歩かない?
「……」
「……」
「……」
三人ともが、沈黙する。
誰もが次になにをして良いのか分からない。そんな空気が漂う。
そこへ、ぽつり、言葉を落とした者が一人。
「黒花」
いろはだ。
「ちょっと、三人で歩かない?」
「え?」
「ううん。ちょっとなんてものじゃないんだけど、着いてきて欲しいから」
語りかけるような口調ではあったが、不思議と異を唱えることを許さない雰囲気があった。
駿平も、なにを思っていろはがそんなことを言い出したのか分からなかったが、黙って従うことにする。自分が言いたいことは全て口にしたのだ。後は、黒花の反応を待つだけになる。その過程で、いろはが介入してきても別に良い。
頭を冷やす時間も、欲しかった。
「じゃ、行こうか」
いろはの言葉を合図に、三人は歩き出す。
言葉を交わすわけでもなく、ただ、黙々と歩く。
川を越えて、住宅街を抜け、田んぼの真ん中を突っ切る。
ただ、歩く。
「あの」
「なに?」
「足が――」
「黙って」
「……」
二時間ほど歩いたところで、足が痛くなってきたのだろう。
黒花が口を開いたが、いろははそれだけで済ました。
途中、午後一時を過ぎた辺りで近くのファミレスにより、三人で昼食を取った。
「……」
駿平には、この時点でいろはがどこを目指しているのか分かった。
だから、いろはのペースが落ちてくると、先導を買って出た。
歩く。ずっと歩く。駿平たちの住んでいるところから、もう十キロ以上は離れている。
「駿平」
「どうした?」
「ちょっと休みたい……」
「さっき、昼食べた時に休んだだろ?」
「それはそうだけど……」
「黙って来い」
歩き始めてから四時間以上経っている。
駿平の足だって悲鳴をあげ始めているが、目的地はまだ先だ。
さらに一時間が経過した辺り、いろはが携帯を取り出して誰かに連絡していた。
おそらく、ルイ宛だ。迎えを頼んでいるはずだ。
「駿平」
「どうした?」
「なにしてるの?」
「歩いてるんだよ」
「どこに?」
「もうちょっとで着く。我慢しろ」
山が近くなったどころではない。
もうほとんど山の中だ。
両サイドには神社にでもありそうな立派な木々が立ち並んでいる。
たまに通り過ぎていく自動車の運転席から不思議そうな視線が送られてくるが、無視。
身体の節々が痛み、足の裏の感覚がおかしくなっている。これが夏だったらと思うとぞっとする。とっくの昔に熱中症で倒れているだろう。
荷物を持っていないことだけが救いだった。
「……」
「……」
「……」
誰も、何も言わないがこれ以上歩くのが辛いのは分かる。
もう日が暮れる時間に差しかかっている。
二十キロくらいは歩いただろう。
若いとはいえ、ウォーキングというのは疲れるのだ。
普段、特に鍛えることをしていない三人にとって、二十キロというのはあまりにも長い。
「そろそろか」
ゆったりとした登り道の先。
休憩所が見えてくる。
なにがあるわけでもない。ただ、雨よけの屋根がついている休憩所。
「あそこ?」
「ああ」
無表情にも限界があるらしい。
さすがの黒花も、ぐったりと疲れた表情を見せていた。
ふらふらになりながらも、一歩ずつ近付いていく。
「……到着っと」
着いた途端、気が抜けた。
三人でどっかとベンチに座り込む。
駿平、黒花、いろはの順番に座った。
「何キロあるんだっけ?」
「二十三キロ。六時間ちょいで来れたんだから、良い方だ」
「そっか」
そう、良い方なのだ。
最短の道を使って、ここまで二十三キロ。もし、途中で迂回していたら、もっと時間がかかっていたし、その分距離も多くなっていた。
「えっと?」
結局どうしてこんなところまできたのか説明されてない黒花は、首を傾げる。
駿平は、その答えを口にする。
「ここは、姉ちゃんが見つかった場所だよ」




