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引退変身ヒーロー、学校へ行く!  作者: 雑種犬
第4話 目立つ悪魔と見えない宇宙人
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4-3

「ああ、来たかね。すまんな、いきなり来てもらって……」

「いえ、構いませんよ。室長」


 世界屈指の特怪事件多発地域であるH市の災害対策室は、他の都内の区や市町村に比べて破格の施設を持つ。横並び行政のしがらみのため、名称こそ防災対策「室」だが実際は地上3階、地下2階の大きな独立した庁舎を持つ。

 その3階にある室長室へ明智元親はきていた。プライズム星人の事件に関する報告のためだ。


「さて、何から話しましょうか?」


 室長室のソファーに腰掛けると室長の秘書がコーヒーを持ってくる。明智も慣れたもので、秘書が室外へ出ていくまでコーヒーにミルクを入れかき混ぜて本題には入らない。


 室長は市長の政策として招聘されてきた警視庁出身の特怪事件のエキスパートだ。話の通じる部類だと明智は思っている。官僚的な保身主義や事無かれ主義の連中とは違う。話が早いのもいい。それでいて温情的な人柄だ。

 室長は自分のデスクからマグカップを持って明智の向かいのソファーに腰掛ける。薄くなった銀髪をオールバックに固めた頭を撫で付け、秘書の出ていったのを確認すると話を始める。


「『透明人間』の破壊工作という通報だったらしいが……」

「プライズム星人だそうです。全部で12体でした」

「ふむ、『透明宇宙人』『傭兵宇宙人』か」

「ええ、透明というのはともかく、傭兵が商店街をただ荒らすというのが解せません」


 傭兵が動くというのは雇用主がいるはずで、商店街を荒らすからには理由があるはずなのだ。


「で、誰が星人を倒したのだね。こちらにはまだ報告が上がってきていないんだ」

「デスサイズとアーシラトです。デスサイズが11、アーシラトが1体を撃破しました。プライズム星人だと俺に教えたのもデスサイズです。何しろ俺には見えませんからね」

「は?デスサイズ?」


 細い目が大きく見開かれる。驚愕、畏怖、そして恐怖の色が室長の顔に浮かぶ。室長の肌は季節を感じさせないほどに小麦色に焼けているが、そうでなかったら真っ青になっていただろう。


 石動誠は自分の知名度が低いことを気にしていたが、室長の反応こそが誠と実際にあったことの無い業界人としての当たり前の反応であった。もっとも、誠は知名度が低いことの他に、自分のイメージが悪いことも気にしていたのだが。


「なんでデスサイズがH市にいるんだ?」

「引退して、この春、進学を機に引っ越してきたんですよ。知りませんでしたか?」

「いや……初耳だよ」

「それでは彼の欠席を公欠にしたのは対策室は関係ないのですか?」

「いや、まったく分からん。何があったんだね?」

「ええ、彼は入学式から3日間、欠席していたのが後になってから公欠になったと担任から連絡がありましてね。俺も『残業を終わらせてきた』とか『機動装甲忍者(アーマードニンジャ)と一緒だった』くらいしか聞いてませんので」

「ああ、それで我々が教育委員会なりに話を通して公欠にしたと思ってたのだね」

「そうです」

「スマンが、我々じゃない。調べてみようか?」

「そうですね。藪蛇にならない程度でお願いします」

「そうだな。ウチの誰か、市役所出の者に教育委員会に知り合いがいないか聞いてみよう」


「話は戻るが、星人について他に何か気付いた点はあるかね?」

「いえ、日本語を話していましたが、あまり高性能な物ではないので標準的な傭兵の装備でしょう。武器もプライズム傭兵標準のプラズマガンでした」

「ダンガレン星人指揮下の時みたいな特殊装備は無かったということだね」


 プライズム星人の光学迷彩も素早い動きも彼らの種族的な特徴によるもので、今回の事件の裏を探るものには成りえない。


「君はどう思う?ただ商店街を荒らすだけなら害獣と変わらん。そんな事に報酬を払う雇い主なんかいないだろう。何か目的があるはずなんだ」

「一つ、穴のある推理ですが」

「なんだね」

「デスサイズ、もしくはアーシラトの能力を観察するため。それか反応を見るためというのはどうです?」

「うん。納得できる推理だ。で、穴というのは?」

「能力を観察するためなら近くの商店街を襲うのではなく、直接、彼らを襲えばいい。反応を見るためというのも、商店街を助けに行くかどうか見てどうするんですかね? そんな事で報酬を払って傭兵を使うんですかね?」

「ハハ!そら、そうだ」


「ところで……だ。デスサイズは我々に引き込むことはできそうかね?」

「それはやめて欲しいですね」

「それほどのリスクが?」

「いえ、これは彼の友人としての願いです。彼はもう十分に戦ったでしょう?」

「それもそうだな。いや、悪い。聞かなかったことにしてくれ! それにしても、子供を戦わせようとするなんてな。」


 室長は自分を恥じてかマグカップの残りを一気に飲み干した。



「あいよ。今日は助けられたからアタイの奢りだ。どれにする?」


 明智君が災害対策室へ向かってから、僕たちは先ほどの公園に戻る途中で酒屋さんの店先にある自動販売機でアーシラトさんに飲み物を買ってもらった。僕はヨーグルトドリンク、真愛さんはグレープフルーツジュース。アーシラトさん自身は500mlの缶ビールにするようだ。


「それじゃ頂きます!」

「おっ!乾杯でもするか!」

「も~、お酒飲んでるのアーシラトさんだけですよ~」


 真愛さんは窘めるようなことを言うが缶をアーシラトさんに寄せる。それじゃ、僕も……


「「「かんぱ~い」」」


 火照った体に冷たい飲み物が染み渡る。美味しく感じる理由はそれだけじゃない。今回の事件では軽傷者が数人出ただけだったのだ。

 それもアーシラトさんが一番、危険な位置にいた子供を急いで保護して、明智君と真愛さんが他の人の避難を誘導してくれたお陰だ。だから僕も急いで敵を処理することができた。結果的には、それが事態を速やかに終わらせることができた。もっとも、最初はアーシラトさんがいきなりプラズマ弾の中に飛び出して行ったときにはビックリしたけど。しかも敵が見えていなかっただなんて……


 三人でベンチに腰掛け夕焼けを眺める。商店街の慌ただしい様子も大分落ち着いてきたようだ。


「なあ、少年」

「はい?」


 夕日に目を向けたままアーシラトさんが話しかけてくる。ベンチの真ん中にアーシラトさん、両脇に僕と真愛さん。


「少年は強いな」

「いえ、、、それほどでも……」


 謙遜ではない。僕より強い人はいくらでもいる。去年、1年足らずの間にそれを何度も思い知らされた。


「ハハハ!少年はもっと強くなりたいか?」

「いえ、そうは思いません」

「へぇ?じゃあ少年はどうなりたい?どういう自分になりたい?」


 深いことを聞かれているのかどうか。真意を探ってアーシラトさんを見てみるけど、片肘をベンチについて、もう片手にはビールの缶。目は僕を見ていない。思った通りに答えるとしよう。


「普通になりたいです」

「おいおい、普通って……」

「もうアホみたいな連中のアホみたいな話に悩まされたくない! そういうのって駄目ですか? アホの奴らのナントカっていう兵器が地球を破壊するだの、人間を皆殺しにするだの、そんな話に悩むくらいなら、学校のこと、友達のこと、今日の晩御飯のことで悩んでいたい。そういう普通の高校生になりたいんです!そして普通の大学生になって、普通の大人になって……」


 駄目だった! 話している内に感情が溢れてきて、言葉が続けられない。涙がこみ上げられてくる。


「大丈夫!なれるよ。誠君なら」


 真愛さんが微笑みかけてきてくれる。気持ちが凪いでくる。大丈夫って、ほぼほぼ機械の僕に言ってくれる人がいるんだなって。兄ちゃんとも違う感じだな。兄ちゃんは目隠しで綱渡りしながらでも大丈夫とか言ってそうだもんな……


「だからね。アーシラトさん……僕は……僕は……」

「ん、ゆっくりでいいよ」

「そんなわけで身近にいた、しょうもないアホの集団、皆殺しにしてやりましたよ!」

「ブフォッ!!」


 アーシラトさんが盛大にビールでむせ返る。真愛さんは何だか引いている気がするけど、ウインクを送っておこう!




 暗い部屋の中に5人の人影がいる。いや、人影と言っていいのかは正確ではないのかもしれない。それは地球人の感覚からすれば異形であったのだ。

 部屋の天井や壁に照明の類は無く、ただ中央のテーブルの板面のみが白く光っていた。椅子に座りテーブルのディスプレイを観ている5人。


「ご確認頂けましたか?あれがアスタロト、今は神性をいくらか取り戻してアーシラトを名乗っている悪魔です」


 そう妙に声を張り上げて説明しているのがロキ、地球で「笑う魔王」と呼ばれているトリックスターだ。彼がいるのは宇宙人の前進基地、もちろんロキ以外の4人も宇宙人である。

 彼らは商店街での一戦をドローンで観戦していた。


「大したもんじゃないか!素晴らしい!!」


 そう感嘆の声を上げるのはラライメタ星人クーラン。全身が鈍色に光る金属で出来ている。


「ところで一緒に戦っていたニョロニョロ動く頭に角生えたのは何だ?」

「いえ、、、そっちのニョロがアーシラトでございます」


 クーランの勘違いをロキが訂正する。


「おま、雑兵を一匹殴り殺しただけの蛇をワイらに見せてどないせーと?」


 翻訳機の調子が悪く一地方言語の使用しかできないのがベン=バウ星人ゲルティー。


「魔力とかいう非科学的なインチキパワーを持っているのに、戦闘力は心もとないのですね?」


 華奢な少女のような外見をしながらも体色が青紫なのがピンハー星人ロール。アックスボンバーの威力を低く見るのは若さゆえか?


「これを見るために傭兵の1個分隊を使ったのですか?」


 あからさまなしかめっ面を浮かべるマスティアン星人クゥエル。口も目も開けることはない女性だが、額と両の手の甲のクリスタル体がそのいずれの機能も果たしている。両手のクリスタルがレンズの役割を、額のクリスタルがテレパシー発信体となっているのだ。彼女はこの宇宙人集団の事務全般をこなしており、もちろん会計もその中に含まれる。


 彼ら4人の宇宙人が「漆黒銀河連合」派兵部隊の幹部であり、通称「四天王」である。


「では、次はどうする?」

「ほな、ワイが」


 議長役のクーロンの問いにゲルティーが立ち上がる。


 漆黒銀河連合、彼らの目的とは!?

 異星人に接触したロキの目的とは!?


4話終了です。

気が付くとオッサンが増えてしまいます

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