02
「ほら、危ないっていったでしょ」
「あぶなくないもん。だいじょーぶだもん」
妹はわたしがそばに来たらすぐに泣き止んだけど、代わりにほっぺたをおもちみたいにふくらませて、ふん、と顔をそらした。
本当、かわいくない。
わたしもそっぽを向く。
向こうのベンチにママが座っていた。でもママはずっとすまほ、とかいうおもちゃで遊んでいて、わたしたちのことなんかすっかり忘れているみたいだった。
つまんないの。いっつもわたしばっかり妹のめんどー見て。
お姉ちゃんって本当に損だと思う。
「ねぇねぇ、おねーちゃんみてて。あたち、いまからしゅべりゅからね!」
いつのまにかすべり台に上っていた妹が、得意気な顔でそういう。
しゅべりゅって、すべるの?
ひとりで?
え、ちょっと待って。
そんな高いところからひとりですべったら危ないから。
ダメダメ。
やめて。お願い。止まって止まって。
でも、妹は両手を挙げてうひゃーと楽しそうに叫びながら、すべり降りてきた。勢いよく真下まできた妹はそこでちょっとひっくり返って、ごん――と頭を打ちつけた後、ようやく止まった。
急に静かになる。
今の音、なんかすごかったけど。
「だ、大丈夫?」
でも、妹は寝そべったまま、ぴくりとも動かなかった。
ビクンッ!
って感じで、わたしの胸の奥の何かが爆発しちゃったみたいに飛び跳ねた。
え? うそ? 死んじゃったの?
と思ったけど。
「……ふぇっえっ……えぐっ」
と息を吹き返したように、妹がまた泣き出した。
よかった、とちょっとだけ安心する。
もう、びっくりさせないでよ。
「あ、あだ……ふぇっ、あだま、い、いだい」
泣きたいならさっきみたいに泣けばいいのに、今度は変に我慢して、でも痛いことはわたしにいいたいみたいで、妹は鼻水まで垂らしながら、頭が痛いとなんどもそうくり返した。
「おでーぢぁああん」
ぐちゃぐちゃな顔で、わたしの手を取る。
ママを振り返ったけど、ママはまだおもちゃとにらめっこしていた。ゴミでも払うみたいに、指をすっすっとすべらせて。
その時ふと、おまじないを思い出した。そういえば、わたしもよくママにしてもらってたっけ。転んだりぶつけたりした時に。
わたしは妹に向き直り、ボールみたいなまんまるな頭に手を乗せた。ちょっとだけなでてから、じゅもんをいってみる。
「いたいのいたいの、とんでけーっ」
そしてさっと手を払う。
「どう? もう痛くないでしょ?」
「まだいだい」
「もう、わがままいわないの」
「だっていだいんだぼん」
そういって、またほっぺたをおもちにする。
仕方がないから、とりあえず鼻水を拭いてあげる。
その時、ひらひらと何かが目の前を通った。さっきのちょうちょだった。