表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/4

02

「ほら、危ないっていったでしょ」

「あぶなくないもん。だいじょーぶだもん」

 妹はわたしがそばに来たらすぐに泣き止んだけど、代わりにほっぺたをおもちみたいにふくらませて、ふん、と顔をそらした。

 本当、かわいくない。

 わたしもそっぽを向く。

 向こうのベンチにママが座っていた。でもママはずっとすまほ、とかいうおもちゃで遊んでいて、わたしたちのことなんかすっかり忘れているみたいだった。

 つまんないの。いっつもわたしばっかり妹のめんどー見て。

 お姉ちゃんって本当に損だと思う。

「ねぇねぇ、おねーちゃんみてて。あたち、いまからしゅべりゅからね!」

 いつのまにかすべり台に上っていた妹が、得意気な顔でそういう。

 しゅべりゅって、すべるの?

 ひとりで?

 え、ちょっと待って。

 そんな高いところからひとりですべったら危ないから。

 ダメダメ。

 やめて。お願い。止まって止まって。

 でも、妹は両手を挙げてうひゃーと楽しそうに叫びながら、すべり降りてきた。勢いよく真下まできた妹はそこでちょっとひっくり返って、ごん――と頭を打ちつけた後、ようやく止まった。

 急に静かになる。

 今の音、なんかすごかったけど。

「だ、大丈夫?」

 でも、妹は寝そべったまま、ぴくりとも動かなかった。

 ビクンッ!

 って感じで、わたしの胸の奥の何かが爆発しちゃったみたいに飛び跳ねた。

 え? うそ? 死んじゃったの?

 と思ったけど。

「……ふぇっえっ……えぐっ」

 と息を吹き返したように、妹がまた泣き出した。

 よかった、とちょっとだけ安心する。

 もう、びっくりさせないでよ。

「あ、あだ……ふぇっ、あだま、い、いだい」

 泣きたいならさっきみたいに泣けばいいのに、今度は変に我慢して、でも痛いことはわたしにいいたいみたいで、妹は鼻水まで垂らしながら、頭が痛いとなんどもそうくり返した。

「おでーぢぁああん」

 ぐちゃぐちゃな顔で、わたしの手を取る。

 ママを振り返ったけど、ママはまだおもちゃとにらめっこしていた。ゴミでも払うみたいに、指をすっすっとすべらせて。

 その時ふと、おまじないを思い出した。そういえば、わたしもよくママにしてもらってたっけ。転んだりぶつけたりした時に。

 わたしは妹に向き直り、ボールみたいなまんまるな頭に手を乗せた。ちょっとだけなでてから、じゅもんをいってみる。

「いたいのいたいの、とんでけーっ」

 そしてさっと手を払う。

「どう? もう痛くないでしょ?」

「まだいだい」

「もう、わがままいわないの」

「だっていだいんだぼん」

 そういって、またほっぺたをおもちにする。

 仕方がないから、とりあえず鼻水を拭いてあげる。

 その時、ひらひらと何かが目の前を通った。さっきのちょうちょだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ