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「大雑把な事を言いやがってみたいな顔をしてるな、誠?」
「ドキっ!」
ハハ! バレテーラ!
「んじゃ、もう少し詳しく解説してやるぞ~」
「お願いしま~す」
「ドラゴンフライヤーのパイロットは龍田さん」
「ん? アレってブレイブスーツを着用しないと操縦できないんじゃないっけ?」
大型の竜型ロボットであるドラゴンフライヤーのコックピットは頭部にある。これは一見、普通の事のように思えるけど、よく考えてみて欲しい。ドラゴンフライヤーの頭部はただ飛ぶだけで前後左右に振れるし、口の中の熱線砲を敵に向けるにも、あるいは敵に噛みつく時も頭を振り回すのだ。当然、コックピットも頭部にあるわけだから一緒に振り回される羽目になるわけだ。そのGは殺人的で、耐G機能もあるブレイブスーツを着用しないと戦闘どころか操縦すらできないというわけだ。
そして龍田さんがいたって、ブレイブファイブの5人は天昇園に向かっているらしいし、余ってるスーツなんて無いんじゃ?
だが龍田さんはその事について指摘する僕に自慢げに自分の手首を見せてくる。
彼女の手首に装着されていたのは特徴的なダイヤル式入力装置の、だが僕が知る物とは少し形が違う物だった。
「……それは……、ブレイブブレスの……パチモノ?」
「パ、パチモン違うし! これはプロトブレス! 無理言って技本から借りてきた試作型のブレイブブレスだし!」
「あ~、これで変身できるプロトブレイブスーツは武装が無かったりと戦闘に使えるようなモンじゃないけど、耐G性能は正式採用版と同等らしいし、メカの操縦だけなら大丈夫みたいだ……」
明智君がそう言うなら大丈夫かな?
そして声こそ出すわけではないけれど、三浦君と草加会長のヒーローオタ2人が何やらアイコンタクトを繰り返している。ブレイブブレスのプロトタイプを身に着けた謎の女性に興味津々のようだけどさ、別に龍田さんはブレイブファイブの育成中の新メンバーとか隠密作戦担当とかそんなんじゃないですよ? あの人はブレイブファイブが隠れ蓑にしてるカレー屋さんの店番ですよ? オタクの方々でも龍田さんの存在を知る人なんかいないし、それは知る必要性も無いからですよ? ヨソでブレイブファイブの謎の新メンバーの話なんかしたら鼻で笑われちゃいますよ?
あっ、三浦君と草加会長、僕の事を見た後、2人して頷いてる。これは後で事情を聞こうとか、あわよくば紹介してもらって写真撮らせてもらおうとかそんなんだな!
「で、次に『浮上』の魔法陣だが、こちらの担当はアーシラト。まあ、あの人も強いが宇宙じゃ戦えないしな……」
「ん? アーシラトさん、今も『気配遮断』だかの魔法を使ってるんでしょ? 大丈夫なの?」
「それについては予から……。アーシラト殿は人間とは根本的に存在の在り方、体の作りが違うからな。長時間の魔力の使用で『魔力酔い』になることもないようだ。さらに気配遮断の魔法陣をそのまま浮上の魔法陣に転用するので現在地から動く必要も無い。まあ、彼女の飽きがこないように定期的に酒とツマミを持っていけば大丈夫だ」
マックス君の説明に応じて明智君がノートパソコンを操作。スクリーンに結界の一部を入れ替える事で魔法陣をスイッチする様子が映し出される。
その様子は学校のパソコン室で複数のパソコンや様々な周辺機器の接続を切り替えるスイッチングハブのようで、恐らくは向こうの世界の技術とこちらの世界の発想なのだろう。
「そして誠も来る時に見ただろうけど、ドラゴンフライヤーの背中に搭載したロケット。アレを支える骨組み、見るからに強度が足り無さそうだろ?」
「うん。そりゃそうだろうけど、え? あれで終わりじゃないよね?」
ロケットを支える支持架の骨組は鉄骨組の武骨な物で、縦横に沢山の骨組が組まれていたが、正直、あれで飛行に耐えうるとは思えない。
「全ての作業は午前11時までには終了の予定だ。誠の言う通りに必要な強度を出すための作業をしていたら来週までかかってしまうぞ」
「ええ……、大丈夫なの?」
「そこは私たちが何とかします!」
「山本さんたちが?」
「現在、ロケットの搭載と並行して、骨組みに魔術的紋様の書き込みをしてます。そしてドラゴンフライヤーのカーゴスペースに私たちが乗り組んで魔力を供給することで魔法で骨組みを強固な物にします!」
「そのためにカーゴスペースに地元工務店の協力の元、座席を設置中だ」
そう言えば最初の協力団体の一覧の中にナントカ工務店ってのがあった気がする。大手建設会社ならともかく、一般住宅の内外装を施工する工務店が含まれているのはおかしいと思ったけどそういうことか。
「ウチの1年の鮫島ちゃんとこの実家なんですよ! 鮫島工務店って!」
「へぇ~!」
「急な頼みで、しかも情報を伏せたまま協力してもらって助かってるよ」
「ハハ! 大丈夫です! 政府の仕事で金払いがいいって喜んでましたよ! 鮫島ちゃんのお父さん!」
ん?
政府の支払い=公共事業。
公共事業にヤクザが絡む。
そしてヤクザの身内の企業が公共事業を受注。
………………
…………
……
あっ!
僕は何も知らない! 僕は何も知らないぞ!
大丈夫、昭和のヤクザはもういない!
ヤクザガールズは正義のヒーロー! いいね? アッ、ハイ!
僕は考えるのを止めた。
「……それにしても宇宙に行くだけで大変だね~! まだ説明はどうやって宇宙に行くかってとこじゃない?」
「まあ、現在の地球の技術力じゃあなぁ……。こればかりはなぁ……」
「そうかね? 予からしたら段取りつければ星の世界に行けるというだけで凄いと思うのだが……」
「皆の力を合わせればできない事なんてありませんよ!」
明智君、マックス君、山本さんと三者三様の反応をするのが面白い。
「ま、飽きずに聞いてくれ、で十分に高度を取ってからロケットに点火するわけだが、これは本作戦が速度を旨とするためだ。ロケットに点火後は経済速度なんか目もくれないでエンジン全開で敵艦を目指す事になる……」
「速度が旨」か……。兵は神速を尊ぶとか、拙速は巧遅に勝るとか言うけれどそういう事なのだろう。銀河帝国の巡洋艦とやらがどんな技術力の物かわからないしね。まさに1度限りの速攻勝負というわけだ。
「そしてロケットの燃料には蒼龍館高校技術部が開発した魔法生成燃料を使う。これは普通の液体ロケット燃料よりも安定性、安全性ともに遥かに優れているからだ。もちろん、推進力もな!」
一般的に液体ロケット燃料は取り扱いが難しいらしい。酷く不安定な液体ロケット燃料はちょっと出力調整を間違えただけで大爆発を起こすし、そもそも燃料自体が人体に対して強い毒性を持つのだ。
逆に固体ロケット燃料は安定性こそ高いものの、出力調整が難しい、と言うよりはほぼ出来ないと思った方がいい。対戦車ロケットや各種ミサイルがいい例だ。
そのロケット燃料の問題点を一気に解決するのが魔法生成燃料だという。これは液体であるために出力調整が容易でありながらも、魔法で作られた物であるがゆえに想定した条件でしか燃焼しないのだという。そうマックス君は得意気に語るが彼は気付いているだろうか?
魔法生成燃料の欠陥に。
そう。魔法生成燃料は魔法使いじゃないと作れないのだ。
そういうわけでマックス君の魔法生成燃料が宇宙開発の主流になる事は無いだろうけど、今回に限って言えば有用だった。
「で、衛星軌道上でブースターとロケット3段目を分離するわけだが、3段目には誠と護衛部隊のための降下艇が搭載されているわけだ。そのために何があっても損傷を受けるわけにはいかない。そこで戦闘により飛んできた宇宙塵に当ったりしないように必要になるまでは地球の陰に隠れてもらう。だが戦闘で飛んできたデブリが地球の重力に引かれて衛星軌道に乗って地球の裏側まで来るかもしれない……」
「え? どうするの? 僕も大気圏突入はできないよ?」
「安心しろ。降下艇の中にはヤクザガールズの栗田本部長にあらかじめ乗り込んでてもらう」
「ああ、それじゃ障壁魔法で?」
「まあ、そういう事だ」
スペースデブリは毎秒数km以上という地球上では想像もできないようで地球の周りを飛び交っているという。そのために長さ数mm、重さ数gという非常に小さな物であっても宇宙船に致命的なダメージをもたらす事もあるのだ。
このため侵略者の技術を解析して力場防御システムの開発が進められてはいるが実用化はまだ先の事だという。
つまり地球人にとって唯一、利用できる非実体型バリアシステムが魔法使いの使う障壁魔法なのだ。
「そして巡洋艦に向かってもらうわけなんだが……」
明智君がパソコンを操作して宇宙望遠鏡により撮影された巡洋艦の姿をスクリーンへ映す。
巡洋艦の姿は鈍い銀色の槍の穂先のように見えた。砲塔やランチャーの類は見えない。デブリの被害を防ぐために艦内に仕舞っているのかな?
「ん~? 宇宙だと比較対象が無いから大きさが分かりにくいね……。やっぱ巡洋艦ってくらいだから2~300メートルとかあったりするの?」
「…………」
「え? 何? 僕、なんかおかしい事、言った?」
「……3.2キロだ」
「え?」
「だから3187メートルだ!」
「ファッ!?」
え~!? 地球じゃ全長500メートルくらいの基地外の空母ですら、てんやわんやの大騒ぎだったらしいのに! ……まあ、誰がジャッジメントデイに乗って攻めてきたかは置いておいて。それが3.2キロ!?
「でも、あれだ。誠のディメンションフィールドを使った武器なら敵の装甲とか関係無いだろ?」
「まあね!」
ハドーの新型とかいうロボット怪人もビームマグナムは通用しなかったけど、時空断裂斬ではスッパリ切れたし大丈夫じゃないかな?
「で、巡洋艦がいる場所なんだがLーbポイントで……」
「え、えるびい?」
明智君が言う事が分からずに電脳内辞書を参照すると、この場合はラグランジュポイントbの事のようだ。
ラグランジュポイントとは地球、太陽、月の重力が釣り合っている地点の事で全部で5つあるそうな。昔はL1とか数字を付けて呼んでいたそうだが、L1ポイントが大量のデブリで汚染されて以降、L-dと呼ばれるようになり、それに合わせて他のポイントもアルファベットで呼ばれるようになったそうな。
そして電脳辞書に記されていたL1ポイントを汚した張本人は口を半開きにして明智君の説明を聞いていた。……真愛さん、そんな事もしてたんだ……。
「そういうわけで誠は後で羽沢から宇宙戦闘のノウハウについて聞いといてくれ」
「えっ!? わ、私!?」
「ウッス! ヨロシクオナシャス! 先輩!」
「はわわ……」
まさか自分に話が振られるとは思ってなかったような顔をして目をパチクリさせる真愛さんが面白くて、つい先輩扱いして持ち上げてみる。実際、僕には宇宙戦闘の経験は無いし、活動期間の長さも真愛さんの方が上だしいいよね?
「ふむふむ。ところでさ……」
「ん? 何だ?」
「その僕の護衛って誰?」
対艦攻撃機とかいうのに乗る僕を護衛できる、しかも宇宙戦闘が可能なヒーローなんて心当たりが無いんだけど、僕の知らない人かな?
だけど僕の質問に関する答えは明智君ではなく、その護衛役張本人からされる事になる。
会議室の横開き式のドアが勢いよく開け放たれて大きな音を立てる。
「それはワイらやで!!」
タイミング的に出待ちしてやがったな!




