だって君たち二人は
「……やれやれだな」
本当に、最近ため息が増えた気がする。
昨日、急展開でルイの協力を得て、自分たちの問題を解決していこうということになったが、駿平はそんなことができるのか半信半疑だった。
もともと、駿平は自分やいろはをからかってくる人間をうざったいとは思っていたけれど、考えを改めさせようなどとはこれっぽちも思ってなかった。漠然と、「理解して欲しいな~」くらいにしか思っていなかった。
ルイは知っているだろうけど、だいたいからして分かってもらおうとして失敗したことが過去にあるのだ。上草第一高校に入学してすぐ、駿平は仲良くなった友達に瀬名のことを話した。最初、その友達は「大変だね」と同情してくれているようだったのだけど、駿平が認知症について説明したところ「気味が悪い」と言ったのだ。それでカッとなってしまった駿平にも問題があったのだが、昼休みをまるまる使ってその友達と口論になった。先日、いろは口にした独演会もどきというのがこれにあたる。クラス中が注目する中、駿平は認知症について語りに語ったのだ。
「……」
今思い出すと、すごく反省する。
自分の家族のことを気味が悪いなどと言われて黙っていられる人間もどうかしているが、だからって熱弁したところでどうなるものでもない。興味がまるでない高校生たちに認知症がどうとか、理解してもらえるはずがないのだ。いじめに発展して当然の結果だった。いろはが以前、イライラしたことに対して噛み付く方が悪いのか、それとも最初に悪いことをした方が悪いのかという問いを発していたが、まさにそれがこれに当たる。どちらにも落ち度はあるのだ。
が、そんな風にしょうがないと諦めていた駿平の前に、突然、ルイという強力な存在が出現した。ルイの言ってることに間違いはないし、駿平もできるのならなんとかしたい。でも、あまりにも急な話でこの現実をどう捉えて良いのか分からないのだ。
駿平もいろはも、ルイの驚異的な行動力に流されているような、そんな感覚を覚えている。
「ふむ。そんな感じで二人きりになれたわけだが」
「うおう!」
人を背後から驚かせるのが趣味なんだろうか。
図書館にいるはずのルイが、いつの間にか背後に立っていた。
「やはりというか、誘導には失敗したようだな」
風になびく黒髪を押さえつつ、ルイ。
「やっぱりってなんですか? 最初から黒花を誘えないことが分かっていたような口ぶりですね」
「いや、そうでもない。私のカンでは五分五分といったところだったな」
ルイはおよそお嬢様とは思えない「どっこいしょ」という台詞とともに駿平の隣へ腰を下ろす。
「どういうことですか?」
「どうもこうもないさ。昨日は君たちにやる気を出してもらうために黒花が一番可能性があるということを言ったが、実は逆だ」
「は?」
「ああいうタイプが、一番やりにくい」
なにを言ってるのだろうか。
ルイがどういうつもりだろうが、駿平もいろはもルイの理屈には納得したのだ。だからこそ黒花を図書館へ連れて行こうと自分たちなりに頑張った。
「ええと、順番に説明してもらえますか?」
「ああ。もちろんそのつもりだ」
癖なのか、いつものニヤリという笑みを顔に張り付かせてルイは語る。
「いいか? もしもの話だが、昨日、君たちをからかっていた男子生徒を同じように図書館に誘ったとする。すると、結果はどうなる?」
「そんなの――」
断られるに決まってる、と言おうとして寸前で止まる。
もし、あの男子生徒たちのように心の底から駿平たちを馬鹿にしている人間なら逆に着いてくる気がした。なにがあるのか、自分たちの意見を変えられると思うのか。そんなことを喋りながらもきっと着いてくる。
馬鹿にしているからこそ、どうにかできるものならやってみろと、自分たちの提案をあっさり受け入れてくれそうだった。
「想像できたか? じゃあ、黒花のように、表面上はあまり出さないけれど、心のどこかであまり関わりたくないと思ってる人間ならどうなる? 黒花はそんなことはしないだろうが、陰口をするタイプの人間だな」
「……」
おそらく、こちらの提案には従わない。
遠巻きに陰口を言うタイプの人間はその事柄が自分に降りかからなければどうでもいいと思っている人がほとんどだ。駿平やいろはが近付いただけでそれとなく避けようとするに決まっている。
その理屈でいくなら、確かに黒花は難敵だ。
「だいたい、黒花が難しい相手だということは理解できたか?」
「一応は」
でも、そうだとするのなら、
「じゃあ会長はなんで黒花を選んだんですか? 難しいことが分かっているならもっと簡単な人にアタックしてみるということも考えられたと思いますけど……」
駿平の問いに、ルイはこれ以上ないくらいの『強者』の笑顔を見せる。
それから、こう言うのだった。
「だって、君たち二人は、それじゃあ動かないだろう?」




