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引退変身ヒーロー、学校へ行く!  作者: 雑種犬
第30話 僕の知らない所で世界は動く
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30-1

 H市内某所の山中。

 連なる山々の内の1つにUN-DEADの秘密基地はあった。

 山中の地下基地は突貫作りのためにコンクリートが打ちっぱなしで所々、地下水が染み出してきている。


 その湿っぽい廊下を1人の女性が歩いていく。

 黒い威圧的な軍服を纏い、膝下まであるブーツの音を響かせて歩き、やがて女はある1室に入る。


「遅いぞ! ナチ豚!」

「アカの手先のドン百姓は黙って待ってろ! それはともかく、他の方々にはご迷惑をおかけした。失礼」


 室内に入ってきた女性に対し、「コ」の字に並べられた長机についていた初老の老人が罵声を浴びせる。

 女性も老人に対して罵声で返すが、その他の室内の面々に対しては足を揃えて深く頭を下げた。


 室内のメンバーは遅刻してきた女性に対して咎めるような真似をせずに会釈を返すが、かといって室内の空気が良いわけではない。最低限の照明しか点けられていない室内は重く陰鬱とした雰囲気が立ち込めていた。


 何も女性の遅刻が原因ではない。

 これにはUN-DEADという組織の成り立ちが関係していたのだ。

 先に女性に罵声を浴びせた老人とて、女性に「ここが空いているぞ」と女性を自分の隣の席へと手招きし、女性も気兼ねした様子もなく老人の隣の席に座った。


 UN-DEADという組織はいわゆる敗残兵たちの集団だった。

 昭和中期以降、雨後の筍のように現れては消えていった侵略者の組織たち。それらの組織の多くは地下組織であり、完全に根絶するという事はヒーローたちでも難しく、侵略組織の数だけ敗残兵の集団があったといっても過言ではない。


 敗残兵たちは更生して社会復帰した者もいれば、再起を目指して見事に新組織を立ち上げた者もいる。中には他の組織に吸収された集団もいたであろうし、単独でヒーローたちに戦いを挑んであえなく散っていった者もいる。


 だが時代が進むと共に技術革新が進んでいき、新たな組織の設立には大きな困難が立ち塞がっていくようになった。


 かつては国家プロジェクトの予算で開発するような規模のスーパーコンピューターも、現在では同等以上の性能を持ったパソコンを家電量販店で買えるようになり、小型拳銃と狙撃用ライフル銃しか持たなかった警察も多目的ランチャーや電磁警棒をも装備するようになった。さらにいえば気休めにしかならない鋼板を張られた装甲車で放水して暴徒を蹴散らしていたのが、今日では警察庁独自開発の戦車をも装備するようになったのだ。


 当然、侵略者たちにはそれらを上回る戦力を保有しなければ相手にもされない事になったわけだが、敗残兵たちにそのような資金力があるわけもなく、かといって他所の組織に吸収される事を良しとしなかった者たちは自然と集まってUN-DEADという組織の中でそれぞれの独立を守っていく事になったのだ。


 例を挙げれば、先ほどの黒い軍服の女性の所属は「国家社会主義日本労働者党」いわゆるナチスジャパンであり、女性に罵声を浴びせた初老の老人は「日本議会(ソヴィエト)赤軍」に所属している。


 本来ならば犬猿の間ともいうべき主義の2人であったが、口では語彙の限りを尽くして罵りあっていた2人も「同病相憐れむ」といったところか意外と仲は悪くない。むしろUN-DEAD参加組織の中ではミリタリー色の強い両者は兵器の整備などで色々と便宜を図り合う関係であった。

 実の所、2人が口汚く罵り合っているのは、互いの戦意が衰えていないのを確認するような感覚だった。


 この2人だけではない。

 サクリファイスロッジ

 Re:ヘルタースケルター

 サイコカンパニー

 極悪組

 スラッシュパンクス

 マシンウォーリアーズ

 凶竜軍団

 フラッグス移民船団

 etc.

 UN-DEADに参加する団体は様々で、地球人どころか人間ですらない者もいるが、それぞれに協力しあって再起の日を待ちわびていたのだ。


 そして彼らの蜂起の日は近い。

 今日もこの秘密基地において各組織の代表者が集まり会議を行なっていたのだった。


「何かありましたか?」

「ああ、ヒーロー協会内部に潜入させた者からの情報で、我々UN-DEADの存在が奴らに知られたらしい」


 会議の議長役、ルックズ星人がナチスの女性に尋ねる。

 ルックズ星人はのっぺらぼうのような顔のために感情は読みづらい。だが、口調や素振りからも彼が慌てたようには見えなかった。


「ふむ。まあ想定内といったところですか。どのような経緯かは?」

「ああ、勧誘部隊や外注してた者かららしい」

「外注というと例の『闇のハローワーク』からですか?」

「ああ」

「まあ勧誘部隊の数名が敗北してしまった事は残念ですが……。むしろ、ここまで我々の存在を秘匿できていただけ上出来でしょう」


 ルックズ星人が会議の参加者を見渡すと面々も基本的には彼に同意しているようだった。

 だが悪魔アスタロトを勧誘するために人員を出したサクリファイスロッジの代表者は忸怩たる思いを抱いているようだ。

 その思いはルックズ星人も同様だった。彼もマスティアン星人の勧誘のために配下を出して、そして拒否されて戦闘になり敗北していたのだ。


「ただ、我々の存在が知られたといっても、我々が仲間を求めて勧誘したり、デスサイズの動向を監視していたという以上の事は知られていないようだ」

「ほう……」

「アスタロトの元に行った者は自害したようだし、マスティアン星人の元へ行った者は戦死したようでな。それ以上の情報は探られようもないだろう、協会でもメールマガジンで注意喚起を出したくらいだ」


 ナチスの女性が続けた言葉を聞いてサクリファイスロッジ代表が机を叩く。全身が大きく震えていた。


 サクリファイスロッジは1999年にマスクドホッパーとスティンガータイタン、ジョージ・ザ・キッドとの戦いに負けて壊滅していた。

 それ以来20年近くにもわたって息を潜め、そしてようやくUN-DEADの元での蜂起を目前にしての悲報。それも自分たちの情報を渡さぬようにと自害したというのだ。

 同じく同士を失っていたルックズ星人はその姿に同情して一同に声を掛ける。


「……我らの大願のために散った者のために黙祷を捧げましょう。黙祷!」


 種族や主義主張は様々なれど仲間を失う気持ちは同様だった。

 室内の面々は一様に目を閉じて死者の冥福を祈る。

 だが彼らが止まる事はない。

 仲間が倒れ、組織を失っても戦う事を止めない彼らは、故に自分たちを「不死者(UNDEAD)」と称していたのだった。




「黙祷止め。……それでは本題に入りましょうか? 例の計画はどうなっています?」

「はい。まず皆さまに感謝します。きっと故人も向こうで喜んでいるでしょう……」


 ルックズ星人に促されててサクリファイスロッジ代表が立ち上がった。

 亡き同志への黙祷に感謝を口にしながら手元のファイルを開く。


 ファイルに閉じられていた小冊子の表紙には「旧支配者招来計画」と大きく印字され、下の方には小さく「世界怪奇同盟日本支部」の文字があった。

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