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夜が支配する時間。
夜は、狡賢い者の物だ。天明五年(一七八五)四月。
宵闇が濃くなり、空の輝きなど消え失せた。星は瞬くが、とうてい月ほどの照明をくれぬ。
かといって、月が多大なる照明をくれるわけではない。どちらかといえば「あればマシ」という程度であった。
夜から始まる物語がある。騒がしい夜と、静夜から始まる物語。
大抵が、化け物が絡んでいる。この騒動も化け物「絡み」ではある。静夜のほうも「化け物」絡みではある。
いつの時代も始まりが夜だと、碌なことはない。
空は深淵から、朱に交わろうとしている夜は、火事。この時代は火事が多くて、建物を取り壊すことが多かった。
建物をどう少なく取り壊すことで競う火消もいた。
どうやら、今日はその深夜のようだ。
化け物が、カラム。
物の怪、柳の下の幽霊、全てが夜。夜。夜。
深夜になればなるほど、――妖しげな者が蠢く