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死に神花火――化け物小屋に囚われている若者と、寂しさに囚われている盗人――  作者: かぎのえみずる
終章 花火の打ちそこないが、愛嬌の化け物屋敷主人
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かぎや

 二年後、再び浅草の土地にやってきた頃、見せ物として眼を見せたとき、旅人に言われた。


「黒い眼じゃないか。呪いなんて嘘っぱちだ」


 旅人はケチをつけるかのように、荒っぽい口調で指さしてきた。

 ちょうど、二年経ちあれから呪いの効果はなくなった。偶に亡くなる人はいたが、変死ではなかったので、呪いの目などはもうないのだ。


 だから、旅人の言葉は嘘ではない。嘘ではないままでは困るので、善継は少しだけ考えてみる。

 善継は苦笑して、教えてあげる。


「この眼は呪うときだけ、青くなるんですよ。五割の確率で呪われたいのなら、化け物屋敷を潰すなりなんなり、してください」


 実際は、そんなことはない。だが、物は言い様だと気付くのに、二十数年間も掛かった哀れな男。

 角度によってのほうが信憑性が高まり、余計に引っ張りだこになり善継は忙しい毎日を送る。


 そんな中でも忘れない。化け物屋敷を作ることを。

 黒兵衛と約束をしたのだ。春に認められたのだ。

 どうやって化け物屋敷から離れられようか?

 呪いの目という看板は掲げたままに、化け物屋敷を作り続ける男は時々、ふっと現実を思い出す。

 そうでないと、自分が昔作った人形師のように狂ってしまう。



 人と接することへの面白みは黒兵衛たちのおかげで思い出せた。

 絡繰り人形と繋がってるクルミの笑い声が聞こえる。


(喋ってくれよ、喋ってくれよ――)


 狂えば楽だろうか。

 人形に狂わされた人形師のように、いっそ、そこまで化け物屋敷に狂えられたら、楽だろう。

 だが善継は、決して狂わされはしない。なぜなら、狂った先には黒い世界しかないからだ。

 狂うのは簡単だが、そんな世界見たくはない。

 狂うから芸術家、という人もいるが、善継は正気のまま芸術家でいたい。

 正気でなければ、またもや出世のチャンスを逃す。

 旅団の皆も応援してくれている。

 田舎小僧との縁を知っているから。


 さようならを春としたのに、再び会うのはちょっとかっこ悪いと、かっこつけの善継は思うのだった。

 何より怒られそうだ。何故死んだ! と怒鳴られでもしたら、怖いものだ。

 死者が死に神に怯える理由は、他の人とは違うがわかった気がする。



 そうだ、あの黒い世界を、とことん描こう。黒兵衛の人形を使って、名前の通り、黒い世界を描こう。

 黒い花に黒い河。

 きっと春が昔のように声だけで話しかけてくれるかもしれない。

 隠れて見に来てくれるかもしれない。

 何者かに、この節分のように扮して。



 それまでに自分は春と他の人を見分ける目利きができるようになっていなければと、独り笑った。

 共にいるのは、過去の人形、善継を「おとっつぁん」と呼んだ可愛い作品たち。


 夜の世界と、あの黒い世界は繋がってるようで繋がってない。

 色味が似ているけれど、黒い世界は何も考えることができない。

 考えようとしたら、それよりも先に黒い世界が迫る来る。

 黒い世界から逃げなければ、逃げなければ。

 黄昏時の夜よりはやく迫り来る。朝焼けが遠のく。

 そこに何かの間違いのように赤い火が飛び交い、火事場泥棒をする田舎小僧。


 次の化け物屋敷の題材は、田舎小僧で決まりだ――死に神と賭けをした、黒い夜と紅い火事が大舞台の小僧の話。



 田舎小僧は人気が出るだろう、あんなにも印象深い市中引き回しを忘れる人はいるものかと今は思う。

 時が経ち、いずれ風化すれば、人々は綺麗に忘れるだろう。けれど、今は、今だけは、時節の人。


 風化しても田舎小僧ならば、何だか善継にはいい思い出の品として保存しておきたい化け物屋敷だ。

 よし、保存できるように金を稼ごう。

 この嘘吐きの目だって、金の臭いを目で嗅ぎつける。



 化け物絡みの出来事はもうないだろう。

 化け物は善継が作り出すだけだ。

 でももしかしたら春のように、人に紛れて生きているかもしれない。

 黒兵衛のように死人が、柳の下でなりを潜めているかもしれない。

 化け物はそれに人だけとは限らない。こっそりどこかで妖怪のように存在しているのかもしれない。


 小姓の古道具、医者の行灯、子供の陰の中。

 どこにでも何かがいる可能性は秘めている。


 想像力は豊かにならなければ、化け物屋敷は作れまい。

 化け物たちは、夜や逢魔が時に存在する。

 そして待っているのさ。


 打ち上げ花火を。遊べる時間を。


 花火に照らされ、人々はおどけた妖怪を見て逃げ、化け物は大喜びの花火。

 黒兵衛はやはり斬新な案を提供してくれるのは死後もだなぁと善継は、火事が消えてややぼんやりと薄く煙たい空を見上げて「かぎや」と呟く。


「かーぎやー」


 独りぶつぶつ呟きながら、化け物屋敷の草案を練っていく。


「たーまやー」


 花火は無事に打ちあがるかどうかは、花火師という仮初めの化け物屋敷主人次第。


 色んな細工を考えては一人笑うの、にやり。

 挙げ句に呟く「かぎや」「たまや」おまけに、「空き家」。

 最後は、ちょっとした冗談。

――――【了】


最後まで読んで頂き有難う御座いました。

最終話近くの日になり、連続更新してしまいすみませんでした。

区切りのいいところを選ぼうとしても、どれもこれも見せ所だ、と思いまして。


この話は2009年に書いたものでして、私がまだ三人称についてよく判っていなかった頃合いだったと思います。


タイトル回収のところは、割とお気に入りです。


さて、また何か別の作品でお会いできれば嬉しいです。それでは。

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