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引退変身ヒーロー、学校へ行く!  作者: 雑種犬
第30話 僕の知らない所で世界は動く
173/545

30-3

 日本ソヴィエト赤軍の老人が格納庫に付くと、すでに部下たちが整列して老人の到着を待っていた。


「同志! 総員17名! 異常無しッ!」

「うむ……」


 老人の前に2列横隊で整列する兵たち、そしてその背後で暖気運転のためにエンジンの低い音を立てる4輌の戦車。


 それが現在の日本ソヴィエト赤軍の全兵力であった。

 彼らの代表である老人を入れても18名という人数は4輌の戦車乗員の定数にも満たない。


「車両に不具合は?」

「“チェールチリ”も“ロジーナ”も全車、異常無し! 砲弾の積み込みも完了済み!」

「よし! 聞いているだろうが虎狩りだ! 今まで死に損なってきたんだ! 今さら怖気づく奴もいないだろ! 乗車!」

「ハッ!」


 小気味良い部下の返事と動作に老人は満足する。

 敵は名うての戦車乗り、だが自分たちだって負けてはいないのだ。

 4輌の内、2輌は乗員の定数を満たさない状況。だが4対1ならば十分に戦いようもあるだろう。

 それでも。

 それでも老人には生きて帰るつもりは無かった。


「……おい!」

「ん?」


 部下の乗車を見届け、自分も愛車に乗り込もうとした時、老人は背後から声を掛けられる。


 振り向くとそこにいたのはナチスジャパンの女性だった。

 ゴーグルを首から下げて戦車内ではかさ張る正帽は略帽に変え、革手袋を付けた女性が足早に近寄ってくる。


「どうした? ナチ豚?」

「アカにだけ任せてられるか! 私もヤークト・パンテル・(ツヴァイ)で出るぞ!」

「止めとけ、止めとけ!」


 老人は女性をまるで相手にしないかのように愛車に向かって歩いていく。


「駆逐戦車が真正面から出てってどうすんだ? お前のパンテルは隠蔽特化仕様だろ?」

「ふざけるな! 『虎の王』は……、『虎の王』は父と母の仇なのだぞッ!」

「なに!?」


 女性の言葉に思わず振り返った老人は彼女の言葉の意味を噛み締め、女性と格納庫の奥に鎮座するヤークト・パンテル・Ⅱの姿を何度も見比べる。


「駆逐戦車が正面から出て行ってどうする?」という言葉も「パンテルが隠蔽特化」という言葉も、けして女性を煽るために言った事ではない。

 それらは事実であり軍事常識なのだ。


 旋回砲塔を持たない代わりに強力な火砲を持つ駆逐戦車というカテゴリーの兵器。


 ナチスジャパンの女性の愛車であるヤークト・パンテルはその駆逐戦車の代表格と言っていいような存在だ。

 そして駆逐戦車がもっとも、その真価を発揮するのは「待ち伏せ」戦術を取る時だった。


 その待ち伏せの際に敵に発見される危険を極限するために、ナチスジャパンのヤークト・パンテルは改良が施されている。

 電波吸収塗料の塗布はレーダーによる探知を防ぎ、オートメーション化の推進により乗員は1名でよく、その余った車内容積を有効活用する事により車高を低く抑える等。


 徹底的な改修は功を奏し、ヤークト・パンテルは「改」ではなく「Ⅱ」と呼ばれるようになった。

 だが、あくまで改修は隠蔽性の強化に限られていたのだ。


「……いや、やっぱり駄目だ! 親の仇は俺たちに任せておけ!」


 逡巡の後に老人は女性の出撃を拒否する。


「アカの指揮下に入った憶えは無いぞ!」

「いいか! よく聞け!? あの『虎の王』はな! かつて中国大陸でソ連の戦車大隊を単騎で包囲して降伏させているんだ! お前のような小娘が相手になるか!」

「は?」


「単騎」で「戦車大隊」を「包囲」したという老人の言葉に、女性は老人がついにボケてしまったのかと思った。

 だが老人の目は雲ってもいないし、狂気に染まっているわけでもない。

 彼の目は純然たる事実を述べただけだと言っているように思える。


 老人と女性。互いに睨みつけるように視線を躱すが、今また1発の砲弾が格納庫を揺らした。


「チィッ! 時間を無駄には出来ん! 俺は行くぞ!」

「おい待て! 私を置いてくな!」


 老人は愛車の履帯の上に飛び乗り、砲塔上の車長用ハッチへ潜り込む。

 女性も後を追おうと自身の愛車へと駆け寄るが、老人の戦車の砲塔が旋回していたのには気付かなかった。


「……!」


 山中の格納庫という閉鎖空間での戦車砲の発砲。

 女性は鼓膜と三半規管が麻痺したかのような感覚を覚え、何が起こったのかを理解するのに一瞬の時間をようした。


 やがて気が付いた時、女性の愛車であるヤークト・パンテルの履帯を動かす駆動輪は無残に撃ち抜かれていた。


「……おい! このアカの手先の卑怯者め! 戻ってこい!」


 女性が悲痛な叫び声を前進していく戦車たちに浴びせるが、その悲鳴にも似た声は巨大なエンジンの轟音に掻き消されていった。




「……良かったので?」

「気になるのか?」


 砲塔内の車長席の老人に、装填手が話しかける。

 敵は戦車が1輌、すでに初弾は装填済みだ。


「恨まれますよ?」

「構わん」


 日頃、罵り合っていた2人だったが、実の所、老人はナチスジャパンの女性を孫娘のように思っていたし、それを彼の部下たちも理解していた。

 その孫にも等しい女性を死なせないためだったとはいえ、このような形で今生の別れを告げるようになるとは思いもしていなかった老人は言葉数が少なくなっている。


「親の仇と言っていましたね?」

「……」

「彼女もいた方が少しでも勝てる確率が増えるのでは?」

「何だ! お前! 『あの女のパンツ』が無いから戦えませんだと?」

「『パンツ』ではなく、『()()テル・()ヴァイ』です!」


 老人が自らを奮い立たせようと、わざと逆ギレに近い反応をする。

 これに老人が意気消沈していたのではないかと思っていた車内の面々もホッとしたような表情で顔を見合わせた。


「お行儀よく格納庫ハッチを開けてる余裕が無い! 爆薬で吹き飛ばすぞ!」

「了解!」


 事前の作戦プランに従い、1輌の僚車が前に出る。ハッチが吹き飛ばされた瞬間に加速しようとエンジンの回転数を上げて白い排気ガスが格納庫内に満ちていく。


「3、2、1、発破ァ!」


 山肌に偽装した格納庫の扉が指向性爆薬により吹き飛ばされ、爆破の粉塵により視界がクリアになる前に1輌のT-34-85(85ミリ砲搭載型)中戦車が飛び出そうとする。


 だが、それよりも先に格納庫内に飛び込んできた1発の火球により、T-34は車体正面を撃ち抜かれ爆散した。


「2号車! 2号車! 脱出しろ!」


 通信手が無駄と分かっていながらも炎上する僚車へ通信を続けるが、もちろん応答はない。


 未だ粉塵は治まる事はなく、2号車を撃破した敵の姿は見えない。茫然と照準口から燃え盛る戦車を見つめる砲手に老人が語り掛けた。


「相変わらずだなぁ……」

「こ、これが『虎の王』!」

「そうさ! エレクトロニクスにおんぶにだっこの現代っ子とは違い、鉄の戦車を自分の体のように扱う。アレが本物の戦車乗り。そして俺たちの最後の敵さ!」

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