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たとえ記憶が消えたって  作者: 彩坂初雪
気持ち悪い
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正しいのかな?

「そんなわけで、私もなにがどうなっているのやら、皆目、検討も着かないのだ」

「……」

「……」

 無言でルイでの言葉を肯定する。

 あの男子生徒二名と黒花に接点などないはずだ。月曜日は駿平といろはが相手をしている間に黒花は先にどこかへ行ってしまった。一部始終を見ていたルイが来た時に既にいなかったのだから、会っているはずもない。

 その他の時間でもし会っているとすれば、火曜日の昼休みだ。いろはは教室に、ルイと駿平は屋上に留まっていたため、黒花の動向は不明だ。けれど、それにしたって休日に呼び出せるほどの仲になっているとは考えにくい。

「会長、念のため聞きますけれど、あの男子二名と黒花が実は旧知の仲だとか、そんなことってあり得ます?」

「ありえん。黒花が上草市へ来たのは今回が初めてだ。それに、黒花の行動はほとんど把握している。あの二名が黒花と接触していたということはたぶん、ない」

 たぶん、か。

 会っていてもおかしくはない。会うだけなら数秒、数十秒でも会ったということになる。

「でも、会長」

「なんだ? いろはさん」

「あの三人がどういう関係で、どこで知り合ったのかよりも、この状況はあたしたちにとってあまり良くないものでは?」

「ああ。そこがさっき大事だと言った理由だよ。黒花がどういうつもりであれ、あの男子生徒は君たち二人を毛嫌いしている。というより、バカにしている。今はまだ相手の話をほいほい聞けるような仲でなくても、あの二人が君たちに関する妙な噂を黒花に話していることは考えられる。そうなったら、考えを改めてもらうとかいう以前の問題になる」

 単純に嫌がらせなんだろうな、と思う。

 勢力争い、なんてつもりはあの男子生徒たちにはないだろう。黒花をどちら側に引き込むかで今後の展開がどうなるとか、そんなことを考えているはずはない。

「とにかく、ここで話しててもどうにかなるものじゃないですよ。なにか行動しないと」

 身を乗り出して言ういろはに、ルイも「そうだな」と賛成する。

 駿平も、異存はなかった。

「どうしてあの二人と黒花が知り合いなのかは後で考えるとしよう。今は必要以上に話をさせないことが先決だ。あの男子生徒たちは認知症について、間違ってはいないだろうが中途半端に知識を身につけている。変な吹き込み方をされてはたまったものじゃない」

「ですね。場所は分かりますか?」

「もちろんだ。この映像を撮ってるのは私の部下だからな。発信機の位置で簡単に調べられる」

 発信機なんて単語を平気で出さないで欲しい。

 華渓院家の組織は一体どうなっているのだろうか。

「追い払うだけなら君たちだけで十分だろう。私はここで引き続き動向を見る。なにか変化があれば携帯で伝える」

「分かりました」

 それが一番妥当な選択だ。

 ルイは生徒会長という役職柄、まだ水面下での出来事である今回の事態に下手に首を突っ込まない方が良い。あの男子二名だけなら、駿平といろはの二人のみで対処できる。

「善は急げだ。もう行きますね」

「ああ。頼むぞ」

 地図を印刷してもらって、いろはと共にルイの家を飛び出す。

 自転車に飛び乗って、全速力でこぐ。十分もあればつける距離だ。

「ねえ駿平」

「なんだ?」

 いろはは既に息が荒くなっていた。

 駿平はいろはに合わせて若干速度を落とす。

「これって、正しいのかな?」

「……」

「誰かの考えを違う方向に捻じ曲げようとしてる。昨日も同じようなこと話したけど、あたしたちは決して間違ってない。間違ってるとしたら、あの男子たちの方だと思う。でも、今あたしたちがしてることって、自分の価値観を人に押し付けてるだけじゃ――」

「いろは」

 駿平はキツめの口調で遮る。

「昨日は単純に難しいなって話だったから同意してたけど、今日のそれはダメだ。俺には肯定できない」

「どうして?」



「お前は、姉ちゃんがバカにされるのを、黙ってみてられるのか?」



 視界の端で、いろはが言葉に詰まるのを確認。

 そのまま、続ける、

「いろはの言ってることはある意味では正しいよ。よくある価値観の違いってやつならその通りだ。自分の考えを他人に押し付けるのは良くない。俺自身、他人の価値観を押し付けられたらと思うとすごく嫌だ」

 真っ直ぐと、前を見据えて駿平は言い切る。

「昨日、言ったよな。高齢者だから、認知症があるからって嫌いな人からも気にされるようになるなんておかしな話かもしれないって。けどさ、逆に考えろよ。じゃあ、高齢者だから、認知症があるからって、それが嫌われる理由になるのか? 俺は、絶対に違うと思う。

 俺たち三人は、黒花をグループホームに行かせることを目標とはしていない。もう一度、グループホームに行っても良いかもしれないと思わせることを目標としている。関われって言ってるんじゃなくて、考え方を変えてくれって頼んでるだけだ。せめて避けるようなことはしないでくれってお願いしてるだけだ。それが間違ってるとは、俺には思えない」

 向かい風でも、関係ない。駿平はひたすら、ペダルをこぎ続けた。

 少しだけ考え込むような間を空けて、いろはが応える。

「そう、だね。やっぱりおかしいよね。価値観がどうとかって言って、全部しょうがないかって言ってたらなんでも有りの世界になっちゃうしね。間違ってることは間違ってるって、はっきり言わなきゃダメだよね」

 そして、駿平を追い越すほどのスピードで爆走し始める。

「そうと決まったからには全速でいくよ!」

 切り替えの早いやつだ。

 いろははいつも、間違ったと思えばすぐにそれを正していく。いつまでもそれを引きずらない。中学時代、不良グループを作って遊び歩いていたのに、大切なところで一歩を踏み外さない。駿平がピンチとなるとすぐに戻ってくる。そこまで軽く考え方を変えられるのかと感心するほど、身軽に行動する。

この切り替えの早さは浅井いろはの、一番の長所だと思う。

「ちょっと待てって!」



 うっかりしていると見失ってしまうその背中を、駿平は追いかけた。


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