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たとえ記憶が消えたって  作者: 彩坂初雪
気持ち悪い
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理由なんてないんだよ

 その後、今後の方針をルイと駿平は話し合ったが、結局良い案は浮かばなかった。

 ルイも黒花に目をつけ、駿平たちにアタックさせるところまでは決めたものの、朝と昼休み二回ともはっきり断られるとは予想してなかったらしい。面と向かって馬鹿にしてくるようなタイプより難しいとは思っていたが黒花ならば駿平の提案には素直に従うと考えていたとか。「その原因は?」と尋ねると、いろはの意見とほぼ一緒。

 心のどこかでグループホームに行った時のことを引きずっていて、あまり関わりたくないと思ってるんじゃないか、と。

「それで、ゴールデンウィークに突入してしまったわけだが……」

「だね~」

 そして現在。

 ゴールデンウィークも既に半分が過ぎ去っている。

 二日目にルイの家にお邪魔させてもらって、適当に遊びつつ勉強会のような形にできないかと画策したのだが、その話題になると黒花が露骨に無言になるのだ。それでも強行しようとしたらイヤホンをつけて音楽を聴き始めてしまった。音漏れするほどの大音量で。

「さらに言うなら、今日も失敗だったわけだが……」

「だね~」

 今日、駿平といろはは住宅街の一番端にあるルイの家に再び訪れた。

 ルイの家はもはや豪邸という言葉すら生ぬるい、超、超、超、大豪邸なのだが、まあ、それは別に良い。

「今日はいけると思ったんだがな」

「あたしは微妙だと思ってたけどね」

「そうか?」

「だって、そこらの動物相手じゃないんだよ?」

 今日は四人で繁華街に繰り出した。

 黒花が欲しがったものをおごったり(お金はルイが出してくれた)、できるだけ黒花の要望に応えるように過ごした。その途中、黒花の機嫌が一番良さそうな時に図書館へと足を伸ばしたのだが、黒花は「帰る」と言い残して本当にそのまま帰ってしまった。ここまできっぱり拒否されると考えてもいなかった三人はその背中を見送るしかなかった。

 今日の作戦に名前付けるなら、餌付け作戦、だった。

「どうにかならないものかな?」

「どうだろうね。あたしたちはもともとこういう関連のことは諦めていたわけだし、簡単にいく方がおかしい気がするけど」

「そりゃそうだけど……」

 二人してうーんと首を捻る。

 実際、予想外ではあったのだ。見知らぬ他人ならまだしも、黒花のようにまがりなりにも友達と呼べる相手ならなんとかなるんじゃないかと甘く見ていた。

「ていうか、なんであんなに嫌がるんだ?」

「それはしょうがないでしょ」

「どうして?」

 聞くと、いろはは二本の尻尾を揺らして答える。

「逆に聞くけど、駿平は自分があまり関わりたくないって思ってることを他人から強要されたらやる? ううん。強要とまではいかなくても、暗に関われって言われたとして、関わる?」

「……そう言われると、微妙だな」

「でしょ? たぶん、これといった理由なんてないんだよ。単純に、なんか嫌だから。なんか関わりたくないから。それが理由じゃないかな? 誰だって嫌いなタイプの人っていうのはいるだろうし、関わりたくことはある。それと一緒だよ」

「つまりなんだ? これを普通の、そこらにありふれてることに例えると、嫌いな人に周りが無理に『関われ~』って言ってることになるのか?」

「そうだね。たぶん、あたしたちのしてることは、福祉関連だからって理由で肯定されるものだろうけど、本当はそうじゃないのかも。こういうのを価値観の違いっていうのかな」

 いろはは悲しそうな笑みを浮かべる。

 それっきり、どちらも喋らなくなった。

「……」

「……」

 夜道を、二人は無言で歩く。

 高齢者や障がい者が避けられている風潮をどうにかしたいと願っている。だから黒花に働きかけて、考えを改めてもらおうとした。ルイに協力してもらっている。

でも、自分には合わないタイプの人間だから避けるというのは日常的によくあるし、駿平だってすることだ。

 それを責められるだろうか。

 それをふざけるなと言えるだろうか。

 今回はたまたま、高齢者や障がい者という人が相手であるだけで、もしかしたら普通に行われていることの延長線上のことかもしれない。

 そうであるから、誰も直そうと思わない。

 そうであるから、避けるのは良くないと思いつつもなんとなく許してしまっている。

 ただ、高齢者が自分には合わないと思う人が多いというだけの話かもしれない。

「難しいな」

「そうだね」

「俺らがやってることは正しいんだろうけど、関係ない人にとってはただの嫌がらせだよな。関わりたくない人に無理に関われって言ってるんだからさ」

「認知症を持ってるからとか、高齢者だからっていう理由は結構、難しいよね」

「高齢者だから、認知症を持ってるからっていう理由で、嫌いな人からも気にしてもらえるようになるとか、それもおかしな話だもんな」

「高齢者はともかく、障がいを持ってる人たちなんて、むしろ変に助けてもらうより、自立した生活をしたいって思ってる人も多いらしいしね」

 同じタイミングで、二人してため息。

 自分たちの正しさを否定する気はない。高齢者だから、認知症を持っているからと避けるのは絶対におかしい。インフルエンザを患った人は心配するのに、どうして認知症だと避けるようなことになるのか。馬鹿にするようなことになるのか。

 それはやっぱりおかしなことで、正していかないといけないことだ。

「根が浅いからこそ大変というか……」

「こういう理由があるんです! ってはっきりしてればそれを解決して終わりなんだけどね」

 大抵の人は、きっと理由なんてないのだ。

 関わるのが面倒だからとか、なんとなく嫌だからというそれだけの理由。

「とりあえず、黒花へのアタックは続けようぜ。強要はしない形で、できるだけ本人が行っても良いかなって思えるようなアプローチの仕方でさ」

「そうだね。黒花にはうざいって思われるかもしれないけど、まだ終わりじゃない」

「そういうこった」

 とはいえ、逆に捉えれば、深い問題はないのだから、ゆっくりと活動しても良いことになる。もしも、対立関係がはっきりしていたらこんなに安穏と過ごしてはいない。ガンガンアタックして無理矢理にでもこちらへ引き込もうとするだろう。

 まだ時間はある、大丈夫と思える余裕が持てること。

 それは、大切なことでもあった。


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