「獄炎兄弟デビルクロー&デスサイズ」より
雨が降る。
天から地へ。
機銃掃射のように撃ち下ろす。
蒸気が上がる
地から天へ。
ゆらゆらと躊躇うかのように。
蒸気が上がるのは、そこに熱く熱せられた物質が存在するからだ。
それも2つ。
一つは大鎌を両手に携えた黒ずくめの細身の甲冑。得物と病的に細いシルエット、ボロボロのマントに骸骨を模した頭部など大概の人なら死神を連想するだろう。
一つは長剣と盾を構えた重甲冑。こちらは白銀に輝く装甲と黄金色の装飾から王者の風格すら感じさせる。
他に動く物のない広大な廃車置き場。死を連想させるその場所で両者は対峙していた。
「長かった……」
黒い死神が呟く。
「長かったよ。ザ・エンペラー。でも、それも今終わる……」
死神の中から響く声はまるで変声期前の少年を思わせる。
「黙れ!終わるとしたら我の勝利でだ!デスサイズ!!」
ザ・エンペラーが吠える。自身の勝利を確信しながらも苛立ちを隠せはしない。
「……」
「……」
しばらく視線をぶつけあっていた両者、しかし唐突に駆け出す。常人にはどちらが先に動いたかなど分かりはしないだろう。
幾度も剣線が交わされ響く金属音。
降り下ろされる大鎌が長剣に阻まれる。
崩れたバランスを逆に利用した死神の蹴りが皇帝の脇腹に突き刺さる。
迫り来る死神の爪を上半身のみで避ける皇帝
重厚な盾が死神の顔面に叩き込まれる。
膝から崩れ落ちる死神。
「くくく、こうなる事は最初から分かっていたのだ。皇帝は全てを支配する。死神とて逃れられぬよ……」
皇帝の剣先が死神に突き付けられるが、止めを刺すためというよりは侮蔑の色が強い。
「我が軍門に下れ。デスサイズよ。ここまでやった男だ。我の右腕の座に向かいいれよう」
「黙れ!貴様のせいで両親は殺され、再び出会った兄も!共に戦った友も!皆、皆死んでしまった!お前だけは許さない!!」
死神の悲痛な叫びは眼前の切っ先に怯みはしない。だが……
「そうか……ならば死ね!」
無感情な宣告と同時に振り上げられる長剣。その刹那、死神のマントの下から銃口が飛び出す。
ビームマグナム ファニング6連射
長い一度の銃声。
5発は皇帝の盾に防がれる。しかし、1発、僅かに1発が皇帝の右膝を撃ち抜く。
「ちっ!」
「ハッ!」
好機と見た死神はマントを脱ぎ捨て、装甲から立ち昇る蒸気と青白いイオンの光芒を残し上空へ飛び上がる。
空中で静止するやいなや両手を広げる。
敵へ送る十字架。
それが合図か赤く光る円周が現れる。最初は一つ、そして次々と。上空の死神から地上の皇帝へと続く道、あるいは砲身。
「デスサイズキック!!」
飛び蹴りの姿勢を取り自身を砲弾と化し砲身に飛び込む。時空間の斥力を利用して加速。一気に皇帝に飛び込む。
死神には上手く着地を取る余力すらない。左カメラアイはダウン、右も点滅。右手首のブレスレットも赤く警告を発している。エネルギー残量が底をついている。変身を維持できない……
「カハっっっ!っつっっ!」
地面をのたうち回る死神に対して皇帝は何事も無かったように振り返る。
「そんなものか。いや、少しはヒヤリとさせられたぞ」
死神の全身が光ったかと思うと死神は消え、その場に一人の少年が現れる。泥にまみれた少年。しかし、眼差しは強く皇帝を睨み付ける。
皇帝が一歩、また一歩と膝を引きずり向かって来ようとするが何かに気付き歩みを止める。
「これは……!」
皇帝の腹部から赤い光が漏れていた。4つの斜めに並んだ引っ掻き傷。光が漏れているのはそこからだった。
やがて光は強さを増していき、装甲の継ぎ目からも続々と光が飛び出してくる。
先のデスサイズキックのエネルギーは傷痕を通して皇帝の体内に浸透していたのだ。
「……ありがとう。兄ちゃん……」
少年が傷口を付けた今は亡き兄への感謝を振り絞る。年は離れていたが何時だって頼りになる兄だった。安心させてくれる兄だった。ああいう男になりたいと思える兄だった。そして世界中の人を守ろうと宇宙に消えた兄だった。兄は少年の誇りになった。
そして、その兄がまた自分を助けてくれる。
「ふふ、我の負けのようだな……」
さすがのザ・エンペラーとて敗北を認めざるをえない。
「覚えておけ!我が死すとも悪の芽は絶えず。そして貴様を助けてくれるデビルクローはもういないのだ!戦いの中で擦り切れて何時か死ぬ!精々、それまで苦しめ!一足先に地獄で待ってるぞォォォ!!!!」
DOGOOOOOOOOOOOON
最後の言葉を言ったか言わないかのタイミングで、皇帝の肉体は時空間斥力に耐えきれず大爆発を起こす。
「ザ・エンペラー、そしてARCANAの最後だ……」
感慨深げに呟いて踵を返して立ち去ろうとする少年だが、一つ思い直したように振り返り、もう誰もいない場所に話しかける。
「知ってる? タロットの死神の意味を。逆位置の死神には“再スタート”って意味もあるんだよ?」
雨はいつの間に上がっていた。
おかしい。
ギャグとかコメディ物を書こうと思ったのに。