28-3
昼休み。
いつもは僕、天童さん、三浦君の席をくっつけ、そこに真愛さんも後藤さんの席を借りて机をくっつけて4人での食事だった。
だけど、今日はいつもとは違う人も参加していた。
明智君。
普段は自分の席でささっとお弁当を食べてから僕たちの方に来て会話に参加する彼が、今日はお弁当を持ってきて僕たちと一緒に昼食を食べるらしい。
だが、明智君はいい。
問題は……。
「……なんでゼス先生がお弁当持ってウチのクラスに来てるの?」
「なんでって、職員室の人たち、今日初めて会う人ばかりじゃない? 採用の面接の時に校長と教頭には会ってるけど、さすがに昼食まで上司と一緒ってのはねぇ?」
そう。何故か昼休みに入ってから1分か2分でゼス先生は僕たちの1年B組に入ってきて、僕と明智君の顔を何度か見た後、廊下側のお弁当が置かれた明智君の席を持って僕たちの方に来ていたのだ。
いきなりの事で呆気に取られた明智君も不承不承ながら僕たちの方でご飯を食べる事にして椅子を持ってこちらへ来た。
「ていうか、何で明智君だけ1人で食べてるのよ? ケンカ? 仲間外れ?」
「違います。他人の席で食事をするのが嫌なだけです」
「ん? 自分の机を持っていけばいいじゃない?」
「もしかして2人とも知り合い?」
「ええ、先週からね!」
「ああ、授業中にも宇宙攻撃機をイジってたのにゼス先生も参加してたって話があったろ?」
2人の話ではドラゴンフライヤーやロケットの改修、蒼龍館高校技術部が開発していた宇宙用スクーターを攻撃機に改造するのに地球在住の異星人たちにも協力してもらっていたようで、中でも去年から自衛隊に協力していたゼス先生には早い内から話が来ていたようだ。
「へぇ~! それじゃゼッちゃんにアタシたちも先週の木曜に会ってたかもしれないんだな!」
「あら? 私の方は気付いてたわよ?」
「そうだったんですね」
異星人らしい怪力で明智君の机を持ってきたゼス先生は、明智君の席を僕たちの席にくっつけ、そこに自分の分のお弁当を出した。
もちろん学校の机に2人分のお弁当ではさすがに狭いので、僕たちも机の上のスペースを詰めて明智君とゼス先生が不自由しないようにしてあげる。
「ほら! 5人分の机をくっつければ6人分のお弁当くらい置けるでしょう?」
「ゼッちゃんもそこの原の椅子持ってきて座ったら?」
いつの間にやら天童さんは「ゼッちゃん」なんて読んでるし。
「ああ、別にいいわよ? 宇宙船じゃよく立ったまま食事してたし、1Gの環境にも慣れてきたしね!」
そういってゼス先生は自分のお弁当箱を開け、中のサンドイッチにハンドミルをゴリゴリ回して盛大に塩を振りかける。
弁当箱の中どころか、自分の机の上にまで塩が飛び散った明智君は一瞬だけ引き攣ったような顔をしたが、すぐに大きな溜め息をついた。
「う~ん! ツナマヨにはやっぱりヒマラヤのピンクソルトね! 皆も使う?」
サンドイッチを1つ食べたゼス先生は満面の笑顔でそう言うと、ハンドミルを僕たちに向けて差し出してきた。
それについて明智君も脇から補足説明を入れてくる。
「あ~、フィジョーバ人にとって塩を分け与えるというのは最大限の友好の表現らしいぞ……。つまり、断っちゃいけないらしい……」
地球人には「塩分の摂り過ぎによる健康被害」という問題があったハズなんですが、それは……。
だが、皆、そんな事など気にしていないのか、それとも透明なハンドミルの中のピンク色の岩塩に興味があるのか、ハンドミルを受け取ってお弁当のオカズに岩塩を振りかけていった。
真愛さんも御弁当の蓋に少しだけ岩塩を出し、それを指ですくって舐めた。
「……なにか普通の白い塩よりも複雑な感じの味ですね」
「でしょ~! 私のお気に入りよ!」
「確かにちょっと美味しくなった気がするで御座るな……」
「うん! 4時間目は体育で汗、掻いたからしょっぱいのが美味いな!」
順々に回されてきたハンドミルを受け取った僕は、同調圧力も半分あり、ゆで卵の上に塩を振りかけて食べてみる。
「ん? 確かに美味しい!?」
僕は電脳内に塩の成分を表示させるとミネラル分が普通の塩よりも多い事は確からしい。
ただ、普通の塩と違うピンクの色素は鉄分が原因らしい。ようするに“赤サビ”みたいな物だろうか? まぁ、皆が口にした物なので黙っておく事にする。
ゼス先生も皆に岩塩が好評で気を良くしたのか、授業中の営業用スマイルとはまた違う笑顔を見せているし。
「ゼッちゃんさ、明智んが言ってた友好の表現ってマジ?」
「ええ、そうよ? 授業中にも言ったけど、私の故郷は塩が不足していてね」
「へ~! それじゃ、それを受け入れたから、アタシらとゼッちゃんはもうダチって事でいいの?」
「ええ、もちろん! 本来なら、逆に貴方たちから私にも塩を分けてもらわなきゃいけないのだけれど、去年、地球人から考えられないほど安価で塩を譲ってもらいましたから、そういう意味では全フィジョーバ人は全地球人に借りがある状態ですからね」
なるほど、だからゼス先生は惑星破壊爆弾なんて物が地球を狙ってるって聞いても地球を逃げなかったのか。
「……でも、そんなノリでいいのなら、職員室で塩を配ればいいのに……」
「え?」
「そうすりゃランチメイト症候群とは無縁でしょ?」
「ハッ!」
半分は皮肉を交えた僕の一言に、ゼス先生は「その手があったか!」みたいな顔をしてしまった。
そもそもランチメイト症候群になるような繊細な人は、ゴリラを20人ほど引き連れて「病院送りにしてやる」なんて言わないと思うのだけれど。
ともかく、今日は僕たちの所でご飯を食べるつもりに変わりは無いらしく、僕たちや他のクラスメイトの質問に嫌な顔をせずに答え続けていくのは素直に凄いと思う。
曰く、派手な格好について、フィジョーバ星系においては自分の髪色に合わせた同色の服装は無難なものであるという事。
それについて僕が去年、着ていた真っ赤なロングコートもそうなのかと尋ねると、それはまた別で、なんでも宇宙のセレブ中のセレブ、銀河帝国の皇女様のお気に入りのコートが何度か宇宙週刊誌に載り、それが流行っていたという事だった。
ようするにこないだ地球に逃げ込んできた皇女様は宇宙のファッションリーダー的な存在でもあるらしい。
さらに先週の1件でフィジョーバ人であるゼス先生が地球側に協力した事で、面子が大事な銀河帝国とやらに恩が売れると言っていた。
僕は宇宙の勢力事情なんて知らないけれど、面子とかはともかく、国同士、仲良くなるのは良い事なんじゃないかな?
そしてゼス先生が出たという銀河帝国大学についても話は及び、ゼス先生が行っていた、いわゆる4桁台の銀帝大は長い内戦期に作られた物が多いらしく、そのせいで軍事に応用できる技術学科が強いそうな。
その他、3桁ナンバーの銀帝大は芸大が多かったり、一般大学でも大規模な図書館とか文化系の名門クラブが多く、「花の3桁」と呼ばれているとか。
1桁台は「王族」とか「貴族」としての職業訓練校みたいな性質が強いそうでゼス先生も良く知らないらしい。
そして2桁台の銀帝大は宇宙中のエリートが集まってくるそうで、ゼス先生が明智君なら入れるというと話を聞いていたクラスの皆から歓声が上がる。
確かに話を聞くだけでも凄いと思う。4桁ナンバーに通っていたゼス先生ですら僕たち大アルカナの変身システムを見ただけで突き止め、その対策を作り上げたというのに。
その歓声が静まった頃、ゼス先生が銀河帝国大学の大量設立を決めたかつての銀河帝国皇帝の言葉を皆に教えてくれた。
「『宇宙では友がいなければ生きてはいけない。友がいなければ宇宙に行く意味が無い』ってね! そういう訳で皆も友達は大事にね!」
「は~い!」
皆も素直に返事しているし、言ってる事は至極まともなのに、何でそれをクラス全員が揃ってる授業中に言わないのだろう?
こんな休み時間に言ったら、他の地球人の教師が言えない、自分だけの引き出しを浪費するだけじゃない?
ゼス先生、まだ教師としてのレベルが低いな……。
宇宙週刊誌とか宇宙ラグビーとか何でもかんでも宇宙って付ければいいと思うな! って兄貴たちもおるかも知れんけど、アシモフ兄貴かて“原子力包丁”とか“携帯原子炉”とか吹いてんのやからワイかて許されるハズや!\(^o^)/




