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引退変身ヒーロー、学校へ行く!  作者: 雑種犬
第30話 僕の知らない所で世界は動く
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30-4

 その日、特別養護老人ホーム「天昇園」戦車隊1号車はH市郊外の山中にいた。


 ゴールデンウィーク初日のハドー総攻撃の後、車長の泊満が入院するのと合わせるかのように謎の機関不調によりエンジンが始動しなくなった1号車であったが、泊満が復帰するのと同時にエンジンは不調が嘘であったかのように始動し、宇宙テロリスト「アカグロ」の陸戦隊との戦闘では八面六臂の活躍を見せていたのだった。


 その後、数日間を掛けて機関不調の原因を探るべく徹底して整備が行われ、原因の特定こそできなかったものの、本日、1号車は戦列に復帰し、試運転のために1号車は単独行動を取っていたのだ。


 折しも5月の陽気の中、何を思ったか泊満は1号車を山道に入れるように命じ、とても戦車が入るように出来ているとは思えないような非舗装の山道を1号車は進んでいく。


 天昇園戦車隊1号車。

 旧日本軍が同盟を結んでいたドイツから輸入したⅥ号戦車ティーゲルの最初期生産型であるその車両は総重量は55tを超え、とても山の斜面を切り開いて作られた山道を通行するのに適しているとはいえない。

 それでも乗員たちは車長の命令に従って車幅ギリギリの山道を転落しないように懸命に操縦していった。


 泊満も先週まで入院していたと思えないほど身軽な身のこなしでハッチから体を乗り出し、咽頭式マイクを使って車内に指示を出していく。


 やがて昼過ぎに山の中腹に差し掛かり5、6台の自動車が止められそうな開けた場所に差し掛かると、そこで5名の乗員たちは車両を降りて弁当を食べ始めた。


 1号車の乗員は若くても95歳。弁当のオカズは玉子焼きや皮無しタイプのウインナーなどの柔らかいものばかり、白米もギリギリ粥になっていないような柔らかい物で、食感も何もあったものではないが、それでも外で食べる弁当は彼らを楽しませた。


「き、今日の玉子焼き、エラい焦げてないか……?」

「ああ、それな。姫様が暇つぶしに作ったヤツらしいぞ」

「マジか……。ん? そっちのはエライ綺麗だけど?」

「こっちのは宇佐ちゃんが作ったヤツかな? 1個、交換しようか?」

「ああ、頼む」


 まるで映画のスクリーンから出てきたかのような銀河帝国の皇女が作った黒い玉子焼きも、いつも朗らかな笑顔で彼ら老人たちに接してくれるハドー獣人の宇佐が作った黄金色に輝く玉子焼きも、彼らにとっては等しく価値のある物だ。


 4人の乗員たちはまるで少年に戻ったように互いの弁当のオカズを交換しながら談笑していた。


 一方、車長の泊満だけは一同に加わらずに向かいの山を眺めながら弁当を食べている。

 普段なら泊満も車座になって食事をしているだけに、4人も訝しんでいたが入院していただけに何か余生についてでも考えているのだろうと深くは詮索しなかった。


 やがて食事が終わった頃に泊満は一同に乗車を命じた。


「どうしたんですか? 食休みは?」

「ハハ! 齢100を超えて辛抱が効かなくなったらしいな!」

「はあ?」

「もう待ちきれんのだよ! 戦闘だ!」

「戦闘って……、敵はどこに?」


 さすがに「戦闘」と聞いて4人の乗員は駆け足で車両に駆け込むが敵とやらの姿は見えない。

 空も山々も暢気な姿を見せているだけだった。

 それでも彼らの車長はボトル缶のブラックコーヒーを1口、飲んで向かいの山を睨み付けている。


「色々と混ざっていて分かり辛いが……、アレは敗残兵だな。それも負けを認めていない。まだ腹に一物、持っている手合いだ……」

「はぁ……?」

「あの山からプレッシャーを感じるのだよ! しばらく招待状代わりに榴弾でも撃ち込んでみようか?」


 それから、しぶしぶといった様子で乗員たちは戦闘配置に付き、車長の命令通りに向かいの山の中腹に見える小さな祠へ照準を付けて「ええい! ままよ!」と主砲を発射する。


 長年の経験の賜物か88mm砲弾は祠に命中し、爆風は祠の残骸を吹き飛ばす。

 その舞い散る破片の中に、およそ古い祠には似つかわしくないパラボラアンテナがあったのを砲手は見逃さなかった。


 普通、テレビか何かのために設置したパラボラアンテナは何かに隠したりといった事はしない。

 そもそも祠は本当に小さな物で、アンテナが必要な理由など思いもつかないのだ。

 つまりパラボラアンテナは隠蔽された物であり、設置した者には隠蔽しなければならない理由があったのだ。


「……マジか!」

「言ったろ? 次弾も榴弾! だが、ゆっくりとでいいぞ! 敵さんにも準備が必要だろうからな!」


 それからティーゲルは間隔を置きながら連続して主砲を向かいの山に対して発射し続けた。

 泊満が言う通り、この射撃は敵を誘い出すという意味合いが強い。


 幾らティーゲルの主砲が強力な物だとしても山中にある敵アジトにダメージを与えられる物ではないのだ。

 もし、山中の敵基地を破壊するのならば米軍が使うGBU-28レーザー誘導地中貫通爆弾(バンカーバスター)などが必要になってくるだろう。


「ふむ、そろそろ動こうか?」


 そろそろ搭載してきた榴弾も尽きそうになった頃、泊満は操縦手に移動を命じた。




 泊満が指定した位置に移動して、すぐに向かいの山の麓が爆発を起こした。

 4人の乗員たちは敵がアジトを発見されたために自爆したのかと思った。

 だが泊満は乗員たちに気を引き締めるように声をかける。


「来るぞッ! 恐らくは同業者(戦車乗り)! AP(徹甲弾)装填! 照準、爆発地点中央チョイ左側! ……テッ!」


 爆発の粉塵で爆発地点周辺は何も見えない。

 だが、砲手は車長の有無を言わさぬ迫力に黙って主砲を発射する。


 主砲の火球が稲妻のような速度で空を切り裂いて飛び、やがて彼らにとっては馴染み深いブ厚い金属が撃ち抜かれる大音響と爆発音。白い粉塵の中に赤い炎が映った。


「やった?」

「うむ、よくやった! 帰ったら宇佐ちゃんの毛皮でも撫でまわしていいぞ! だが、まだ次があるぞ!」


 やがて粉塵が治まり、空いた大穴から飛び出してきたのは彼らにとっては良く見覚えのある2輌の戦車と、1輌のあまり見たことのない戦車だった。


「敵! 中戦車2! 重戦車1!」

「いや……、違うな……」


 乗員が叫ぶように上げてくる報告を、泊満は噛み締めるような言葉で訂正する。


「アレは重戦車じゃない。……アレは歩兵戦車だ!」


 現れた敵は2輌のT-34-85と、1輌のチャーチル歩兵戦車だった。


「ある意味で重戦車よりも厄介だぞ、アレは!」


 歩兵戦車というカテゴリの兵器は文字通り、歩兵を支援するための第二次大戦以前の設計思想で作られた物だった。

 そのために速度は歩兵部隊に随伴できる程度と極めて遅い。だが、その分、極めて強力な装甲を誇っているのだ。


 そして天昇園戦車隊1号車の前に現れたチャーチルこそ歩兵戦車の決定版として名高い名戦車だった。


 だが、厄介だという口振りとは真逆に、泊満の顔は大きく綻んでもいたのだった。

ツイッターやってます

雑種犬

https://twitter.com/tQ43wfVzebXAB1U

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