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引退変身ヒーロー、学校へ行く!  作者: 雑種犬
クリスマス特別編 聖夜の悪魔王決定戦
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クリスマス特別編-2

 アスタロトたち5人はそれから取り止めの無い話を続けていたが、不意に井上翁が大きな声を上げた。


「たぁ~ま~や~!!」

「どうした? ジーさん、ついにボケたか?」


 木枯らしの吹きすさぶ12月の夕方に、真夏の夜の打ち上げ花火を見るような声を出す。

 口にこそ出さないものの、アスタロト以外の譲司、神田、節子も同様の事を考えていた。


 だが井上が見ている方、遠くの空を見てみると、本当に大輪の花火が幾つも輝いていたのだ。


 色こそ橙1色だったものの、尺玉の花火のような大きな火球が点いてはゆっくりと消えていき、また別の場所に火球が現れる。


 さらに火球が触れた灰色の雲は一瞬で消え失せて、薄暗くなっているもののまだ青い空が現れ、また周囲の雲がゆっくりと浸食していくように広がっていき穴を塞いでいく。


 その光景は天空の一大スぺクタルショーのようだった。


「真愛さん、相変わらず気合、入ってますね」

「子供は風の子と言うしのぉ~!」

「グッズもメッチャ売れてるらしいぜ?」

「家の子なんか男の子なのに彼女の変身グッズとか欲しがってねぇ……」

「…………」


 その火球を作り出しているのはたった1人の少女であり、その少女の事を公園の5人は良く知っていた。


 譲司や神田、井上は同業者として。

 アスタロトや節子は宿敵として。


 異世界「魔法の国」第1期地球軍事支援計画の対象者の1人である魔法少女ラブリー☆キュートこと羽沢真愛。


「爆炎の魔法少女」、あるいは「最強のヒーロー」などと呼ばれる彼女は無尽蔵とも思える魔力を持って悪と戦う正義の魔法少女であり、子供の柔軟な思考力から繰り広げられる魔法は「さんさんさんさん! お日様さ~ん!」とかいうワケの分からない詠唱で太陽と同等の原理だという「核融合」を巻き起こす。

 もっともアスタロトは節子から「かくゆーごー」とやらの説明を受けても何のこったかさっぱり分からなかったのだが。


「……アレ、滅茶苦茶に暑いんだよな~!」

「暑いで済むあたり、姉さんは凄いっス!」


 プリティ☆キュートは大分、離れた場所で戦っているようで姿は見えない。それは彼女が戦っている相手も同様だった。


 見えるのは少女と敵が戦った結果である火球のみ。


 あの火球をアスタロトは何度も浴びせられていた。

 大抵の場合、アスタロトが「大火傷した」と言ったら、それはプリティ☆キュートに太陽の炎で焼かれたという事であった。


 どの道、他の者には理解できないだろうとアスタロトは誰に言うでもなく呟いたが背後にいた節子には聞こえていたようで称賛の声を浴びせてくるが、そんな事で喜ぶアスタロトではなかった。

 むしろ、それもまた負け続けの彼女の歴史を再認識させるだけだった。


「それにしても真愛ちゃん、誰と戦ってんだぁ? 神田、お前のケータイに何か連絡、来てねぇ?」

「ん? 何も来てないな……」

「UFOじゃないかのお?」

「ジーさん、UFOなんて古いなぁ。今は異星人の存在はハッキリしてんだから“未確認飛行物体”なんて言わねーぜ?」

「フォフォッ!」


 大空を自在に駆けて天に大輪の花を咲かせる宿敵と、公園でうだつの上がらない連中と安酒を呷っている自分。


 その対比があまりに惨めでアスタロトは2本目の缶ビールに手を伸ばした。

 美味い酒ではなかった。

 だが「お前は地べたにいるのがお似合いだ」と言われているようで耐えられなかったのだ。




 やがて戦闘は終わったようで灰色の雲は空一面を覆いつくし、仕事の途中だった神田は飲みかけのコーラのボトルを持って帰っていた。


「それじゃワシもそろそろ帰るかの……」

「ん? 早くないか?」

「なに、酒を呑んだのがバレないよう、酔い覚ましに少し散歩していこうかとの……」

「おっ、それじゃ俺も付き合うぜ、豆腐と長ネギ買ってこいって言われてんだ」

「それじゃ行くかの」


 譲司と井上も連れ立ってゴミを持って帰っていった。


 再び節子と2人きりになったアスタロト。

 これから2人でどうやって暇を潰そうかと考えているとどこからともなく下手な縦笛の音が聞こえてきた。


「ん?」

「あ! アスタロトと節子さん!」

「こんにわ! 真愛さん! さっきは大活躍でしたね!」


 現れたのは先ほどまで空で戦っていた羽沢真愛だった。

 赤い革製のランドセルを背負い、ダッフルコートを着て着膨れているものの、妙に顔が赤い。

 真愛は先ほどの戦闘など無かったかのようにプラスチック製のリコーダーを吹きながら帰宅途中だった。


「ありがと~! 2人は今日は悪い事してない?」

「へぇ! 今日はのんびりとしてました」


 成人に近い年齢の節子が小学校中学年の真愛に敬語を使うのは、自身のボスであるアスタロトの宿敵である真愛はアスタロトと同格であるという価値観であり、目上の相手であれば年下であっても敬意を払うという節子の信念だった。


 節子に褒められた真愛は天心爛漫な笑顔を見せるが、すぐに顔を歪ませて大きなクシャミをした。


「ん? お前、風邪か? 顔も赤いぞ!?」

「う~ん。ちょっと頭、痛い……」

「はあ? そんなんで戦ってたのかよ? おい、節子!」

「へい!」

「こいつは家まで送ってってやれ! 今日はそれでお開き!」

「へい!」


 アスタロトは子供という存在が嫌いではない。

 たとえそれが幾度となく干戈を交えて戦ってきた相手だとしてもだ。


 節子も悪魔に付き従っていても根は悪人ではないので、アスタロトの指示に素直に従って、真愛の手を取って家まで送って行った。


 そしてアスタロトは1人になった。

 すっかりと辺りは暗くなり、寒さに身震いしたアスタロトはねぐらにしている廃墟に帰る事にした。


(コンビニで何か買っていくか……)




 公園を出たアスタロトはコートのポケットに手を突っ込み俯きながら帰路についていた。


 結局、午後になってからずっと公園のベンチに座っていたが彼女の鬱屈した気分は晴れる事がなかった。


 12月の冷たい風はコートの襟口から飛び込んでくるし、何より冷たいアスファルトが蛇の下半身から容赦なく体温を奪っていく。


 ねぐらにしている廃墟まで道半ばほどに差し掛かった時、彼女の耳に何かを落とす音が飛び込んできた。


 顔を上げて前方を見るとアスファルトの上に落とされたレジ袋、そこから零れ落ちたのであろうリンゴが幾つか。

 そして腰を抜かして怯える幼女と、幼女を脅かそうと過剰に腕を振り上げて見せる黒い人影。


 その光景を見た時、アスタロトの体と心は熱を取り戻していた。


「おい! ゴルアァァァ! てめぇ、誰の前で調子こいてくれてんだぁ!?」

クリスマス編はハロウィン編ほどには長くならないハズ。

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