03
ちょうちょはそのままそばに咲いていた花に止まると、羽をぱたぱたさせながらおいしそうに蜜を吸い始めた。
ちゅーって。
ちゅーって。
ちゅー。
ちゅー?
ちゅー。
ちゅー、かあ。
ちゅーしたら、痛いの、痛くなくなるかな。ちょうちょみたいに痛いのちゅーって吸ってみたら痛くなくなったりしないのかな。
でも、そしたらわたしが痛くなっちゃうのかな。
それはちょっと怖いかも。
でも、ずっと痛いままなのはかわいそうだし、本当にそれで痛くなくなるならしてあげたいなって思う。
だって、お姉ちゃんだから。
そう、お姉ちゃんだから。
我慢できるもん。少しくらい、痛くても。
「動かないでね」
そういって、わたしは寝ている妹の上に乗っかって。
おでこにそっとお口を当てて、ちゅーってした。
でも、吸っても吸っても、わたしはどこも痛くならなかった。
もっと吸ったほうがいいのかな?
妹の肩に手をやって、今度は思いっ切り、ちゅーーーーーーーって吸ってみる。
ちゅーーーーーーーって。
ちゅーーーーーーーーーーーーって。
「ふふっ、おねーちゃん、くしゅぐったーい」
妹がきゃっきゃっと楽しそうに笑う。
わたしはそっとおでこからお口を離した。
「もう痛くない?」
「あれ? いたくない。しゅごい! いたくない!」
と妹は嬉しそうにはしゃいで、
「あたちもちゅーする」
といって、今度はわたしのおでこにちゅーをした。
「もういたくない?」
ついでに言葉まで真似る。痛くないよ、というと、いたくないよ、と返してきた。くすぐったいっていうと、くしゅぐったいって笑い返された。
「真似っこ」
「まねっこー」
「真似しちゃダメ」
「まねちちゃだめー」
「ダメ」
「だめー」
「嫌い」
「きらーい」
「大嫌い」
「だいきらーい」
「……うそ」
「うそー」
「……好き」
「しゅきー」
「大好き」
「だいしゅき!」
「大大だーい好き」
「だいだいだーいしゅきっ!」
そこで妹は、おいしいものでも食べたみたいに笑った。短い髪がぱたぱた揺れる。さっきのちょうちょみたいに、ぱたぱたって。
ぱたぱたって。
かわいい。
本当にかわいい。
そう思ったら、もうかわいくてかわいくて本当にかわいくて仕方がなくなっちゃって。
ぎゅーって抱っこして、妹のほっぺたにちゅーってした。