私が生まれた日
「……ぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああ!?」
永遠に終わることの無い奈落の穴を落ちて行く。奈落の壁となった数多の亡者たちの悲鳴と怨嗟が私の耳を劈き、私の心を締め上げ、私の肉体をも焼き尽くしていく一体どれほどの間この試練を受け続けたのだろう?。一年だろうか…?、十年だろうか…?。それすらも最早わからない。ただ私は肉体を焼かれる痛みと、亡者たちがこの心を締め上げる苦しみによってもたらされる苦痛に耐えかね。聴くに堪えない絶叫を上げ続けていた。そして…
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
気が付けば私は何処か見知らぬ森の中に寝かされていた
「なっ!?、あっ?」
今の今まで試練と少してぶつけられ続けたあの亡者たちの声はもはや聞こえず。先ほどまで焼かれていたこの身も一切の外相無く五体満足で存在していた
「えっ!?。なっ、何でだよ!?」
しかし着ている服が違うのだ。死んだときは上下ともに黒色のジャージを着用していたが、今は上下共に黒のジーンズにTシャツにフード付きロングコートを羽織り。真っ黒に塗られた逆十字のネックレスを首から下げていると言う「私が最後に夢の大双樹をプレイしていた時にキャラクターに装備させていた装備とおんなじものを着ていた」。記憶が確かなジーンズは「黒王龍の下軽装」Tシャツは「黒王龍の上軽装」そしてフード付きロングコートは「黒王龍の聖皮外衣」。そして逆十字のネックレスは「堕落せし聖王の堕聖逆十字」。どれもシーカーを始めとした闇職業の中では最上位の課金装備にすら並ぶ無課金最強装備だ。大双樹無い最高クラスの防御力にバッドステータス全無効と全ステータス+30補正、固定ダメージの追加等etcetc…とにかくいわゆるチート武器と呼ばれるものと思ってもらえればそれで十分なのだが。とにかくそれを着ていたのだ。あれ?、俺コスプレとかした覚えないんだけどなぁ…
「何がどうなってんだ…?」
色々と頭のキャパを超える量の情報が入り過ぎて状況を飲み込めないまま、俺はどうすればいいのか分からずに後ろ頭をかきながら大きくため息を吐いた
「KaRororo…」
その時、後ろからとても聞きたくない声が聞こえてくる。まるで壊れかけた人形のようにぎこちない動作で後ろに振り向くと。目の前に目測で6~8メートルほどの大きさの蝙蝠みたいな顔と上半身にカマキリの下半身との付いた腕が4本生えていて、尚且つ背中に蝉のように巨大な羽が生えていた
「………」
「KisyaaaaaaaAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!」
「あぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああ!?」
私を威嚇しているかのような咆哮に絶叫で答える。己の中で本能が全力で逃げろと警鐘を鳴らし、私の中の理性…いや正確には知識と記憶が「コイツを殺せる」、だから殺せと叫ぶ
「わぁぁぁぁああああああああああああああああああああ!?」
相反する二つの命令を前に体は動く事が出来ず。目の前で4本の鎌のうち2本を私の頭に振り下ろそうと天高く振り上げる。そして
「戦闘開始。スキルカード=縮歩+居合+神速抜刀+金剛両断+一刀即殺+無類の殺意+奥義・無極 アタックカード=神剛家光流終式11の型/不知火」
4つの鎌を持つ腕は関節ごとにバラバラに切り裂いたうえで体を綺麗に両断する
「え?」
化け物が目の前でいきなり真っ二つになってその場の地面に倒れ。バラバラになった鎌を持つ腕が地面に落下していく。何が起きたのか理解できずにしばらく目の前で息絶えた化け物の市街を眺めていると、私はようやく自分が武器を持っていた事に気づいた。素人目にも美しいと思える鮮やかな刀身は化け物の体液と思われる緑色の液体で汚れてはいるものの。それでもなお美しいと思える程の魅力を持った刀。良く見れば持ち手や刀の鍔などにもすごく綺麗(小並感)で美しい装飾が施されていることが分かった
「……」
初めて武器を持って生物を殺した。その事実を認識すると同時に私の手から全身に硬いものと何かやわらかい物を切り裂く感触が伝わってくる。思わずその場で吐き出してしまいそうな気分の悪さを自覚しながらも、なぜかもう一つの感情が自分の中に合った
「こんなものか、あっけない」
まるでこう言った化け物など殺し秋田とでも言わんばかりに吐き捨てるもう一人の私がいた。それが何なのか理解できないししたくも無いとばかりに私は頭を振る、そして
「本当に何がどうなってんだよ…?」
理解できない何かに襲われ続けた事でとうとう許容できる精神のキャパシティを超えてしまった私は、力なくその場にへたり込んでそう吐き捨てる。しかしそれに応える声はなく、気が付けば刀についていたはずの液体はきれいさっぱり消えてなくなっていた
「Kurururururururu」
頭上から聴こえた声に反射的に縮歩を使ってその場から消える。私がその場から消えるのにワンテンポ遅れて無数の針のような物が地面に降り注ぐ
「何だ!?」
見れば優に10を超える数の蜂を巨大化した上で人間のような腕をそれぞれ左右に1本ずつ生やし、そこにスピアのような武器を持って空に浮いていた。
「…空か……」
そう言って刀を消す。次の瞬間空中に突如として現れた半透明のディスプレイみたいなもの柄割れるのでそれに手を突っ込み、そこから巨大な銃を取り出す、銃と言うより最早重機関銃だな。形状としては12.7mmに銃身を2つにした感じ、と言えばいいだろうか?、それをしっかりと両手で持って蜂へと向ける。蜂達は一斉に私に向かってけつから針を大量に飛ばして来るが、瞬歩とムーブアシストを使って全て回避し、敵の後ろ側の地面に瞬歩で飛び、相手がこちらを見失った事で動揺した隙を逃さぬよう地面が割れる勢いで大地を蹴って空へと跳び、蜂達と同じ高度に到達すると同時に薙ぎ払う様に12.7mmをぶっ放す。一瞬にして自らの跳人肉体をずたずたに引き裂かれた蜂達は力なく地面へと落ちて行く。そのまま俺も重力に従って地面へと落ちて行き。綺麗に着地して12.7mmをその場の地面に無造作に投げ捨てる
「…出来ちまった。今まで生きてきた中で一度だってやった事なかったのに……」
最早自分が分からないと言う感情と、やはりこの程度では楽しめないと残念がる二つの感情。そして自分が人間離れした存在になってしまった事を実感した事による喪失感に苛まれていたその時
「そこの貴方!、動かないで下さい!!」
後ろから聴こえてきた女性の声に振り返ると、そこには軽装ながらも鎧に身を包んだ長髪の女性…兵士?、それがクロスボウガンを構えながらゆっくりとこちらに近づいてくる
「……」
何かを言おうとして彼女に手を伸ばす、しかし
「動かないで下さい!」
彼女の怒号にビビって引っ込める、そして
「貴女は…誰ですか?」
俺の問いに彼女は
「は?」
と言う驚きと呆れが入り混じった顔のまま固まり、そして
「貴女バカですか?、このオルテガの紋章が見えないのですか?」
と、鎧の左胸に掘りこまれたエンブレムらしき物を指さす。エンブレムは鷹が剣を両足に持ちそれを跪く人間に貸し与えようとする姿が描かれている
「…いや、観たことも無い紋章ですね」
俺は彼女にそう返す。すると彼女はますますあきれた表情で私に
「…貴方どんだけ辺境の片田舎から来たのよ……」
そう言って頭を抱える彼女の姿を観たのを最後に、私はその場に崩れるように倒れる
「ッ!?、ちょっ!?、あんたどうしたのよ!?」
慌てた声質の彼女の声が聞こえてくる、しかし急速に遠のいて行く彼女の声と比例するようにどんどんと失われていく意識を前に、俺はそのまま意識を手放した