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引退変身ヒーロー、学校へ行く!  作者: 雑種犬
ハロウィン特別編 MONSTERS in KUMAMOTO!
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ハロウィン特別編-10

「……そんなヤバい敵が相手だったらとっとと倒さなきゃいけないし、ヴィっさんは4人を安全な所まで送ってよ!」

「……?」

「そんな不思議そうな顔をしなくても分かるでしょ? 後は僕が1人でなんとかするよ!」


 大きな溜め息を付きながら石動誠が松田晶に今後について話をしている。


 石動誠は松田晶について、昨日の朝からキャンピングカーを運転し続けて、血を抜かれた死体が生き返ったというニュースを聞いてからは阿蘇市にて情報を集め、教会とホームセンターに寄って武器を用意し、それから徹夜で吸血鬼たちと戦っていたのだ。

 オマケに夜明け直前に戦っていた特級吸血鬼にコウモリを機関銃のように撃ち込まれ、コンテナに叩きつけられていた。

 いかにタフな松田といえど休息が必要なハズだった。松田晶はなんだかんだ言ってただの人間なのだ。そして大事な友人だった。


 だが松田は大きく首を横に振って石動の提案を拒否し、スケッチブックに書き殴ったものを見せる。


「え? 『1人じゃなくて3人だ』って、大神さんはあまり戦えないでしょ? 僕たちで口裏合わせておけば、大神さんも逃げてもいいじゃない?」

《3人目はMO-KOS》

「も、モッコスって誰? 知り合い?」

「あの、それなんですけど……」


 2人の話に割って入った大神瑠香が説明する。

 熊本が誇るスーパーヒーロー、MOーKOSの事。そして、そのMO-KOSが吸血鬼たちに体を作り変えられてマーダーヴィジランテと戦った事。そして黒岩姉弟たちの言葉で苦しみだし、特級吸血鬼が黒岩姉弟に向けて放ったコウモリ弾をMO-KOSが身を挺してかばった事。


「……話は分かったけどさ、ヴィっさんには大神さんたちを安全な所まで送って欲しいんだけどなぁ……」

「私たちも付いていきます!」

「え?」

「MO-KOSを助けたいんです!」


 清美が2人の弟を見ると、2人も黙って頷いて見せた。


「MO-KOSは苦しんでた! 僕たちを助けてくれたMO-KOSを僕たちは助けたい!」

「それに幾ら石動さんが強いって言っても、敵の数が多すぎるよ!」


 3人の決意は固いようだったが、これには石動誠だけではなく大神瑠香も難色を示す。

 だが松田はいつものニヤけ面で3人の同行に賛成しているようだった。


「そんな松田さん。そんな無責任な……」

「そうだよ! 折角、生き延びたのにそんな危険な目に合わせなくても……」

《私がいれば危険じゃない》


 さらに松田はすぐにスケッチブックのページをめくって新たな文章を書いて石動に見せる。


《お兄さんみたいなヒーローになりたかったら、奇跡の1つや2つくらい起こしてみせろ》


 これはARCANAの支配下に在った石動誠と殴り合って洗脳から抜け出させた石動仁の事だ。


「う~ん……。それを言われるとなぁ……。じゃあ大神さんは? 大神さん1人だけなら僕がおんぶして飛んで阿蘇市か熊本市まで連れていこうか?」

「いえ、子供たちを危険な目に遭わせて、私だけ逃げるというわけにも……」


 結局、この場の全員で乗り込んでいく事になる。


「そういえばさ」

「はい?」

「連中のアジトって分かってる? なんか逃げてく時、あっちに飛んでったけど? 大神さん、調査しにきたんでしょ?」


 石動誠が見ていたのは吸血鬼たちが朝日が昇る前に逃げていた方向。

 村の東側になるが、深い山に覆われていて大量の吸血鬼が潜んでいそうな場所があるとは思えなかった。


「そうですねぇ。あれほどの数の吸血鬼が1日や2日で集結できるとは思えません。恐らくは長い期間をかけて戦力を集結してたのでしょう……」


 瑠香を捕えていた吸血鬼はこの村には千体以上の吸血鬼がいると言っていた。それに肉体を変化させる事ができる上級吸血鬼の数が異常に多い。中には明らかに外国人の特徴を持った吸血鬼すらいたのだ。知能も無くゾンビのように獲物を求める下級吸血鬼は、昨晩の騒動で吸血鬼された村の住人くらいしかいなかったのではないだろうか。

 そうなると大勢の吸血鬼たちの餌となる人間も大量に必要となっているハズで、誰にも気付かれずに大量の吸血鬼が潜伏できるようなアジトが必要となる。


 ヴァンパイアハンターである瑠香は専門家として吸血鬼が急ごしらえの集団だとは思えなかった。


「あ、それなんですけど……」


 おずおずと控えめに話を切り出す清美。


「ん? なあに?」

「えと、何カ月か前くらいからですけど、深夜に大型トラックが毎日のように村に入ってくるようになっていたんですよ」

《バイパス道路を使わずに村の中を通ってって事?》

「あっ、ハイ。そのとおりです」


 石動は自動車を運転する事がないので気付かなかったが、松田は運転経験が長いので清美が言わんとしている事を察した。


 村の中を走る県道が行きつく先は山の中。小回りの利かない大型トラックは避けたい道路だ。村に用があるならともかく、村で噂話になっているという事は村の企業に用があるというわけでもないのだろう。

 しかも大分から熊本を通って長崎へ至る国道がすぐ近くを通っているのだ。普通ならばそちらを使うハズだ。

 つまり深夜に村の中に入ってくる大型トラックには何か理由があるハズだった。


「そのトラックの行き先は?」

「そこまでは……。ただ、東の赤口山の方へ向かっているそうです」

「その山には何かアジトになりそうな施設とかは? 廃墟とかでもいいんだけど」

「う~ん……。大昔のお城があるそうですけど、そんなに大きなお城じゃないですよ?」

「そうなの?」

「ええ、私たちもあんまり行った事はないんですけど……」

「え? なんで? お城とかあったら、小学校くらいの時に『郷土の歴史』的なヤツで見学しに行ったりしない?」

「いやぁ、なんか地下道とかあって、崩落の危険があって危険らしいですよ?」

「……ち……か……どう……」

「はい」

「…………」

「……?」

「「それだぁ~!」」

「ひぃっ!!」


 石動と大神の2人が声を揃えるように大声を上げて清美は飛び上がってしまった。




 敵のアジトは分かり、すぐにでも乗り込んでいこうかと逸る石動誠であったが、意外にも松田晶が休息と取ってからだとスケッチブックに書いたので、石動も気を取り直し遠くに見える民家で休む事にした。


 ビームマグナムを手元に転送した石動がろくに戦えない4人のために先行して安全を確保しつつ、松田が4人に付いて護衛していく事になる。


「…………あの……」


 まだ幼い弟の清彦の手を引きながら前を歩く松田に声をかける。

 徐々に気温が上がり始めてはいるが少し肌寒い。

 だが地獄の夜を生き延びた姉弟にとっては明るい陽射しの元は気持ちが良く、自分たちの英雄を救うという決意を胸に抱いた3人には冷たい空気も心が引き締まる思いがした。


 清美の声に松田は答えない。

 その背中は少し前まで殺戮の限りを尽くしていた者とは思えないのんびりとした物だった。


「……さっきは邪魔してゴメンナサイ! MO-KOSを助けなきゃって思って……。でも、そのせいで松田さんが敵の攻撃を受ける事になっちゃって……、本当にゴメンなさい!」


 見えていないとは分かっていながら清美は松田に声を掛ける。


「……ねぇ?」


 松田が振り返る事もなく声を出す。

 石動誠がいた時には出さなかった声だ。


「貴女たちに取っては、まだMO-KOSはヒーロー?」

「はい!」

「あれだけ化け物みたいな見た目になっても? もう、手遅れかもしれなくても?」

「もちろんです」

「当たり前ですよ!」

「どんな姿だった構うもんか! MO-KOSは凄いヒーローなんだ!」


 清美の言葉に続いて清彦と清志も松田に向かって大きな声を出した。


「どんな姿になってもか……」

「はい! 彼はいつもそう私たちに教えてくれました」

「見てくれなんて関係ないですよ! MO-KOSは言ってましたよ。『阿蘇山みたいになれ』って、『富士山みたいに綺麗じゃなくても、富士山よりも阿蘇山は熱い山だ』って」

「むしろ松田さんだってMO-KOSと戦って分かっただろ? MO-KOSが目を覚ましたら吸血鬼なんて尻尾を巻いて逃げ出してくよ!」

「……そう」


 松田の足が止まり、3人を振り向く。

 最後尾で警戒していた瑠香も彼らの話は聞いていた。


「それなら“あの子”はどうかしら? あの子も悪党どもに体を作り変えられちゃったのだけれど?」

「あの子って石動さんの事ですか? 石動さんだって立派なヒーローじゃないですか?」

「松田さんと合流するまで僕たちの周りを飛び回ってずっと守ってくれてたんだよ!」

「さっきだって何度も僕たちの事を心配してくれてたじゃん!」


 松田の顔が優しい物になる。いつもの人をからかうような物ではなく、3人を慈しむような目だった。


「この星に人間が70憶以上。殺さなきゃいけない外道も掃いて捨てるほどいるけれど、少なくとも3人は優しい子がいて良かったわ……」


 それからいつものチェシャ猫のような笑顔になって、からかうように3人に告げた。


「とっととMO-KOSの目を覚ましてやる事ね。私は人を守る事に慣れてないし、あの子はド素人。そこの人は何しに来たか分かんないし」

「はい!」

「任せてくださいよ!」

「MO-KOSの分の見せ場も残しといてくれよな!」

(……あれ? もしかして私、ディスられてる?)


 瑠香の事を置いて松田と黒岩姉弟は互いに笑顔を見せあっていた。

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