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カニクリームコロッケ、の真実

 私は君達が言うところの、神に近い存在だ。

 そして君達は、私にとって……。水槽の中の魚、もしくは小説の中のキャラクターみたいなものだろうか。上手く形容できていないかもしれないが、許してくれ。

 つまり私はこの世界の創造主であり、管理者だ。


 そして私にとっての娯楽と言うのが、この世界だ。時に施しを与え、時に奪い、その営みを見る。私の意思から離れた者達の動きを見るのは実に面白い。

 けれど、飽きてくることもある。最近で言えば堅い皮膚で大口の……。君達が言う恐竜という生物が繁栄したことがあったが、どうにも見ていて面白みが無かったのでリセットしてしまった。

 そして君達が栄えた。君達の営みは実に面白かった。農耕や畜産を使い、この世界のシステムを微小ながら手に入れるその能力。

 しかし己の理解が及ばぬことを神と例え、それを信じる者、利用する者。時に助け合い、時に殺し合い。その光景は実に愉快だった。

 そんな中、私は君達の創ったあるものに夢中になってしまった。


 カニクリームコロッケだ。


 元々君達の創った「料理」というものには少なからず興味を持っていたが、このカニクリームコロッケは別格だ。海のもの、山のものを贅沢に使った料理。人類を代表するパン。畜産の象徴、牛乳。その他にも搾油や冷蔵技術、輸送技術など。カニクリームコロッケには君達人類の培ってきた技術が、ありとあらゆる場面で使われている。正に君達人類の力の集大成と言って良いだろう。


 そんなカニクリームコロッケを堪能するために、とうとう私はこの世界に降り立った。仮初の体を使い、地に降りて街へ行く。自らの足で、カニクリームコロッケを探し、喰らう。

 これが、堪らなく楽しかった。


 カニクリームコロッケが美味しいというのはもちろんのことだが、周囲のもの全てが心地よかった。洋食屋の店構え、店主の人格、食べにくる客。全てがドラマチックで、ユニークだ。それに一口にカニクリームコロッケと言っても、多種多様。使うソース、付け合わせの種類、価格。皆違って、皆良かった。

 時には君達が使うような情報端末で店の情報を入力して、同好の者達と意見を交わす事も少なくなかった


 けれど、私にとって許せないことがあった。


 私はいつものように、街へ降りて洋食屋へ入った。カウンターに座り、カニクリームコロッケを注文した。

 出てきたカニクリームコロッケは、実に素晴らしかった。トマトベースのソースを円形に広げ、そこに二つ行儀良く並んだカニクリームコロッケ。そして上にはチャームポイントのようなパセリがのっている。所謂、高級洋食店のカニクリームコロッケだ。


 私はそれを口へ運んだ。いつもと違ったのは、私はその素晴らしさゆえに思い切り口へ運んでしまったのだ。揚げたてを、間髪を入れず。

 噛んだ瞬間に口に広がる、熱さ。口内の皮膚が爛れ、喉すらも焼く。

 その刺激に思わず私は、およそ文字に起こせぬ奇妙な声を出しながらそれを口から出してしまった。その瞬間、店は変化した。


 周囲にいる客、店主からの嘲笑。目の前に口内を火傷して苦しむ者が、そこにいるというのに、誰も助けようともせず、心配の声をあげることもない。ただただ人を馬鹿にする笑いを、私に向けるのみだった。

 私は悲しかった。人間の醜さというのを痛感した。悲しみに塗れた私は黙って料金をテーブルに置き、その店を去った。

 だから、私は思った。私は決意した。


 愚かな人間に、カニクリームコロッケの恐怖を教えねばならないと。己のできる限りをもって。


 故に私は自律型カニクリームコロッケを創った。カニの爪と脚を持ち、空を飛び、人を殺す。我が創造物の中でも完璧の造形。

 カニクリームコロッケが熱いことを、死をもって教える存在。それが彼らだ。彼らの行動目的は、より多くの人間をその身に埋めて殺すこと。そのためならば自己増殖をも可能にし、目の前で人間が増えようとしているならば助ける。命令に忠実な我が使途達は君達の多くを殺してくれた。


 だけど、私も鬼ではない。彼らに明確な弱点も用意した。


 カニクリームコロッケに、水をかけたら美味しくない。カニクリームコロッケが、カニクリームコロッケではなくなる。もし、君達が真剣にカニクリームコロッケについて考えているのならば、気付けるはず。

 つまり、これは君達にとって試練だったのだ。人類という種が、今後存続できるかの。気付けなかったら気付けなかったで、それで良い。カニクリームコロッケについて真剣に考えられない人間なんぞ、存在しなくても構わない。


 けれど君達はその弱点に気づき、彼らに勝った。ならばこそ今改めて教えよう。


 君達の存在意義はカニクリームコロッケを作ることのみだ。

 それを、忘れるな。

次回でラストです。

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