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引退変身ヒーロー、学校へ行く!  作者: 雑種犬
第32話 どこぞのアンドロイドより中間テストの方が難敵です
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32-5

 6人で真愛さんの家を出て商店街の喫茶店へと向かう。


 天童さんとD-バスターの足どりは軽く、反対に明智君と三浦君はゆっくりとしたものだった。

 僕は真愛さんと歩調を合わせながら例の喫茶店について聞いてみた。


「あの喫茶店って結構、古いお店なの?」

「ええ、ウチのお婆ちゃんも若い頃から行っていたんですって」

「へえ! やっぱり、あのお店の外見は伊達じゃないって事なんだ」


 これから行く予定の喫茶店の外見を思い出していく。


 赤レンガ風のタイルが張られた外壁は歩んできた歴史を現すように黒ずみ、立派に育ってはいるが若々しさの欠片も感じさせない観葉植物の鉢植えが幾つか店先に並べられている。

 観葉植物が光を遮っているのか通りから窓ガラス越しに見る店内は暗く、ちょっっっと一見さんには入りにくい雰囲気の昔ながらどころかまるで昭和のタイムカプセルのようなお店だった。


 でもジモッティー(地元民)の3人が皆、行った事があって、それぞれにお好みのメニューがあるという事は恐らく長く近所の人たちから愛され続けてきたお店なのだろう。


 真愛さんがオススメだというホットケーキもなるほど昔ながらの喫茶店ならではといったもので、最近のフルーツやクリームをゴッテリと乗せて食べるパンケーキや、しっかりと泡立たせたメレンゲを使うスフレパンケーキなどとはまた違う素朴なメニューだ。


 あ、想像してたら唾が出てきた……。

 僕も今日はホットケーキにしよっと!




 僕たちは商店街に向かうため公園近くから国道に出た。


 片側2車線の車道は日曜だというのに何故か車通りは少なく、のんびりと僕たちは爽やかな空気を肺に入れてテスト勉強で疲れた脳味噌をリフレッシュさせながら歩いていく。


 今日は車がほとんど見えないものの、普段は結構な量の交通量の道路だけあって歩道もコンクリートの縁石で分けられたしっかりとした物で皆、特に自動車を警戒した様子もない。


 でも、不意に僕の(音響センサー)に聞きなれない音が飛び込んできた。


 高出力モーターの回転音とアクチュエーターの動作音。

 少しずつ位置をランダムに変えながら近づいてくる何かの足音のような物。


 それらの音は後方からこちらに向かって来ているようだ。

 さらに大排気量のガソリンエンジンとチェーンとタイヤの音が続く。


 物音に気付いたのはアンドロイドも同様だったようで、僕たちの前を歩くD-バスターはノンキな顔をしたまま後ろを振り返っていた。

 僕も立ち止まってうしろを振り返る。


 すぐには何も見えない。


「誠君?」

「真愛さん、ちょっと、まだ分かんないんだけど僕の後ろに……」

「う、うん」

「明智君と三浦君も!」


 すでに天童さんはD-バスターが腕で制して守るような動きを見せていた。

 腰を少し落としてすぐに動けるような態勢だ。

 さらに薄手の長袖Tシャツを腕まくりしている。


「誠、どうした?」

「まだ分かんないんだけど変な物音が……」

「わ、分かったで御座る!」


 明智君と三浦君も小走りで僕の背後に移動する。


 皆には「分からない」と伝えたものの。足音のように聞こえる音は人間サイズのロボット兵器特有の物だった。

 ただ、その間隔がどうも開いているように思える。例えるなら走り幅跳びの跳躍を繰り返して走っているような……。


 さらに物音は近づいてきて、ガソリンエンジンの音もハッキリと聞こえてくる。


 電脳内のデータベースから音紋のサンプルを参照するとガソリンエンジンの方はバイク。

 それもアメリカンタイプと呼ばれるような大型の物で、低速回転でも十分なトルクを叩きだす大排気量のOHVエンジン特有のブロロロロ……という物だ。


 そして、ついに謎の足音の主が姿を現した。


「パイセン! 見えた!」

「僕も! アレは『風魔軍団』の下忍ロボ!」

「違うよ!」

「えっ!?」


 僕の電脳とD-バスターの人工知能、物こそ違えども求めることは同じようで情報の共有を計り、僕のデータベース内の情報を伝えるとそれは彼女に否定された。


 D-バスターの言葉を受けて、もう1度、僕はノミのように跳んで移動する物体を確認する。


 歩道橋から信号機の上へ、信号機からビルの3階の窓枠へ、ビルの窓枠から向かいの民家の屋根へ。

 全部で3体のロボットが忍者のような動きで次々に大ジャンプを繰り返している。


 そのロボットは異様な細身で、人間でいう骨盤の部分が極端に細く、可動範囲を広く取るためには球体関節のような作りをしていた。

 僕の(アイカメラ)のサーモグラフィーで見てみてもロボットたちにはロケットやジェットエンジンのような推進器は無く、跳躍は全て脚力によってまかなわれている事になる。

 そして頭部、頭部にはキツネ面を模したような意匠になっていて、それらを合わせたような存在など僕のデータベースには悪の忍者組織「風魔軍団」の下忍ロボットしか登録されていない。


 もっとも、僕自身は「風魔軍団」の連中とやり合った事があるわけではないのでD-バスターと僕の電脳とどちらを信じるべきか分からず、2度、3度と電脳へ「再検索」の指示を出すが結果は変わらない。


「石動氏! アレは『風魔軍団』のカラクリメカで御座るよ!」

「ああ!」


 そんな僕に対して三浦君と明智君が声を掛けてくる。


「え? だから『風魔軍団』の下忍ロボ……」

「下忍には違いないで御座るが、彼ら、カラクリをロボットとか言われるとメッチャ怒るで御座る!」

「誠君、凄い面倒だから『カラクリメカ』って言ってあげて!」


 えぇ……。ナニソレ?

 ていうか真愛さんまで。

 少しだけカラクリだかロボットだかから目を放して後ろを振り返ると、真愛さん、明智君、三浦君は鬼気迫る真剣な目をしていた。


 ようするにアレかな?

 真愛さん、現役時代にロボット呼ばわりしてメッチャ怒られて面倒な事になったんだな!


「向こうの指揮官、中忍とかにロボットだなんて言ったのが聞かれたら、顔を赤くして唾を飛ばしながら怒ってくるわ!」

「えぇ……」

「それもアスファルトの上で正座させられて、向こうも正座して、膝と膝がぶつかるような距離で唾を飛ばしながら喚き散らしてくるのよ……」


 なんだい? ソレ?

 現役時代の真愛さん(プリティ☆キュート)と言えば、今でも兄ちゃんと並んで最強のヒーローとして語り継がれるようなレジェンドじゃん?

 その真愛さんを正座させるって一体、どんな剣幕で怒るというのだろう?


「てか、パイセン、その情報、知らなかったの?」

「……うん」


 3人は過去にあった事件を思い出してか体を強張らせていたが、D-バスターと天童さんはそんな事は露知らずのほほんとした顔をしていた。


 D-バスターに至っては僕のデータベースについて聞いてくるほどで、僕としてもコイツに何か1つでも負ける事があった事が妙に悔しい。


 てか、アメリカンバイクのエンジン音のサンプルを入れるくらいなら、侵略者の情報の方を充実させてほしい物だと思う。

 つくづくARCANA(ド腐れ外道)製の電脳はポンコツだなぁ……。


Twitterやってます

雑種犬@tQ43wfVzebXAB1U

https://twitter.com/tQ43wfVzebXAB1U

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