3-5
戦いは激化していく。
カメレオンウロボロスに撃ち勝ったデスサイズが悲痛な叫びを上げる。
ブレイブハウンドこと犬養女史の駆るブレイブロボが巨大なガーディアンゴーレムとの一騎討ちを繰り広げる。
ヤクザガールズのサカヅキシールドが逃げ遅れた人たちを守る。
空を浮かぶ天使の軍団に飛び込んだ3VチームのV字編隊がレーザーを乱射する。
ビルとビルの合間から降るのは機動装甲忍者のマキビシ・マインか?
市庁舎ではウリエル・ダークサイドとウリエル・ライトサイドが己の存在を賭けて争う。
商店を漁ろうとする火事場泥棒をZIZOUちゃんが正座させて説教する。
その他にも数多のヒーローと怪人が熾烈な死闘を繰り広げる。
そして上空から全てを俯瞰し嘲笑うロキがカメラに捉えられる。
その光景はさながら聖書に記される黙示録の日か、あるいはエッダに語られる神々の黄昏さながらだった。自分でもよく生きていたものだと思う。
「コラアァァァ!!なんばしよっとかぁぁぁ!!!!」
闇と光のウリエルの元に辿りついたZIZOUちゃんが二柱の天使をしかりつける。
「そこに二人とも正座しなさい!!」
彼我の膝と膝との距離、わずか15cm。ZIZOUちゃん必勝の距離だ。
ZIZOUちゃんの涙ながらの説教によりダークサイドの翼は白く染まる。
ZIZOUちゃんの説教の長さを知るライトサイドの翼は絶望により黒く染まる。
やがて二人のウリエルは重なりあい、同一の存在へと回帰していく。
「これも御仏の御心の為せる業です」
合掌。
市庁舎を守るガーディアンゴーレムと戦うブレイブロボだが、その動きは鈍い。元々、5人で操縦する巨大ロボットなのだ。補助アプリケーションを用いたとしても限界があるのは分かっていた。それでもブレイブハウンドは引く気は無かった。かつて散った三人の仲間のためにも、戦列を離れた二人のためにも自分は勇気を持って戦わなくてはならない。
ゴーレムの岩弾が胸部に被弾。装甲を破られたわけではないが、衝撃で幾つかの回路がダウンしてコックピット内に火花が散る。被害状況のサブディスプレーからメインディスプレーに目を戻すと眼前に迫るゴーレムの姿があった。
ゴーレムに殴られ吹き飛ぶブレイブロボ。先ほどとは比べ物にならない火花が弾け、そして爆発がコックピットを襲う。
追撃で止めを刺そうとするゴーレムの背後に数発のミサイルが直撃した。ミサイルの主は今は搭乗者のいないはずのドラゴンフライヤーとブレイブガンナーだ。
「悪い。ハウンド、待たせたな!」
「貴方はファルコン!」
「俺もいるぜ!」
「リザードも」
ブレイブファイブがトライブレイブスとして復活した瞬間だった。
「行くわよ二人とも!」
「「応!」」
以心伝心、それだけで2機の巨大ロボットは同じプログラムを起動させる。
空中へ飛ぶ2機の巨大ロボット。
ドラゴンフライヤーが幾つかのパーツに分離してブレイブロボに次々とドッキングしていく。自立行動サポートロボであるブレイブガンナーがゴーレムを牽制して射撃を加えている。
「「「完成!スーパーブレイブロボ!Go Brave!!」」」
かくして形勢は逆転した。
ウリエル・ダークサイドとガーディアンゴーレムを失ったことで戦況は一気にグングニール隊が優勢となる。面白くないのがロキだ。耳まで割けた口を憎悪に歪ませ、眉間に皺を寄せ全身を震わせる。
「≪邪神の眷属よ、その魂で主の渇きを癒せ。土くれの巨人よ、最後の務めを果たせ≫」
上空のロキを中心に赤紫の魔法陣が展開されていく。幾何学模様と遺失ルーン文字が赤夢市の空を埋め尽くす。ロキの口から流れるは古代魔法の多重詠唱だ。呪詛の多重詠唱は空間を歪め、この世すら捻じ曲げてしまう。
地上では市内の至る所から仄暗い光点が浮き上がってきてはガーディアンゴーレムの残骸へと集まっていく。光点の正体は、ロキの言葉を借りれば「邪神の眷属の魂」と言ったところか?それにつれて残骸を中心に十字架がゆっくりと現れる。最初は薄っすらと、そして徐々に禍々しい輝きは強さを増していく。十字架の大きさは市内を東西南北に数kmの大きさになるだろう。四大聖遺物から取り出された光だ。光の十字架の輝きはゴーレムの残骸を包み繭のようにある。
「≪幾星霜の眠りから目覚めよ。来訪者。邪なる神よ!≫」
ついにロキの詠唱が完了した。その瞬間、十字架と繭の光は臨界を超え霧散する。
油田火災を爆風で酸素を無くして鎮火するように、ロキは光を集めて光を消し飛ばしたのだ。光が消え去ったことで残るのは完全な闇。光の十字架と繭は、闇の十字架と繭へ反転する。
ヒーローたちも手をこまねいていたわけではない。スーパーブレイブロボが闇の繭に攻撃を開始する。が、ガーディアンゴーレムを葬った武装、スーパーブレイブバーストが通用しない。再チャージの時間を稼ぐため、ミサイルと大口径機関砲に切り替えるが効果は無い。
爆炎と硝煙に包まれているトライブレイブスたちは気付いていただろうか? 繭が十字架を吸収しているのを。十字架の闇を養分に繭が活動を開始する。
繭から飛び出した蛇のような触手が巨大ロボの脚部に巻き付き引き釣り倒す。それを皮切りに繭から次々と多種多様な触手が現れる。蛸のような、烏賊のような、イソギンチャクのような。それらが一斉に合体巨大ロボへ襲い掛かる。
触手に悪戦苦闘するスーパーブレイブロボとブレイブガンナーを尻目に、遂に十字架は繭に全て吸収されてしまう。変形を始める繭。悪夢のような産声を上げ、冒涜的な姿を哀れな人類の前に現す。呼吸のような律動のたびに眷属たちが生まれる。邪神ク・リトル・リトル。その姿を見た人は死を覚悟した。ごく一部の例外を除いて。
俺も死を覚悟した方の一人だ。あのグロテスクで禁忌に触れた姿形を目のあたりにして、まるで瞬きをするように自然に失禁していたのを覚えている。
邪神が最初の供物に選んだのは、先ほどから自らに纏わりつく蠅に等しい存在、スーパーブレイブロボだった。胸についた数対の甲殻類のような脚を交差させ、指向性小型ワームホールを発生させる。すんでのところでブレイブガンナーがスーパーブレイブロボを突き飛ばして身代わりとなるが、結果、人工知能の操る歴戦の戦士ブレイブガンナーは跡形も残さず消滅してしまう。
倒れたままの姿勢で再チャージの完了したスーパーブレイブバーストを発射するが、胸部の脚を吹き飛ばしただけに終わる。
スーパーブレイブバーストの余波でカメラが大きく揺れノイズと共に暗転。
再び点いた画面は粗い。恐らく小型のハンディカムに持ち替えたのだろう。どうでもいいが、このカメラマンは何者だ?恐ろしく生存能力が高い。
少し時間が経過しているのだろう。既にヒーロー達は傷つき、倒れ、命を落としている者もいる。
画面に映っているのは俺、瓦礫の上に膝から崩れ落ちている。そして誠だ。誠も大鎌とマントを失い満身創痍の状態だ。それでも行こうとする誠に、俺が声を掛ける。
「……もう止めろ……。いたずらに苦しむ時間が伸びるだけだ……」
「どうしたの?」
「どうしたもこうしたも無い!俺達は負けたんだ!!」
誠は俺を振り返る。骸骨を模した仮面が俺を見つめる。
「僕も君もまだ生きている。なら、やれることがあるだろう。さあ『黄金の頭脳』!作戦を立てて」
「もう無い。作戦も、希望も、未来も何も無い……」
「ふざけるなッッッ!!!!」
誠が声を荒げるなんて初めての事で、俺はビクついてしまったのを覚えている。
「マーダーヴィジランテは言っていた!俺達が立ち止まれば、それだけ誰かが涙を流すって!!」
「ジョージ・ザ・キッドなら、こんな時にも軽口の一つでも叩いているところだ!!」
「何より兄ちゃんなら、兄ちゃんなら絶対に諦めたりはしない!!」
「でも、もう皆いない!だから、僕が……僕たちが邪神共の死神にならなきゃいけないんだ!!」
そう叫んで俺の胸倉を掴んだ誠の声は涙声だった。手も震えていた。
「誠ォ!よく言ったァ!!」
頭上から響く声。俺は、俺達はこの声の主を知っている。ビルの残骸の上にその人物はいた。
「ま、まさか、何で…………」
言葉を失う誠。無理もない、死んだと思っていた人間がそこにいたのだから。
「変身ッ!」
『次回予告』
「ついに再開したデビルクローとデスサイズ。二人は仲間たちの協力を受け、ついに邪神を倒す。だが、それで戦いが終わった訳ではない。兄弟との決戦に動き出すARCANA。ARCANAの最終作戦とは何か!?次回、『獄炎兄弟デビルクロー&デスサイズ』に乞うご期待!!」
うわっ、ここで引くのか……次の巻を見ない人は俺の事を腰抜けだと思うんじゃないか?……まぁ、間違いじゃないけど。
うわ。もうこんな時間か。高校生にもなってヒーロー物のビデオを見て夜更かしとはな……。
翌日、俺は眠い目をこすりながら登校すると下足箱で誠と羽沢に会った。
「明智君!おはよ~」
「あっ、おはよう」
「ん……?ああ、お早う」
「なんか眠そうだね~」
「ああ、夜更かししてビデオ見てたんだ」
「へ~、どんなビデオ?」
羽沢が聞いてくる。
「ああ!クライマックスは誠が俺の胸倉つかむところなビデオだ」
「え? え?」
「あ、明智君、誤解を招くような表現はですね」
「フフ、そうだな。悪い悪い」
「いやあ、僕もあの時はイッパイイッパイだったから……ゴメンね!」
「へ~、私も見たいなそのビデオ!」
結局、教室につくまでに仁さんと誠のビデオ全3巻を羽沢に貸す約束をする。誠が「サインしようか?」と言ってくるが丁重に断る。昨日、自分の知名度の低さと一般受けの悪さを自覚したらしいが、俺にアピールされても困る。
教室につくと天童が朝から飛ばしていた。
「うひゃひゃ、デブゴン!なんだ、この腹の肉は!氷河期に備えてんのかよ~」
天童が三浦の腹肉を揉みしだいている。
「ドゥフフフ、止めるで御座る。お!お三方、お助けあれで御座る~」
「こらぁ、京子ちゃん、人の体の事をからかうのは駄目だよ~」
「はぁ~い!でもよお、デブゴン。お前もしかしてクラスで一番、重いんじゃねぇの?」
「天童氏は『はい』って言葉の意味を知ってるで御座るか?」
「フフ……」
「どうしたの?明智君?」
「いや、昨日見たビデオのせいか、天童を見るとZIZOUちゃんを思い出してな」
「あ~、天童さんだと2時間コースは固いね~」
「だな!」
俺も誠もZIZOUちゃんの正座しての説教を受けていた。おれは「協調性の無さ」で1時間、誠は譲司さんのとばっちりで(ビデオでは逃げ切れたようになっていたが、実際はファニングの練習の後で捕まっていた)ほぼ半日。
「「アハハ!」」
「……二人ともヒーローあるあるで笑ってないで助けて欲しいで御座る」
「で、なんでいきなり三浦君が太ってることをからかってるの?」
誠が不思議そうに尋ねる。
「んん?今日、身体測定じゃん!それで思いついてさぁ!」
「ああ」
「でも柔道部の剛力氏もいるで御座る?さすがに拙者がクラス1重いってことはないで御座る」
なるほど、剛力は三浦より少し背が高く、首回りから足まで筋肉量が凄い。何より筋肉は脂肪より比重が重いのだ。そこで天童がまた突拍子も無いことを言い出した。
「じゃあクラスで誰が一番、体重があるか賭けようぜ~!あっ!男子だけな!」
なるほど女子を巻き込まないだけのデリカシーは持ち合わせていたか、あくまで「だけ」だが。
「ヌフフ、じゃあ拙者は剛力氏で」
「アタシはデブゴンを信じるぜ~」
あのな、三浦、マッチョの剛力の体重がどうでも、お前が太っている事は変わらないんだぞ?
さらに思わぬ所から賭けの参加者が現れる。
「ねぇ天童さん、賭けってことはお金とかを?」
「ん~、現金はさすがに生々しいしさ~、購買のシュークリームくらいでどうだ?」
三浦が天童の視線に応える。
「フォフォ、拙者もそれでいいで御座る。」
「で、マコっちゃん、誰に賭けるの?」
「シュークリームくらいならいいか……じゃあ、3番の三浦君と剛力君以外で!」
なるほど、そう来たか。
「え~、大穴狙い?デブゴンとゴーリキー以外に候補者もいないし、それでいいよ!な!」
「ヌフフフ、石動氏、シュークリームごちで御座る!」
それじゃあ……
「待て、俺も一口乗らせろ。俺も『二人以外』だ」
「なんだ、明智んも参加すんだ。真愛ちゃんは~?」
「わ、私は賭け事はいいよぅ……」
「おっけー!!」
その日の昼休み。
弁当の後にシュークリームを楽しんでいるのは俺と誠だった。
結果は、三浦が108kg、剛力が112kg。そして誠が152kgだった。
「はむっ!いや~食後のデザートは美味しいですな~、明智君!」
「まったくだ」
対照的に落ち込む天童と三浦。
「……マジかよ~~」
「……石動氏が改造人間だってことを忘れていたで御座る」
「それにしてもマコっちゃん、152kgもあったのかよ~」
「身長も152cmだから記載ミスを疑われて2回も計り直しされちゃったよ」
やおら天童が誠の後ろに回り、いきなり抱き着いて両腕を誠の脇の下に回して持ち上げようとした。
「ふんッッッ!!!だ、駄目だ全然持ち上がらねぇ……」
いきなりの事でカスタードクリームを鼻の頭につける誠。天童は天童で、普段は目立たない胸を誠の頭部に乗せたせいで盛り上がって目立ってしまっている。
「いやあ、改造人間にされたせいでデザート奢ってもらったり、年下の女の子に抱きつかれたり……、よかったんだか悪かったんだか」
照れ笑いを浮かべる誠。
辛い事も沢山あって、もう会えない人もたくさんいるけど、その人たちも分まで笑えるようになるといいな!誠!
「……誠、ところで」
「何? 明智君?」
「改造人間って背は伸びるのか?」
「変身したら人工骨格が展開するよ?」
「……」
「……」
「へへ、これからずっと国民的未来からきた狸ロボットと同じ十字架を背負って生きていかなきゃいけないんだぁ……」
い、いつか手放しで笑えるようになるといいな!誠!
第3話は終わりです。
今回は明智君主役回でした。
ほぼDVD見てるだけの主役(笑)
あと突っ込まれる前に書いておきますが、
ブレイブファイブが3人殉職して残り3人というのは間違いではありません。
5人+追加戦士1人の6人だったのです。




