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引退変身ヒーロー、学校へ行く!  作者: 雑種犬
クリスマス特別編 聖夜の悪魔王決定戦
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クリスマス特別編-4

 アスタロトが案内されたのはリビングダイニングキッチンだった。

 一般家庭に比べて広いLDKは所せましと長テーブルとイスが置かれ、むしろ窮屈な印象すら受ける。

 それでも明るい室内に丸みを帯びた家具類はアスタロトが知っている過去の孤児院とは隔世の感があるもので、すれ違う子供たちも一瞬、アスタロトに戸惑うものの、明るい顔と闊達な声で彼女に挨拶してきた。


 アスタロトは白髪のシスターに1つの椅子へ座るよう促され、彼女が椅子に座ると若いシスターが湯呑に入った程よくぬるい緑茶と茶菓子を持ってきた。


「ああ、シスター智子、ありがとう」

「ん、ども!」

「どうぞ……。あの、シスター? こちらの方は?」

「サクラちゃんが悪魔に襲われていたみたいだから送って頂いたそうなの」

「ええ!? 悪魔に? すいません! 私が夕ご飯で足りない物をお使いに頼んでいて……」

「いや、大した事は無かったみたいだしな」


 白髪のシスターから事情を聞いた若いシスターはアスタロトに対して腰を90度に曲げて礼を言った。

 だがアスタロトも最下級悪魔の1体をブッ飛ばした程度で恩を売るつもりもないので、軽い調子で済ます。


 アスタロトにくっつかんばかりに後を付いてきていたサクラが若いシスターにレジ袋を無言で渡すと、シスターは彼女の無事を確かめるように体中をべたべたと撫でまわす。

 しばらくそうしてサクラがどこも痛がる様子がないので安心したのかホッとしたような表情で大きな溜め息をついた。


「……ふぅ。何事もなくて何より。それじゃ私は晩御飯の支度に戻りますね。サクラちゃんもありがとう!」

「…………」


 シスターが軽くサクラの頭を撫でてキッチンの方に戻ると、サクラは1言も喋らずにどこかに消えてしまった。


「なあ?」

「はい?」


 アスタロトはふと思いついた事を向かいの椅子に座った白髪のシスターに聞いてみる事にした。

 不躾な質問だろうが、どのみち自分は「悪魔」だ。誰も自分にお行儀良くすることなど求めないだろう。


「あの子、サクラはもしかして口が……」

「ええ……」


 シスターの返答を聞いて、アスタロトは質問した事を後悔した。

 彼女は毎日を楽しく満ち足りた生活を送っていたい。そういう悪魔だった。であるから人の迷惑など考えずに自分の望むがままに生きているのだ。そして、それはここ数千年の間、変わる事が無かった。


 そのアスタロトにとって、口も聞けずに児童養護施設で暮らす子供など放っておくべき存在と言えるだろう。


 だが聞いてしまった事を無視する事もできず、施設の入り口で「児童養護施設」と書かれた看板を見つけた時と同じように彼女は胸の奥に棘が生えたような感覚を味わっていた。


「去年のクリスマスイブの事でした。両親と3人でレストランに行った帰りに事故に遭い、御両親が……」

「2人とも?」

「ええ……」

「ハッ! 神も仏もあったもんじゃねぇな!」


 アスタロトは緑茶の湯呑を一気に呷った。

 目の前のシスターの反応を窺うが、敬虔な修道女であろう彼女はアスタロトの言葉を否定する事はなかった。ただ淋しそうな顔をして言葉を返す。


「……私もたまにそう思う事があります。私の修行が足りないのでしょうか?」

「おいおい……。いるから! 仏様には会った事ぁ無いけど、神様はいるから! ホレ! ここ!」

「え?」


 アスタロトは頭頂部をシスターに見せ、つむじの辺りを掻き分けて古い傷跡に指を指す。


「これ、シナイの山でお前んとこの神様に脳天落下式ブレーン・バスター食らった時の傷跡!」

「あらら! これは凄い。貴女が言う事なら間違いはないのしょうね!」


 シスターの表情に朗らかな笑顔が戻る。

「神はいない」というアスタロトの放言を肯定するような事を言い出すシスターの様子に悪魔が慌てたのが面白かったのか、口元を隠し肩を揺らして彼女は笑っていた。


「……頼むぜぇ? この施設、建物こそ古いが、中は明るくて暖かい。あんたが頑張って切り盛りしてきたんだろ?」

「分かりますか?」

「大変だろうとは思うがな。ホレ、お菓子もガキどもに食わせてやれ」


 アスタロトは自分の前に置かれた茶菓子の入った深皿をシスターの方に向かって突き返した。

 だがシスターも小さくウインクを返して皿をテーブルの中央に戻した。


「いえいえ、建物を建て替えるほどのお金は無くても、この町は助成金とかは恵まれてますし、寄付などもたくさん頂きますから……」

「へぇ! 篤志家ってヤツかい?」

「ええ、それで羽沢真愛さんにも寄付の方を頂いていまして……」


 そこでシスターは言い淀み、少しだけ困ったような顔をした。


 その理由がアスタロトにはすぐに分かった。

 つまりシスターは羽沢真愛からの寄付金の中にはアスタロトを撃退した時の報奨金が多分に含まれているのを知っているのだ。


 その金で買った菓子なら少しくらい頂いてもバチは当たらないだろうと、アスタロトは皿の中から煎餅の小袋を1つ取って食べ始めた。


「ん? つまり、アンタはアタイが誰だか知ってるのかい?」

「ええ、子供たちが見ている特撮ドラマやニュースなどで……」

「ああ、なるほどね」

「意外と貴女、人気あるんですよ? 何度、負けても諦めないところとか」

「判官贔屓ってヤツかい?」


 同じような事を節子も言っていたなとアスタロトは思い出す。

 日本人という民族は敗者の中に無理矢理にでも美点を見出して、それを好む精神性を有していた。


 あるいは悪神を宥めすかして荒神として祀る宗教観も関係しているのかもしれない。

 去年、来日したばかりの頃、都内T区にて荒神と戦ってエラい目に遭っていたアスタロトは自分の深読みだろうと思いつつも、その考えを捨てきれなかった。


 小袋の中に入っていた2枚の煎餅を食べ終えた頃、アスタロトの服の裾を引っ張る者がいた。


「ん? ああ、サクラか」

「…………」


 サクラは自分よりも小さな子を3人ほど引き連れ、アスタロトの事をジッと見つめてくる。

 その手にはピカピカと安っぽく光る星を持っていた。


「ん? なんだ? くれるのか?」

「…………」


 てっきり助けた礼にその星をくれるのかと思ったが、サクラは首を大きく横に振り、窓の外を指差した。


 窓の外には芝生の張られた広い庭があり、庭の中央には高さ2.5mほどのモミの木が据えられていた。

 そのモミの木に10人近い子供たちが集まり、色とりどりの飾りを付けてデコレーションしているところだった。


「ああ、クリスマスツリーか……。え!? 私にクリスマスツリーの飾り付けをしろと!?」

「…………」


 サクラは大きく頷き、澄んだ瞳でアスタロトを見つめてくる。

 まるで、その労働は誰もが楽しいものであると信じて疑わないかのようだった。


「え、いや、さすがにそれはちょっと……」

「あら? いいじゃない? どの道、ご飯が出来上がるまでは時間がかかりますよ?」

「ご、ご飯?」

「食べていくでしょう?」

「いや、で、でもアタイは……! ちょ! 手を引っ張るな!」


 いつまでも渋るアスタロトにじれったくなったのか、サクラと3人の子供たちはアスタロトの手を曳き園庭にまで引っ張っていった。


(……はあ、悪魔が飾り付けしたクリスマスツリーか……。縁起悪ぃなぁ……)


 LDKの出窓から庭に出ると、ツリーの周りの子供たちはアスタロトの事を見て一瞬だけギョッとした表情を見せるものの、サクラたち年少組に手を曳かれているアスタロトの事を警戒する事もなく、彼女のためにスペースを開けてくれた。


 子供たちは節子くらいの年頃の子もいれば、真愛やサクラのように小さな子供もいた。

 いずれもこの児童養護施設の子たちであろうが、彼らの表情には暗い所は無く、むしろクリスマスというささやかなお祭りを前に皆、浮かれたような表情をしていた。

 それがアスタロトをホッとさせてくれたのだった。


 12月の冷たい風が吹く夜の事である。

 普段ならば地中海地方出身のアスタロトには骨の髄まで凍えるほどの寒さであるが、何故か今日は冷たさなど気にならなかった。


「え~と、この星はどこに?」

「…………」

「ああ、てっぺんか」


 生まれてこの方、クリスマスツリーの飾りつけなど1度もした事のないアスタロトに対して、サクラが急かすようにツリーの頂上を指差す。

 アスタロトも星に取り付け用の穴が開いているのを見つけ得心がいったのか、蛇の下半身を伸ばして高いツリーの天辺に簡単に星を取り付ける。


 アスタロトがいとも容易く星を設置したのを見て、周囲の子供たちからも歓声が上がるが、サクラから次々と飾りを渡されて苦笑しながらアスタロトは指示されるがままに飾り付けをしていった。




 結局、あの後は塩サバとほうれん草のお浸し、ヒジキの煮物などの和風の夕食をご馳走になり、明日のクリスマスパーティーに招待までされてしまっていた。


「……まっ、悪い気はしないがな……」


 独り言を言いながら帰路についているアスタロトであったが、ほかほかのご飯と味噌汁、オカズたちのせいか心まで温かくなったような気すらしていたのだった。


 だが、そんな気分もねぐらにしている廃墟に辿りつくまでだった。


「……何者だ!? 姿を隠すってのは“そういう事”なんだな!?」


 彼女の言葉が引き金だったかのように周囲の闇は蠢き、いくつもの不定形な物質を作り出していく。


 そうして現れたのは無数の最下級悪魔を引き連れた4柱の悪魔。

 3柱には心当たりがなかったが、彼らの中心で邪悪な笑みを浮かべる赤髪の女悪魔はアスタロトの良く知る悪魔であった。


「やあ! 姉さんも相変わらずだね!」

「姉さん?」

「ん? この国じゃ芸歴が上の先輩の事を『兄さん』『姉さん』とか言うんじゃなかったかい?」

「そりゃ西の方の話だ!」


 そもそもアスタロトは“芸事”なんぞやっていた覚えも無かったのだが。


「で、何の用だい? ベリアル!」

もし私がここで行方不明になったなら、T区の荒神様に“異世界送り”にされたとでも思ってください

\(^o^)/


ツイッターやってます!

雑種犬@tQ43wfVzebXAB1U

https://twitter.com/tQ43wfVzebXAB1U

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