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こうしてグングニール隊に加入した誠だったが、俺は不発弾を抱えるに等しい不安を拭い去ることができなかった。あるいは真冬の寒い日に温かい物を飲みたいと思ったらドロドロのマグマを出されたような。
ビデオの場面は変わりインタビューを受けている俺、ZIZOUちゃん、犬養女史。場所はグングニール隊の前進基地として間借りしていた自衛隊施設の会議室。そこにパイプ椅子を並べ中央にZIZOUちゃん、左に犬養女史、右に俺だ。インタビュアーの姿は見えないが、確かこのドキュメントビデオの制作を担当した編集プロダクションの親会社であるテレビ局の女子アナだったハズだ。
「ええ、今もって敵の正体は不明のままです。精々、神秘学に深い造詣を持っていることと、情報の精度が高いということぐらいなものです」
「情報の精度が高いというのは?」
「例えばです。イエス・キリストを磔にしたという聖十字架。これの破片は世界中に散らばっていましたが、そのほとんどが偽物だと言われています。何せ全てが本物だとしたら、これに架けられたキリストの身長は40m前後になると言われています。そんなキリストを殺したロンギヌスの槍はキリストを殺す前から途轍もない力があったということになります(笑)」
「さすがにそれは考えられませんね(笑)」
「ええ、話は戻りますが敵はその中から本物と思われる物だけを奪っていったのです。我々の鑑定はほとんど放射性炭素測定法とDNA鑑定によるものなので確実ではありませんが……」
ん? んん?
自分がインタビューを受けているところなんて恥ずかしくて見たことなかったが、その後ろに誠が映っている。
誠はヤクザガールズの子らとお茶のペットボトルの入った段ボール箱を運んでいた。
この庁舎は古く普段は使われていない建物で、そこを急いで使えるようにしたために床一面にOA機器の電源コードやらLANケーブルやらで床が段差だらけだった。そのため、ヤクザガールズの子たちは台車に段ボール箱を2つずつ、誠は台車も使わずに段ボール箱を4つも持っていた。
誠は角の置き場所に段ボール箱を積むとすぐに画面から消えるがヤクザガールズの子らは笑顔で手を振っている。
その後すぐにジョージ・ザ・キッドこと譲司さんが外回りから帰隊すると、一人のヤクザガールがホワイトボードに向かい譲司さんの報告を書きこむ。誠が画面外から現れ譲司さんに冷えた麦茶を渡す。
また犬養女史の後ろのオフィス用プリンターのランプが赤く点滅すると誠が交換用のトナーを持って現れる。
あれ?誠、意外と働いてないか?この頃の誠は、本人いわく「荒んでいた」らしいが。思えばぶっきらぼうな割に周りとすぐに馴染んでいたような。むしろ俺の方が周りと衝突することが多かった?
場面は変わり譲司さんのインタビューだ。ここも見た事が無かったな。理由はどうせろくな事言わないだろうという思い込みだけだが。まあ誠のドキュメントに収録されるくらいだから誠にも関係あるんだろう。
「譲司さんと言えば日本が世界に誇るガンマンですが、グングニール隊のメンバーは如何ですか?」
「美人の姉ちゃんも多くて嬉しいねぇ!」
ほら、ろくな事を言わない!昔は美形でならしたジョージ・ザ・キッドも今では怠惰な生活を窺わせるたるんだ顎と不精髭で台無しだ。
「ま、冗談はさておきさ。若い連中も多いし、ロートルもまだまだやれるって事を見せてやりたいね!」
「では、メンバーの中で最も注目している人は?」
「ん~~,ZIZOUちゃんかな?スキンヘッドの魔法少女なんて初めてお目にかかるよ。ベッドの上で極楽に送ってやりたいねぇ!…………あ、あと、もう一人」
「もう一人?」
「ガンマンとして同じ拳銃使いには負けたくないね!」
「誰の事でしょうか?」
「ん?ん~と、あ、いいところにいやがった。お~い!死神の坊っちゃん!」
カメラがすぐそばにいた誠に動き、広角になり譲司さんと誠の二人を映す。
「何?」
「テレビが撮ってくれるってよ!トーチャンカーチャン喜ぶぞ!!」
「へぇ……、一部離島に届かないテレビの電波が天国には届くんだ」
「はは、届くと思って喜んどけ!」
ここでインタビュアーが割って入る。
「あのジョージさんが一目を置くほどの拳銃使いというのは貴方ですか?」
「拳銃使い? 違うよ?」
「え……」
「拳銃あるけど壊れてるし……」
「……」
「……」
「壊れてるったって、お前はナノマシンだか何だかですぐ直るんじゃねえのかよ?」
テレビ画面の前で俺も疑問に思ったことを譲司さんが訊ねる。
「最初から壊れている物は直らないよ」
「……どういう事だ?」
「使えない訳じゃないけど、いちいち撃つたびに撃鉄を上げなきゃいけないんだ」
フフ、突っ張ってても誠も勘違いすることがあるんだな。画面の中で譲司さんも俺と同じ事に気付いたようで、笑いながら説明している。
「おいおい、そりゃシングルアクションなんじゃねーのか?壊れてるんじゃなくて、そういうモンなんだよ?」
「そうなの?」
「頼むぜ~!さっきカメラの前で坊っちゃんには負けたくないって言っちまったんだからよ~」
「でも不便……」
「メリットだってあるんだぜぃ!まぁ、細々したことはどうでもいいか……」
やおら立ち上がり、腰のホルスターに掛けた次の瞬間。
ズゥギューーーン!!
一度の銃声で向かいのテーブルの上にあったお茶のペットボトルが2つ弾け飛ぶ。2つのペットボトルは2メートルは離れていたはずだ。
「コラアァァァ!!なんばしよっとねぇぇぇ!!!!」
ZIZOUちゃんが駆け込んでくる。
「ヤベっ!!ずらかるぞ!!」
「え?僕も?」
「当たり前だ!」
脱兎のごとく逃げ出す二人、追いかけていくカメラマン。画面は暗転。
庁舎の裏の日陰に逃げ込んできた二人。いつの間にか誠の手にも拳銃が握られている。譲司さんの予備だろう。
「いいか、大まかに説明すると銃爪を引いたままの状態で、逆の掌で撃鉄を連続して操作するんだ」
ゆっくりと言われた通りの操作をしてみる誠。譲司さんの説明は続く。
「動作は素早く、そして確実に。慌てて狙いをつけるのを忘れるな。反動は……って、坊っちゃんの銃ってビームガンだよな?反動ってあるのか?」
「少なくとも僕のはある。あと、多分、冷却器の右回りのトルクも……」
「そうか……俺ゃあビームガンとか撃ったことないから的外れなこと言うかもしれないが……」
「いい」
「ん。俺の場合は銃を抜いてから反動に負けないように二の腕を、もう肩から肘までビッチリ付けてんだ。で、それだと狙いが付けらんねぇだろ?左右は胴体を回して、上下は膝を曲げて調整してんだ」
「なるほど……」
銃を構えたまま腰を捻ったり、膝の曲げ伸ばしをしているところで場面転換。
次々と挿入されていく埼玉でのデスサイズの戦闘シーン。
恐れていたARCANAの参入も1度だけ斥候ロボットが送られてきただけで、それ以外は他の組織との戦闘だ。
意外にも誠はARCANA以外の敵との戦闘にも積極的に参加してくれていたのだ。俺や犬養女史の当初の予想では対ARCANA戦以外では精々、自分の身を守ることぐらいはするだろうといったほどで、これは嬉しい誤算だった。
やがて敵の正体が「笑う魔王」ロキと「大天使の暗黒面」ウリエル・ダークサイドであること。彼らの目的が地球文明の破壊のため、四大聖遺物とウリエル・ダークサイドの魂を使って邪神を復活させることにあることが判明する。
続々と現れるロキと邪神の眷属とウリエルに付き従う天使たち。赤夢市は地獄と化していた。
グングニール隊の指揮官であるZIZOUちゃんはこれを阻止するべく全戦力を投入することを決意する。
揺れる画面、肩にカメラを担いで走っているのだ。
辺り一面に広がる廃墟。
響く爆発音。
轟く邪神の眷属の咆哮。
カメラマンが交差点を走り抜けたそこにいたのは立ちすくむ俺と、頸動脈を切られ血に染まり倒れた譲司さん、そして譲司さんを腕に抱くデスサイズだった。
「ん~~~?どうした?そんなに悲しいのならお前も同じところに送ってやろう!」
信号機の上から話しかけるのは神話合成怪人カメレオンウロボロス。譲司さんの命をその長い舌で奪った敵だ。
ゆっくりとデスサイズが立ち上がり、ビームマグナムを引き抜いたところで画面にノイズが走り暗転。
次回で第3話は終わりです。




