお好み焼き屋さんでD-バスターと天童さんがはしゃぎ過ぎて真愛さんが店員さんにペコペコ頭を下げていたのを思い出してしまった。
まぁ、多分、2号機以降はこんなある意味で高度な疑似人格人口知能搭載機ではなく、極普通のアンドロイド、もしくは疑似人格を持っていても1号は製造不良品なんではなかろうか。
いくら何でも最近、業界を騒がせている「UN-DEAD」とかいう組織がそこまでアンポンタンだとは思いたくはないな。
「……あ、富士山!」
僕の腕の中でD-バスターが声を上げる。
ガスが切れたのか、いつの間にやらビームマグナムのグリップを口から出していた。
彼女の視線の先を辿ると言葉通りに富士山が特徴的な姿を見せていた。
高度を確認すると現在高度5,000メートル。
周囲の気温は下がってきているものの、未だにD-バスターの体内温度は上昇を続けている。
「冷却器の調子は!?」
「全開だよ? もう、いいよ。気持ちは嬉しいし、富士山も観れたし、諦めたら?」
「ヒーローは諦めない!」
ビームマグナムは壊してしまったので冷却器のエネルギーだけチャージするという訳にはいかない。
さらなる手を模索して僕は体を覆うデスサイズマントを思い出した。
(ヒートシンクモード!)
僕の指令にマントを構成するナノマシンは組成を変化させながら形を変える。
僕とD-バスターはマントに包まれて外に出ているのは2人の顔とロケットの噴射孔だけといった具合になった。さらにマントは僕の装甲と融合しアンドロイドの出力炉が生み出す自殺的な熱を僕の装甲とシェアさせる事で温度の上昇を抑える。
デスサイズマント・ヒートシンクモードは僕が元々、暗殺用の改造人間として設計されていた名残の機能で、あらゆる環境でも待ち伏せ戦法を使えるようにするためのものだ。
マントの表面は排熱を有効に行うために最適化され、装甲を介して体内の冷却器を効率的に作動させる他、マント自体にも冷却機能が備わるようになる。
でも、まだマントの冷却機能は使ってはいない。
それを使うのはまだ先だ。
今はまだD-バスターの温度を僕に移すためだけに使っている。
熱源が同じなら1リットルのお湯を沸かすよりも2リットルの方が時間がかかるというわけだ。
「ね、ねぇ……、な、なんか寒くない? 寒い……」
僕はさらに加速を続け、ついに高度10,000メートルを突破する。
「寒いって……、ええと、現在気温マイナス54.8度……」
このくらいでいいかな?
もうちょっと上がって成層圏くらいまでいくと気温は逆に上がってくるんだっけ?
しくったな。明智君に具体的にどの辺まで上がればいいか聞いてくれば良かった……。
すでにD-バスターの露出している頭部や髪には水分が凍結して白く霜が降りている。
でも、まだ体内温度は上昇こそしないものの依然として高い数値を保ったままだった。
よし、それじゃそろそろ……。
「よし! デスサイズマント、冷却装置オン!」
「ひぃぃぃ~!! 凍える! 凍える!」
マントの表面を構成しているナノマシンが熱をもったまま剥離していき、D-バスターはマントの中の僕の冷却器と、マントの外のマント自体の冷却によって一気に温度を下げていく。
「お! 冷える、冷えるぅ!」
「死ぬ! 死ぬ! 殺される!」
さっきまで熱が上がり過ぎて死にそうになっていたのに現金なもので今度は凍え死ぬとか言い出していた。
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