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たとえ記憶が消えたって  作者: 彩坂初雪
黒花攻略作戦!
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今は?

「――だからさ。ちょっとの時間でいいし」

「……」

 いろはが説得を続けているが、ついに黒花は興味なさそうに黙り込んでしまう。

 駿平はいろはと視線を交わして難しい表情をする。

「教室に戻るわ」

「あ……」

「……」

 止める間もなく、黒花は立ち上がると屋上から出て行ってしまう。

「ダメだなありゃ。朝からどうにも機嫌が悪くてさ」

 駿平が肩をすくめて言うと、いろははあごに手をやり「そうかな?」と言う。

「なんだ? なんか引っかかることでもあったか?」

「ううん。表面上は、駿平の言うとおり、たぶん機嫌が悪いってだけの話だと思う。だいたい、どうして図書館に行こうとしてるのか説明してないし、今は、めんどくさいとかそういう理由だけだと思う」

「今は?」

 いろはの言い回しに引っかかりを覚える。

「そう。今はただ、めんどくさいっていうだけで断ってるような感じだったけど、あたしはそれだけが理由じゃないと思うよ」

「どして?」

「ほら、昨日、会長が高齢者云々て会話をしてる途中で黒花だけを強引に帰らせたでしょ? その理由まで気付いてるとは思わないけど、無意識のうちになにか壁を作っちゃってるのかも……」

「分かりやすく言うと、警戒してるってことか?」

「うん。黒花は、グループホームの利用者を『変だ』と思ってる。そうでなくても、高齢者たちが多くいる場所にいると息苦しく感じたって話でしょ? あたしたちと一緒にいると、また接しなきゃいけなくなるかもしれないって考えてるのかもしれない」

 あり得る話だった。

 食わず嫌いとはよく言うが、それと似たような現象が起こっているのかもしれない。たった一度の経験や憶測だけでそれが嫌いだ、嫌だと決め付けてしまい、もう関わりたくないと思う。

 そういう悪いイメージを取り除こうと駿平たちは動いているのだが、ここまで明確に拒否されると打つ手がなくなる。作戦では、まず図書館に行って、正しい知識を身につけてもらうことが第一段階だ。その後、駿平たちがグループホームの人たちと接してきた中で起こったエピソードを話して苦手意識を和らげることが第二段階。そして最後に再びグループホームへ行ってみようかなと思えるような雰囲気を作るのが第三段階だ。

「この調子じゃ、会長は無駄足かな?」

 弁当箱に最後まで残っていたたくあんを口へ放り込む。

 ボリボリという感触が心地良い。

「かもね。放課後、気が変わっててくれることを祈るしかないかな」

 ルイは現在、図書館で本を物色中だ。

 本来ならば、一緒の家に住んでいて、おそらく誰よりも黒花と親しいルイが図書館へ誘うのが一案効率が良い。駿平やいろはではなかったら、既に黒花を図書館へと案内しているかもしれない。

「しっかし、黒花を誘っておいてどうかと思うけど俺、本って苦手なんだよな」

「あたしも」

 けれど、黒花を図書館へ連れて行ったは良いものの、どの本を見せればいいのか分からないでは話にならない。そのため、本、とりわけ教科書や参考書といった類が苦手な二人が黒花の誘い役となっているのだ。

「そんじゃ、ここらで解散か。まだテストあるんだろ?」

「うん。ごめんね。本当なら放課後の作戦会議とかしたいところなんだけど」

「いいって。そのきんきらした頭で中身も空っぽだったら話にならないしさ」

 冗談のつもりで口にすると、

「……なんか言った?」

 髪を解いてないだけで明らかに臨界突破している顔で凄まれた。

「イエ、ナンデモアリマセン」

「そう。ならいいけど」

 いろはをからかうのは命がけだ。

「じゃあね」

「おう」

 弁当箱を片手にいろはは駆けて行く。

 選抜クラスというやつはなかなかに大変そうだった。


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