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引退変身ヒーロー、学校へ行く!  作者: 雑種犬
第3話 男子高校生が深夜に見るビデオとは!?
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3-3

 その後しばらくの間、誠は姿を消し、俺達はデビルクローこと石動仁(いするぎじん)の回収に成功した。

 誰もが彼の生存を絶望視していたが、彼は脅威的な回復力を発揮し、3日後にはベッドから起き上がれるようになった。そこで俺達は仁さんに改めて協力を要請した。


 世界中で保管されていた四大聖遺物の3つ、「聖骸布」「聖十字架」「聖釘」が正体不明の怪人集団に奪われていた。そして最後の一つ、「聖槍」が日本国内に隠されているとの情報を掴んだ。しかし、俺達には戦力が圧倒的に足りていなかった。

「聖十字架」は破片として世界中に散らばっていたが、そのほとんどが偽物である。その真贋つかぬ十字架の破片を巡る争奪戦に世界中の名だたるヒーローが傷つき、そして命を落としていったのだ。

 そのような状況であった事は俺たちも百も承知であったが特殊怪人災害の多発する日本には、未だ正体も目的すら掴めぬ敵に戦力を割く事はできるハズもなかった。

 ARCANAの監視を俺達が受け持ち、活動の兆候が見られる時にはARCANAと戦ってもらい(情けない話だがARCANAの大アルカナに対処できるのは、同じ大アルカナであるデビルクローと消息不明のデスサイズの他には数えるほどしかいなかったのだ。DVDで先ほど誠が一太刀で撃破したスカイチャリオットにしたことろで、超巨大空母事件の数ヵ月前にはブレイブファイブのメンバー3人を殺害している。かれらがトライブレイブスとして再出発するのに数ヵ月の時を要した)、それ以外の時にはこちらに協力してもらいたいという俺達の提案に対し、仁さんの返答は信じられないものだった。


「ARCANAの事は誠に任せたら?」


 笑顔でそう言う仁さんに言葉を失ったのを覚えている。


「ウチの弟はやる時はやる男だよ。大丈夫、大丈夫!それに……」


 いつもの笑顔を引き締める。仁さんが真面目な顔をするのは珍しい事だった。


「その『聖槍』っていうのは俺だって知ってるぜ。確か所有者だったローマ帝国の百人隊長(ケントゥリオ)の名を取ってロンリーチの役って言うんだろ?」


「随分と速攻麻雀が強そうな百人隊長ですね!」とツッコまざるをえなかった。


「まあ、サブマリン・バッカニアやらガトリングエクソシストやら殺せる連中が聖遺物集めて何をしようとしているのか……、まさかネットオークションに出して小銭稼ぎしたいわけじゃないでしょ?」


 仁さんは俺達に全面的な協力を約束してくれた。それならば、せめてデスサイズの消息が分かったら連絡を取れるようにと言ったところでそれも断られる。


「いや、むしろ俺が生きている事はむしろ隠しておいてくれ。もし誠が俺が生きていることを知れば絶対に甘えが出てくる。そんな状態で戦えるほどARCANAの連中は甘くない」


 ベッドの上で掛布団を握りしめていた。言葉とは裏腹に実際は今にでも弟を探しに行きたいのだろう。それを分かっていながら俺達は仁さんの言葉に甘えるしかなかった。

 結局、俺達はあの兄弟の深い苦しみと悲しみと引き換えに世界を守ろうとしたのだ。後ろめたい感情に包まれる。「世界」なんて言葉でしか知らない漠然とした概念のため。俺は仁さんと誠の笑顔を思い出す。


 後に北欧神話に語られるトリックスター「笑う魔王」ロキの関与が確認され、聖槍「ロンギヌスの槍」に対して俺達のチーム名を「神槍(グングニール)隊」としたため、この事件は事後になって「埼玉ラグナロク」として知られるようになる。グングニール隊を“我々の槍”隊と表記する媒体があるのはこのためだ。




 テレビ画面に目を戻すと巨大空母事件の顛末は終わっていた。

 次にデスサイズが俺達の前に姿を現したのはM市郊外の採石場の防犯カメラが捉えた映像でのことだった。デスサイズはマーダーヴィジランテとともに教皇(ハイエロファント)女教皇(ハイプリエステス)と交戦している。

 マーダーヴィジランテはホッケーマスクにトレンチコートがトレードマークの殺人鬼で、秩序型連続殺人犯(シリアルキラー)の典型で犠牲者を選り好みする。彼の場合はその対象が極悪非道かつ強力な者であるという点で人によりヒーローとして分類されている。

 防犯カメラ映像のため元は音声が入っていないものだがショパンのピアノソナタ第2番第3楽章が被せられている。三浦が言っていたのはここの事か。

 やがて教皇と女教皇を撃破するがマーダーヴィジランテもまた致命傷を負ってしまう。

 倒れたマーダーヴィジランテをその腕に抱きしめるデスサイズ。震える手で愛用の鉈をデスサイズに託すマーダーヴィジランテ。殺人鬼の手を握り、何度も大きく頷く死神。何を話しているのかは二人の仮面のため読唇術も役には立たない。もしかして誠は泣いているのかもしれない。

 やがて三つの屍以外の物は存在しない採石場で茫然と立ち尽くす。


 ビデオはその後の情報も断片的に伝えている。

 マスコミの報道。目撃者がスマホで撮影した画像や映像。防犯カメラの記録。

 また関係者や目撃者のインタビューも差し込まれている。

 この辺りはどのドキュメントも同じだな。




 DVDも後半に差し掛かる。


 M市の繁華街の裏路地、まとめて積まれたビールケースの陰に膝を立てて座り込む誠。色白の肌が黒く汚れている。季節は夏とはいえ北日本の盆地にあるM市の明け方は冷えるが、誠は事も無げに地べたに座り込んでいた。

 誠の前に立つのは俺だ。俺と誠の初対面のシーンが記録映像に残されているのだ。撮影したのは3Vチームのヴァリアントか? この位置だと……


 いくつかの欺瞞情報に翻弄されながらも俺達はついに本物の聖槍が聖埼玉県赤夢市にあることを突き止めた。しかし、未だ正体を現さない敵。他の組織の参入も相次ぎ激化していく戦い。

 デビルクローとデスサイズに相次いで作戦を阻止され、半分以上の大アルカナを失ったARCANAの活動は小康状態になったと判断した俺達は、デスサイズこと石動誠にグングニール隊への参加を要請するためM市を訪れていた。

 使者として俺が選ばれたのは同性で歳が近いという理由だ。俺自身に戦闘能力は無いため空陸両用戦闘ロボットチームの3Vのヴァルカン、ヴィクター、ヴァリアントの3機を護衛としていた。


「……石動誠さんですね」


 誠から漂う剣呑な空気に気圧されたのを覚えている。


「『黄金の頭脳』が何の用?」


 チラリとだけ俺を見るが直ぐに地面に視線を戻す。一応、話は聞いてくれるようだが嫌な予感がした。俺達の置かれている状況を最初から説明し協力を求める。


 なお、この時点でもまだ仁さんの情報は伏せるよう指示されていた。それも仁さん直々にだ。

 仁さんはその頃、遊撃戦力として生存を隠秘したまま東奔西走の日々を送っていた。自分の姿を晒した敵は確実に倒すことで秘匿性を保つ。その戦術を提案したのは俺だが、そんな芸当をやってのけるのは仁さんくらいなものだ。

 本来、ヒーローはこれ見よがしに自分の存在をアピールして守るべき人の盾になるものだが、グングニール隊においては仁さんという最高戦力を隠すことで最大の戦果を上げていた。

 今にして思えば、この時に誠に仁さんの生存を打ち明ければ二つ返事でついてきたんじゃないかと思うが……。


「……興味無いです……」


 誠の返答は一言だけだった。それっきり俯いたまま黙り込んでしまう。時間も時間だ。そのまま寝るつもりだったのかもしれない。説得を続ける俺にしても、これほど取り付く島もないという経験も初めてだった。何しろ相手は改造人間。パソコンや家電製品のようなスリープ機能があったら、無視されるどころか本当に聞いていないのだ。そこで俺は切り札を出すことにした。


「……ARCANAの連中が出てきたとしてもですか?」


 その瞬間に腕の力も反動も付けずに立ち上がる誠。真意を問うかのように無言で俺の目を睨みつける。上空と俺の背後に控えるロボットは眼中に無い。


「先ほどから申し上げているでしょう。『この件に複数の組織が手を出してきている』と。それに連中のオカルト趣味も知っているでしょう」


 俺達がARCANAの参戦を危惧していたのは事実で、むしろ活動が小康状態になったことで尻尾を掴めず余計に不気味になった感すらあった。

 復讐鬼と化したと言える誠に取ってこの話の効果は抜群だった。

 当時の身長が172cmだった俺より20cm近くも低いであろう相手に睨まれ、全身の鳥肌が下着や服の裏地を撫でる感触を味わいながらも必死で説明を続ける。そして……


「な!なにを!!」


 いつの間にか誠の手に大型拳銃が握られていた。デスサイズの武器であるビームマグナムだ。銃を保持する手の親指でハンマーを起こし、銃口は俺の顔を向いている。そのまま発砲!


 ああ、この時は本当に撃たれたと思ったな。「畜生!撃ちやがった!!狂気の復讐鬼を仲間にするなんて無理だったんだ!羽沢や三浦が心配していた通りになった」って。ヒーローチームに所属していながら銃を向けられるなんて初めてだったものな。しばらく自分が生きていることに気がつかなかったくらいだ。


 最初に気がついたのは鼻をつくオゾンの臭いとプラズマビームの熱の余波が頬を熱くしていたことだ。ビームは俺の顔の真横を通っていったのだ。何故?後ろを振り向くと、そこには頭を撃ちぬかれたARCANAの斥候ロボット。


 いつの間にか変身したデスサイズが俺の前に飛び出し大鎌で斥候ロボを両断する。ふむ。この時は気付かなかったが、誠が俺を庇ったようにも見えるな。


「全領域迷彩。気付かなかった?」


 3Vチームのセンサーも搔い潜るステルス技術など想定外もいいところだ。


 僚機がやられたことで奇襲が失敗したことを悟った斥候ロボと尖兵ロボの集団が続々と姿を現す。前から後ろから、そして周囲の建物の屋根の上から。3Vも応戦するが芳しくない。誠の冷ややかな声が響く。


「……ブリキの兵隊は下げて君を守らせなよ。レーザーは効かないよ?」


 路地裏では取り回しの不便な大鎌を捨て、斬りかかってきた尖兵ロボットを鉈で刻んでいくデスサイズ。手近の集団を始末して俺を振り返る


「さっきの話、後でもう一度聞かせてよ。あ、先に言っておくけど……」

「何ですか?」

「僕の邪魔をしたら誰であろうと死んでもらうよ?」


 からかうように首を傾げてみせる死神。


 その後、デスサイズこと石動誠はグングニール隊に加入する事になる。

マーダーヴィジランテさんにはR15、R18指定回避のため死んで頂きました。

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