32-4
「ところで三浦君?」
「なんで御座る?」
亮太君とD-バスターは念願だったデスサイズルート(実際はデビルクローifルート)攻略の熱も冷めやらぬまま対戦モードで遊び始める。
テーブルに向かっている僕たちもテスト勉強を再開する雰囲気だったものの、気になっている事を三浦君に聞いてみる事にした。
「このゲーム、マーダーヴィジランテさんはプレイアブルで出てくる?」
「……石動氏はこのゲームをR-18Gにしたいので御座るか?」
そりゃごもっとも!
数多いヒーローの知り合いの中でもマーダーヴィジランテさんは去年、1月ほどとはいえキャンピングカーで一緒に暮らしていただけあって兄ちゃんに次いで思い入れが強い。
それにきっと彼ならゲームでも僕みたいなキワい性能じゃなくて非常に強力なキャラクターになると思ったのだけれど、話はそれ以前の問題だった。
しかし、三浦君の話は終わっていなかった。
「……まあ、北米版じゃ使えるで御座るが」
「ええ……。洋ゲーってゴア表現とか凄そう……」
「拙者も動画サイトにアップされたのを見た感じだと想像通りで御座ったなぁ」
その動画を思い出してか遠い目をする三浦君。
心なしか少し顔が青ざめているようにすら思える。
こりゃ、ちょっと血しぶきがスプラッ~シュ!ってくらいじゃ収まらないんだな?
確かにマーダーヴィジランテさんのファイトスタイル的にはそうなんだろうけどね。
去年、僕と2人で熊本の吸血鬼たちを退治に行った時も一緒に行った現地の子たちに悪影響を与えるんじゃないかってヒヤヒヤしてたもの。
まぁ、血しぶきとか出さずに灰になって消えてくれる吸血鬼の性質のおかげで取り越し苦労だったけどね。
「なんでもマーダーヴィジランテ殿をモデルにした映画のハイウッド版が公開された時のタイアップらしいで御座るよ?」
「ああ、先週、観に行った映画の?」
「あれ? 真愛ちゃん、ホラー映画とかわざわざ映画館で見るくらい好きなの?」
真愛さんが上げた声に天童さんが反応する。
別に僕と真愛さん、2人で映画を観に行った事は別に秘密というわけでもないし、そんなつもりでもなかったのだけれど、敢えて言うとなると何だかデートみたいで恥ずかしい。僕はそのつもりだったのだけれど真愛さんはどう思ってるか分からないし。
どう答えた物かと考えていると、天童さんの隣の明智君が何だか疲れたようなショボくれた目で天童さんを勉強に戻す。
「ほら天童、まだ英語が終わって数学が始まったばかりだぞ……」
「アハ! メンゴ、メンゴ!」
「お前は栗田本部長たちと同学年になりたいのか?」
「さ、さすがにそれは嫌……」
明智君の脅しは堪えたようで天童さんは慌てて問題集に向かう。
ついでに言うと栗田さんは名門進学校である蒼龍館高校を狙っているそうなので、僕たちの通っている極普通の公立校で怪我や病気で出席日数が足りなかったりしたわけではなく、単に成績不良で留年してしまっては同学年といっても明らかに立場が逆転してしまうだろう。
もちろん栗田さんはそんな事を気にするような人でも無いし、前に天童さんから前組長の“可愛がり”から庇ってもらった事があると言っていたので今と変わらずに接してくれるように思える。
むしろ気にしてしまうのは天童さんの方だろう。
天童さんは別に授業に不真面目なわけではなく、勉強に集中できないというわけでもない。むしろ授業中には課題に真面目に取り組んでいて首を傾げている事を何度も見てきているし、今日だって明智君にサポートされながら前のめりになって教科書や問題集に向かっている。
ただ、勉強に集中していても、何かの拍子で注意が逸れやすいだけなのだ。
その事は僕たち皆、知っている。でなければこうも長い時間、明智君は穏やかな声の調子で付きっきりで面倒を見ていないだろう。
それはクラスの皆もそうで、各教科の先生たちもそう思っているだろうことは表情や態度から察する事ができた。
「あ、そこ計算の順序が違うぞ……」
「ん? どこ?」
「今、やってる問題。どこが違うかは少し考えてみようか?」
「お、おう!」
明智君は古語単語帳から視線を動かさずに間違いを指摘すると、天童さんもしばらく悩んだ後で消しゴムを取って問題をやり直す。
再びリビングを静寂が包み込んでいく。
時刻が3時になった時、真愛さんのスマホから音楽が流れ始める。
どうやら着信ではなくアラームをセットしていたようで真愛さんは画面を確認してアラームを解除した。
「さてと……、3時になったし一息入れましょうか?」
「ん? もうそんな時間か?」
「ふぅ~! 結構、疲れたで御座るな……」
「いや~! 明智んのおかげではかどったよ」
「天童も頑張ってたし、予定通りに行くか?」
「ん? 『行くか』って何々?」
「ああ、誠には言ってなかったっけ?」
真愛さんの言葉で皆はめいめいに体を伸ばしたり深呼吸したりとリラックスし始めた。
僕もやり終えた問題集のページを指で挟んでみて、その手応えにニンマリとする。
僕が蒼龍館高校にお呼ばれしていた午前中から皆は勉強会をしていたわけで、3時の休憩の時にどこかに行く予定をしていたらしい。
「ええ、3時になったら商店街の喫茶店に何か甘い物でも食べに行きましょうかって話てたのよ」
「お、いいねえ!」
商店街の喫茶店といえばお惣菜屋さんとハンコ屋さんの間にある古びたというか風情があるという感じのお店で、僕も前々から気にはなっていた。
「私は家がちょっと遠いからあの商店街とかあんまり行った事がなくてな~! 楽しみだよ!」
天童さんは今まで眉間に皺を寄せて問題集に向かっていたのが嘘のように満面の笑顔を作って勉強道具を鞄に仕舞い始める。
天童さんの切り替えが早い所は長所でもあると思う。
「あ! ちょっと待って~! この勝負が終わったら私も行く~!」
亮太君と床のカーペットの上で胡坐を組んでいたD-バスターも顔をこちらに向けながら顔を綻ばせていた。
「亮太君も行く?」
「いいよ。高校生たちと一緒に歩いてるのをクラスメイトに見られたら『友達いないのか』って思われるじゃん?」
D-バスターの誘いを亮太君は固辞する。
言ってることは分かるけど、こないだ亮太君、ZIONで真愛さんとアーシラトさんと一緒にショッピングしてたのにな。
まあ、自宅の近くだから友達に見られる可能性も高いと思ったのだろう。
D-バスターは「終わったら」という割に亮太君に勝ちを譲ってとっとと勝負を切り上げるつもりは無いようで、逆に猛ラッシュを仕掛けて勝ちをもぎとりにいった。
だがD-バスターの操作するジャスティスマンティスさんはダブルシックルの連続攻撃を亮太君の操作する米内さんの木刀で迎撃され、米内さんのアシスト攻撃であろうヤクザガールズたちのマカロン拳銃の一斉射撃で固められる。
このゲームのマカロン拳銃は威力が小さい代わりに硬直が長いんだな。
そして米内さんの木刀が派手なエフェクトで輝き必殺技を発動してジャスティスマンティスさんをKOする。
「あちゃ~! 勝ちを急ぎすぎたかな?」
「まあ、今日、初めてやった割には凄いよね。D子ちゃん」
「そりゃあ最先端の戦闘用アンドロイドですから!」
亮太君とD-バスターのやり取りを見ていると戦闘用アンドロイドというより、むしろ子守り用のアンドロイドのような気にすらしてくる。
そうやって幾つか言葉を交わした後、D-バスターは立ち上がり僕たちの方へ向き直った。
「お待たせ!」
「それじゃ行こうか」
「そういや、あの喫茶店って何が名物なの?」
「私はホットケーキとか好きだけど」
「拙者はフルーツサンドがアッサリしている割に腹に貯まって好みで御座るな」
「パフェ系もいけるぞ」
地元民の真愛さん、三浦君、明智君は皆、例の喫茶店の事を知っていたようで、それぞれに贔屓のメニューがあるようだった。
それにしても「パンケーキ」ではなくて「ホットケーキ」なあたり、外観通りにノスタルジックな喫茶店らしい。
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