それは
「まず、さっきの質問に答えよう。ここの場所は会長が教えてくれたんだよ。部下だがなんだか俺もよく分からないけど、黒花の友達に会いに行くって言葉が気になって調べさせたらしい」
「そう」
「あ、いや、調べさせたらしいって言い方は良くないかもな。俺もいろはもそうするべきだと思って会長のその行動を止めなかったんだからな」
「分かった」
ある程度、検討はついていたのだろう。
黒花はあっさりと引き下がった。
「じゃ、こっちの番な。ここでなにをしていた?」
横からいろはが「一言だけの回答は無しだよ」と付け足す。
「さっきの人たちと喋ってたわ」
「喋ってたって、なにを?」
「それは二つ目の質問ね」
すました顔で黒花は拒否。
いろはが噛み付こうとしたが、「いいよ」と制す。こっちだってどうしてここが分かったかを説明しただけで、どうして探していたかを説明してないのだ。回答としては五分だろう。
「二人に質問するわ」
「なんだ?」
「どうして探していたの?」
これに答えるということは、黒花に面と向かって高齢者云々で自分たちがアタックしていたことを明かすことになるが、今更だろう。黒花だって気付いていたからこそ壁を作っていたはずだ。
「黒花があの二人と良くない話をしてるんじゃないかと思ってな。俺らにとって、あの二人はあまり気持ちよく見ていられる相手じゃないなからさ」
「良くない話?」
「ああ、高齢者とか、認知症とかに関する話だよ。あの二人はどうもそういう人たちをバカにしてるような節があるからな」
「それは――」
「おっと、それ以上は反則だな。こっちの質問だ」
黒花は目線で不満をあらわにするが、ルールはルールだ。従ってもらう。
「さっきの続きだ。あの男子二人と喋っていたとして、なにを喋っていた?」
「お年寄りのこと」
「高齢者についてか?」
「そう。あの二人に認知症の症状についてを聞いていたわ」
「なるほどな」
「質問よ。どうして二人はあの二人を毛嫌いするの?」
「簡単なことだ。俺やいろはの価値観とあまりにもズレているからだ」
「価値観?」
「ああ。特に、高齢者や認知症についてな」
「そう」
「質問だ。高齢者や認知症について聞いていたといったな。具体的にどんな風に聞いた?」
「高齢者は耳が遠くなるし、眼も悪くなる。いろんな病気にもかかるし、どんどん悪くなるばかり。認知症なんて頭がわけわかんなくなる病気で、同じことを何度も言う。つい数十秒前のことも忘れる。良いことなんてなに一つない」
「やはりというか、やれやれだな……」
「質問よ。二人は私をどうしたいの?」
「どうしたいもこうしたいもない。ただ、ちょっと考え方を変えて欲しいと思っただけだ」
「それは?」
「一度、グループホームに来て以来、全く来なくなっただろ。別に来いというつもりはないが、せめて避けるようなことはしないで欲しい。そういう話だ」
「そう」
「質問だ。黒花は、その二人の説明を受けて、どう感じた?」
「……」
と、黒花はそこで詰まった。
駿平が一番聞きたいところで、黒花は止まった。
あの二人がどんな説明をしようと構わない。
それはある意味事実であるし、否定はしない。
だけど、初めて会った日。
駿平は確かに言ったのだ。
将来、自分たちだってそうなる可能性がある。
決して、「変」ではないということを。
決して、そうなりたくてなるわけではないということを。
「それは――」
なのに、黒花は言う。
最も、言って欲しくない言葉を。
駿平が、絶対に聞きたくない言葉を。
「――気持ち悪い」
黒花の、澄んだ声が響き渡った。




