ありがとうございます
「そこに、風穴を開けてくれたのが黒花だ。あの独特な性格からなのか、黒花は二人の間になんのためらいもなく踏み込んでいた。最初見た時は驚いたよ。具体的には、昨日の夜だね。面白い感じにまとまりそうだと言ったのを覚えているかい? あれはそういう意味だ」
「そういう意味?」
「つまり、黒花が二人と他の生徒を繋ぐ架け橋になってくれそうだという意味だ」
ルイはそこでゆっくりと立ち上がる。
「二人は今まで、二人だけで完結していたせいで、他の誰ともあまり関わりがなかった。だからというか、二人の話に耳を傾ける者も少なかったし、味方が増えることもあまりなかった」
「そこに、黒花がいれば違うってことですか?」
「そうだ。話題の転校生である黒花をもしもこちらへ引き込めれば、一気に噂が広がる。そうなればその近くにいる駿平君やいろはさんにも注目が集まるというわけだ」
素直に感心した。
ここまで物事を正確に、そして計算して動く人間は始めてみた。
「それに、他の人ならいざ知らず、多少なりとも仲良くなった人間が相手なら君たちは喜んで動く。見知らぬ他人にからかわれるならともかく、身内からそんな人間が出ることを良しとはしないだろうからな。それは、昨日、生徒会室でしっかりと確認させてもらった」
長い黒髪をたなびかせて、ルイはにこりと笑う。
「……」
なんだかよく分からないけど、やられたと思った。
この人には、勝てない。
流されて、当たり前だった。この二日間、いや、もしかしたらもっと長い時間駿平といろははルイの手のひらの上にいたのかもしれない。駿平といろはがどうしたら動くのか、どんな味方が必要なのか、なにもかも全てお見通しだったのだ。
「会長」
「なんだ?」
そんなルイに対して、出た言葉はただ一つだけ。
「ありがとうございます」
ルイが、いなければ一生、いろはと二人で悶々としていただけだったかもしれない。
異常なほどのカリスマ性。
生徒間でも生徒、教師間でもどこにだって割って入る行動力。
必要になるかどうかも分からないことを平然と、いくらでもやってのける努力。
その上、
「私にお礼を言うことはない。黒花が偶然このタイミングで転校してきてくれて、偶然、君たちが出会っていたというだけだ。偶然が重なったことにこそ感謝するんだな。私はそれを計算して、理論付けてみただけだよ」
普段はとんでもないほど偉そうに振舞っているのに、ここぞというところで自分はなにもしてないと言えるその器の大きさ。
華渓院ルイは、これ以上ないほど、有能で、完璧な生徒会長だった。




