26-13 7月その4
「……! …………! ……っ!」
雨のスクラップヤードに声にならない悲鳴が上がる。
銃撃を受け付けないハドー怪人に追われているというヤクザガールズの救援のため、2人を探してスクラップヤードを走り回っていた犬養たちが見つけたのは2人の魔法少女と1人の怪人。そして既に動作を停止して雨に打たれるままになっているハドーロボットの小隊だった。
2人の魔法少女と言っても、犬養たちが探していた2人ではない。
怪人はうつ伏せの状態で地に伏せて泥に塗れている。
そして1人の魔法少女が添い寝するように怪人に抱き付いていた。
ただ抱き付いているわけではない。
右手で怪人の口元を押さえつけ、左手の短刀を怪人の背中へ幾度も突き立てている。丁度、人間でいうなら肝臓の位置を執拗に。
何度も。
何度も。
「……え~と、これは?」
犬養がもう1人の魔法少女に声を掛ける。
両手にそれぞれ箒を持って、地面に倒れている怪人と執拗に肝臓をえぐり続ける魔法少女を手持無沙汰といった具合に眺めている魔法少女が犬養たちに気付いて彼女たちの方を向いた。
「あっ、お疲れ様です」
空色の衣装の魔法少女、2年生の栗田が犬養たちに腰から曲げて頭を下げる。彼女にとってはすでにここは戦闘地域ではないようだ。
対称的に1人、戦闘(?)を続けているのは黒の衣装の魔法少女。1年生の山本だ。
「栗田ちゃんもお疲れぇ!」
「組長は?」
「組長は例の解体工場の近く。デスサイズが護衛してくれるってんだけど、どういうこったい?」
「はあ……、入間に明智元親が連れてきて。手を貸してくれるらしいんですが……」
「明智が? で、その明智は?」
「入間からここまでデスサイズに抱きかかえられて連れてこられたんで、外で産まれたての子馬みたいに足震わせてますよ?」
「はあ?」
常に冷静沈着、しかし胸の奥の闘志を隠しはしない明智元親が? チームの作戦参謀で鬼道正道自由自在のあの男が?
犬養にも、鮫島と片岡の両名にも想像つかない事だった。
日本中どころか世界中の組織から戦闘部隊が送り込まれている埼玉県は、もはやヒーローチームといえども対処能力の限界だった。
犬養、明智、そしてZIZOUちゃんの3人の司令塔には何やら隠し玉があるようだと鮫島や栗田は薄々ながら気付いていたが、隠し玉は隠しているから隠し玉なのだ。表に出してしまえばそれまでだ。
そしてヒーローチーム「グングニール隊」の中で問題とされていたのが、謎の組織ARCANAが埼玉に魔手を伸ばしてくる事だった。ただでさえ強力なARCANAに対処能力がパンク寸前のグングニール隊で太刀打ちできるだろうか?
その問題の解決のために明智元親は昨日の夕方に3Vチームを護衛として引き連れて入間基地を後にしていた。
その明智元親のARCANA対処の鬼手がデスサイズを埼玉に連れてくるという事なのだろうか。
確かにデスサイズもARCANAで改造された大アルカナだ。ARCANAと戦う能力を持つ稀有な存在と言ってもいい。そしてARCANAに強い恨みを抱いている。
だが先ほど、あの死神を見た時の怖気を思い出した鮫島は話を変える事にした。
「……ところで」
「はい?」
「山ちゃん、なんか激おこじゃない?」
「ああ」
もう大分、前に絶命していたであろう怪人から離れて起き上がった山本の顔は返り血で真っ赤に染まっていた。衣装が黒なために顔と手の返り血が良く目立つ。
「なんか入間で先輩たちの救援要請を受けた時に譲司さんも暇そうにしてたんで、山本さんの箒で二人乗りで来てもらったんですよ……」
「げっ! あのオッサンも来てんのかよ!」
ジョージ・ザ・キッド。
その名はグングニール隊の中で2大セクハラ大王の1頭として広く知られていた。
「で、山本さん。譲司さんに抱き付かれておこみたいですね。まぁ、身内の救援に手を貸してもらうんですし、箒が不安定なのは本当なので本人には言えないみたいですけど……」
「それで怪人に憂さ晴らしを?」
「ええ……」
だが山本は1年生。しかも未だ特化能力を見つけていないのだ。
ヤクザガールズの間では特化能力を見つけていない魔法少女は「準構成員」として見習い扱いなのだ。そのジュンコーが強力無比で知られるハドー怪人を1人で殺害してのけるとは。
鮫島も片岡も山本のイメージを一変させていた。
「ところで鈴木と竹下、知らない?」
「ああ、それならアレじゃないですか?」
探していた2名の事を栗田に訊ねてみると、彼女は通路の脇の積み上げられた廃車の一画を指差した。
そこには白いテントのような物があった。
だがて、それはテントではない。
逆さになった巨大な「盃」だった。
「…………ああ、アレ……」
どっと脱力した鮫島が疲労で重くなった足を引き摺りながら盃の元まで行き、盃をノックするように叩いていく。8回叩いて小休止、それから9回、そして3回。それから、もう1度、8回、9回、3回。
鮫島の合図に気付いたのか逆さになった盃が急に縮小していき、中にいた2人の魔法少女の姿が露わになる。
「おっ! サっちゃん! それに皆!」
「メンゴ、メンゴ! 助かったわ!」
地面の上に直に体育座りしていた2人は軽い調子で駆けつけた面々に礼を言っていく。
縮尺自在の盃に「堅牢」の魔法をかけて用いるサカズキシールドは鈴木の特化能力。
マカロン半自動拳銃の銃弾が効かない怪人に追い回された2人は巨大化させた盃の中に隠れて救援を待っていたのだ。
「……まぁ、何事も無くて何よりね!」
先程、解体工場の付近でデスサイズが天に向けてビームマグナムを発射したせいか、ハドーの軍勢はデスサイズと米内の元に向かったようで、犬養たちは小沢、譲司とも合流して残敵を掃討しながら解体工場に戻っていく。
すでにデスサイズと米内も戦闘を終了していたようでドラム缶の上に座って犬養たちを待っていた。
「おっ! そっちも終わったかい?」
「はい!」
「ん? 増援はジョージに栗田に山本、それに死神のお兄さんの4人だけだったのかい? それで良くあの海賊の連中を仕留められたもんだ!」
米内にもはや負傷の影響は見られない。
低レベルの物ながら治癒魔法を掛け続けていたのだろう。
「……それじゃ、僕は帰るから……」
米内が他のメンバーと合流したのを見届けて、デスサイズが飛び立つ。
「あ、ちょっと待って! 石動君」
そのデスサイズに犬養が声を掛ける。
「……どうしたの?」
「えと、貴方、私に2月に『借りは返す』って言ったわよね?」
「今のじゃ、足りなかったかい?」
「いや、そうじゃなくて、貴方がARCANAの元にいた時に何もしていない?」
「何もしてないよ? 次に会った時に見逃してあげようかって思ってたくらいだし……」
「そ、そうなんだ……」
ARCANAの手先であったデスサイズの「借りは返す」という言葉の真意を計り損ねて、防衛省では犬養の実家の家族も監視対象にしていたのだ。
「……まぁ、会う機会が無かったら、お中元にハムでも送ろうかと思ったくらいかな?」
「ハム?」
「うん。ARCANAがお歳暮に貰ったハムを僕も食べたけど結構、美味しかったし」
「……あ、ARCANAにお歳暮送るとこなんてあるんだ……」
「まぁ、横のつながり? みたいな?」
「…………へぇ……」
「後はいい? 僕は先に戻ってるから……」
そのまま答えも聞かずに飛び立ったデスサイズだったが、100メートルほどで降下し、そしてまた飛び立っていった。
その腕には1人の人間が抱かれている。
死神に抱かれた男は不本意であるのか足をブンブン振り回していた。
「ちょっ! 石動さん! 俺は皆と一緒に帰りますから!」
「うるさい。入間に知り合いいないんだから、僕が肩身狭い事になるだろ……」
「俺だって今朝、会ったばかりじゃないですか~!」
グングニール隊2大セクハラ大王のもう1人は、
初代インカ皇帝の転生者で、若い女性に自分の名前を言わせるのが好きな女性を設定してたんですが、
なんか、どっかで見た事あるようなネタなんで使うの止めました。
ただ、どこで見たのかが思い出せない。
心当たりある人がいたら教えてくれたらありがたいです。
昆虫系ヒーローユニットのインセクタスみたいに、
微妙な偉人の転生者たちのユニットを考えていたのですが、
そんな感じで立ち消えになりました。
例として
初代インカ皇帝→どっかで見た気がする
氷山空母のマッドサイエンティスト→なろうの規約に触れる気がする
ジャンヌダルクの手下のショタコン→知らん内に有名になってた!
女好き伝説のある大名→子孫がウチの県の知事やんけ!
こんな感じです……。




